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教訓その二十二〜覚悟を決めろ!


『かっ、一葵ーー!!』


最後尾を走っていた一葵は、地面に倒れている人に足を躓けて転んでしまった。


くそ…ドアはすぐ目の前なのに。


既に校長、ヒナ、レイナはドアまで到達していた。


俺もあと一歩の所まで来ていたのだが、一葵一人置いて行く訳にもいかない。


急いでUターンし、一葵の元へ駆け寄る。


幸い、門番は俺達に気付かなかったのか、邪魔者は居なかった。


『怪我は?』

「すまん。特に問題なしだ。行こう」


一葵は立ち上がり、ドアまで残った僅かな距離を全力で駆け抜けた。



「早くー!」


ヒナ達がドアを開け待機。俺と一葵が建物の中に入った瞬間にドアを閉めてくれた。


なんとか侵入成功だ!







「……ぷっ、…あは、あはははは!」




安心するのもつかの間。建物の中には、一人の女の子が座っていた。


椅子に腰掛け、俺達を見て大声で笑ってる。


『何か面白い事でもあったのか?』


「ゴメン…無理! アンタ達必死過ぎてさ…ぷっ…」


相変わらず笑う事を辞めない女の子に、苛立ちを感じた。腹立たしいとはこの事を言うのだろう。



女の子は俺達と、さほど年齢は変わらない顔立ちだった。なのに、どこか人を見下した様な冷たい瞳だ。


「何笑ってんだテメェは! 俺か? 俺がコケたのが面白かったのか!?」


「うん、まぁそれもあるよね」


「うん、もう立ち直れねぇ!」


とりあえず一葵は無視しておこう。



この女は敵だ。


そう判断して良いだろう。


「アンタ達、ホント馬鹿よねー。もう最っ高に面白いわ! その必死な顔! あーん、写メ撮っとけば良かったよー」



どうやら俺達が可笑しくて仕方ないらしい。


『友達を助ける為に必死になる姿が格好悪いか?』


「違う違う! ってか勘違いし過ぎ! そんな必死に走って来なくても《アナタ達》は普通に入って来られるっての!」


…は? 何言ってるのか全然分かんねぇよ。


「《マスター》はアナタ達に用があるの。なのに建物に入る事を邪魔する訳ないでしょ? なのに、何を勘違いしたか、アナタ達の先生は馬鹿みたいにはしゃいじゃってさ! いい? 門番に下された命令は《指定された人間以外の侵入を阻止する事》。つまり、アナタ達の努力はぜーーーんぶ無駄なの。わかりる?」



女の説明を聞いて絶句した。それでは、本当に先生方の努力が無駄になってしまうではないか。

……はは、マジ…かよ。



「うんうん、良いよその絶望感に満ち溢れた顔! じゃあね、あとね、もっと良い事教えてあげよーかー?」



笑いを堪えつつも、その女は聞いてくる。


語尾を伸ばす口調が気に入るらねぇ…。




「なんでウチの門番は、銃を使わないか、分かるかなー?」



そう、それは俺も疑問に抱いていた事なんだ。


これだけ大掛かりな仕掛けに人数。


なのに銃を所持していないのは変だ。


もはや誘拐の犯人グループの一員なのだ。この時点で既に犯罪の領域に達している。


ならば銃だろ。現実的に最強の武器だ。


入手できなかったなんて事はあるまい…。


という事は所持していないのではなく……


『使わないだけ…か?』



「ピンポーン。正確には使えない。万が一、流れ弾がアナタ達に当たったら大変だもの…」




つまり、俺達は労せず侵入できたんだ。だがいかんせん空回り。自滅も良いところだ…。


一葵が転んだのに、門番が俺達の邪魔をしないのも変だった…。



「でもねー、アナタ達はもう入ってきたでしょー? ってことはね、《ウチの連中も使うかも…ね?》」



『先生!!』


慌てて振り返り、ドアノブに手を伸ばす。


先生達は関係ないんだ!

ユキは俺達が連れ戻す。

だから、先生達はもうーー


『開け…開け……おい、開けろよこのドア!』


開かない。どんなに力を込めても、ドアノブはピクリともしない。


「無理無理。そのドア外からじゃないと開かないし」



その時、外から大量の銃声が響き渡った…。


先生方の使っていた銃の音とは違う気がする…。




「無駄死に…っていうのかな? でしゃばるから悪いんだよー」



ーーあ?

今なんつったこの女?

無駄死にだと?



「ジン。俺もうダメだ」


『一葵落ち込み過ぎ。いくらこの女に馬鹿にされたからって今はそれどころじゃ…』



「俺我慢できねぇ。コイツぶっ飛ばす」



……冷静になれって注意した張本人のくせに。



ま、さすがに限度ってもんがあるよな。



俺の堪忍袋もとっくに限界突破してるし。




「罠は全部で三つ」



俺と一葵が一歩前に足を踏み出した時、それを阻止するように女が言う。



「私が預かったマスターからの伝言よ。《罠は全部で三つ。それに気付かなければ友達は死ぬ。私と答え合わせできるのは一人》……以上。残念ながら罠の内容は私も知らない。脅しても無駄よ?」



トラップ…?

しかも三つ………ってか死ぬ!?



おい、冗談じゃねぇぞ!

友達は死ぬって…まさか、ユキを殺す気なのか!?


無傷で帰さないと言われ、ある程度の暴行は覚悟していたが、殺すまでは予想外だ。


この野郎…マジで許せねぇ…。



『マスターの所まで連れてけ』


「さっきから男共うざーい。私が用があるのはーー」



フッ……と、風が通り抜けた。


一瞬の間に、ついさっきまで目の前に居た女の子が消えた。


『ーーなっ!?』


「雑魚に興味はなくてよ?」


いつの間に俺の背後に…?



有り得ない。人間が熟せる業ではない。



俺達五人は女の子に対して《平行に横一列》に並んでいる。ましてや、俺は中心に居るのだ。



しかもコイツは椅子に座っていたんだぞ?


それを、あの体制から一瞬で背後まで回り込んだだと…?



動きが全然見えなかった。何者だよ…。



「あんま調子のらないでよ。《人間暗機のサキ》」



「あら、居たの? ゴッメーン。アンタちっちゃいから見えなかったわ」



やべぇやべぇ。

何か俺の背後で修羅場。


一瞬で背後まで回り込んだ女のさらに背後にヒナが回り込んでるよ…。


もう何て言うかやべぇとしか言えねぇよこの状況。



「アナタ達、そこの階段で上の階に行きなさい。私の任務は《指定された人間を一人だけ排除する事》。ま、相手がチビヒナじゃ不足だらけだけど……ねっ!」



ヒナとコイツは知り合いなのか、お互いの実力を知っているみたいだ。さっき《サキ》とか呼んでたし。



「アタシの事ご指名か。ま、良いよ。サキには色々と仇返しがあるし」



仇返しか。恩返しじゃないあたり、どうやら二人はライバル的存在らしいな。おそらく過去に何かあったのだろう。


「ヒナ一人置いて行くのは危険だよ!」



レイナがヒナに言う。確かにそうだ。


サキが相当な実力者である事は、先ほどのスピードを見て一目瞭然。


今の状況からして、明らかに話し合いで解決できる展開じゃない。


しかも、サキの口から殺すと言う言葉が軽々しく出たのだ。危険すぎる。



確実にサキはヒナを殺す気でいる。



マスターとやらの命令が絶対的だとしたら、門番とサキに与えられた任務に不安要素が浮かび上がる。



門番は先生方の侵入を阻止。つまり、食い止めれば良い。建物の中に入れなければ良いのだ。


相手の動きを止める。動けなくする。方法は様々。



だが、サキの任務はヒナを排除する事。この違いは大きい。




さらに、そんな重要な任務を託されている。門番よりレベルは遥かに上のはずだ。


それを、こんな同年代の女の子が…だ。



「大丈夫だよ、心配しないで。すぐ追い付くから!」

「ヒナ…お前それ死亡フラグって言うんだぜ」

「一葵くんは黙ってて。ヒナ、私達も残って、皆で進みましょう」



うん、なんか一葵スルーされてたね。



ま、レイナの意見には俺も賛成だな。別に王道通りにサシの勝負じゃなくても良いはずだ。


女一人に五人掛かりは卑怯かもしれない。


だが、コイツは誘拐犯グループの一員だ。卑怯だなんて言わせない。



「ううん。ユキが酷い目にあってるかもしれない。こんな所で足止め喰らう訳にもいかないでしょ?」


……確かにヒナの言う通りかもしれない。


でも、だからと言って友達を置いて行くわけにもいかないだろう…。



「へーき。こんな外道、アタシ一人で充分だよ」


言葉とは裏腹に、表情に優しさはなかった。


それがヒナの覚悟。


普段の優しさを怒りに変えた。その怒りは、そのままサキに向けられた。


ヒナが言うのだ。一人で事足りると。


ならば任せる。それも、俺達の覚悟なのならば。


『行こう、レイナ』



レイナの肩に手を掛け、上の階へ通じる階段の方を向く。それはつまり、ヒナに背を向けるということ。同時に敵に背を向けるということ。



任せろと言われた。だから、ここはヒナに任せるんだ。



敵に背を向ける事は怖くない。なぜなら、ヒナが居るのだから。




「…………分かりました。行きましょう」



レイナも表情を決める。

そして、敵に背を向けた。


俺達は階段へと向かい歩を進めたのだった。

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