教訓その十九〜KYって何の略か知らなかった!
「どうぞ、上がって下さい?」
『お、お邪魔しまーす!』
俺はレイナに誘われるがままに、部屋へと上がらせてもらった。
うん、部屋の造りにたいした差はないな。
女の子の寮だからと言って、この学校は特別扱いなどはしていないわけだ。
…と言っても、男子部屋にも十分過ぎる程の設備が施されているので、これ以上はいじりようがないか。
「あれ、レイナ早かったねー。コンビニ行くんじゃなかっ………あ、ジン君!?」
「何!? ジンが来たのか!?」
玄関にヒナとマヤが出てきた。え? 三人部屋なの、ここ?
ここじゃなんだから、と言って、レイナは俺をリビングまで案内してくれた。
花柄模様や、ピンク色などが主体となった飾りは、女の子らしく可愛いらしい。
今日この部屋に来たはずなのに、ぬいぐるみなどが綺麗に飾られている。
「はい、雑誌。あと紅茶で良かったかしら?」
ソファーに座っていたところに、レイナが例の雑誌と紅茶を持ってきてくれた。
『お、いただきます』
俺はコーヒーより紅茶派なので嬉しかったりする。
…うん、うまい。
しかし何だな…。
雑誌を取りに来ただけなのだが、ちゃっかりと紅茶まで飲んでいる。
俺も帰って準備をしないといけないのだが、すぐに帰るのも悪い気がするな。
「んで、何しに来たんだよ」
マヤが俺の向かい側の床に腰掛け、同じ紅茶を飲みながら話し掛けてくる。
『いや、この雑誌を取りに…』
「ジンはツンデレが好きなのか?」
『これは一葵のだ!』
誤解されては困る。そもそもツンデレとは普段はツンツンしてるけど、稀にデレっとした態度を取る、という様と認知しているが、そのような性格を好むようなら、マゾではないか。
『俺はツンデレなど好きじゃないのでね』
「えー、本当に?」
ヒナが意地の悪い笑みを浮かべ、俺の顔を覗き込んでくる。
『本当に』
俺がそう答えると、ヒナは表情を曇らせる。
「じゃあ帰れば?」
『……え?』
俺の中でのヒナのイメージは、常に明るく、人なつっこいというものだった為、急変した態度を取られ何やら怖くなってきた。
ヒナが俺に浴びせた目線は、先ほどデブロン毛に向けられた冷たさと似ており、物凄く悲しくなってくる。
『……え、ちょっとヒナ…いきなりどうしーー』
「だからもう帰りなよ! どうせ一葵君に部屋変えの支度任せっきりなんでしょ!? 馬鹿、カス、この穀潰しが…!」
うわー何か知んねぇけど俺ボロクソ言われてるよ駄目だもう死にてぇ。
『わっ…分かったよ。帰るよ…』
「………え、本当に帰っちゃうの……?」
くはぁ!
な、なるほど…これがツンデレの破壊力というわけか…。
「あははー、ビックリしたー? この雑誌に書いてあったの真似してみたのー」
いや何かもうビックリしましたよ。
「ちなみにマヤちゃん、ツンデレ度百点満点だったよね」
「いっ、言うなぁー!」
なんだツンデレ度って…。
あ、この雑誌のページにあるのか?
俺は手元にある雑誌をパラパラとめくってみた。
すると、出てきましたよ。
《あなたのツンデレ度チェック》
という記事が。
なになに、えーっと…
『好きな人の前では見栄を張ってしまう』
「ふん、そんなもん《イイエ》に決まってる」
「マヤちゃん昨日と解答が違ーう♪」
「見えっ張りですねー」
『よし、そんなマヤを今日から三栄晴と呼ぶ事にしよう』
「誰だよ! ふざけんな!」
その後一時間程雑談を交わし、一葵の事が気になったのでそろそろ帰ろうかなー…と思い、腰を上げた。
『じゃあそろそろ帰るわ。紅茶、ごちそうさま』
「あ、ジン君…ちょっと待って…」
レイナに呼び止められた。
何か俺に用でもあるのか?
はっ…! もしや本当に俺とレイナにフラグが…!?
「ヒナ、マヤちゃん。ちょっと…」
「うん。分かったよレイナー」
レイナがヒナに目をやると、ヒナとマヤはそそくさと部屋から出ていった。
リビングに残されたのは俺とレイナの二人っきり。
まっ、まさかの展開ですか?
「あの…今日ジン君に来てもらった本当の理由はですね、大切な話があるからなんです…」
レイナが、どこかしら緊張の面持ちで話し始める。
どうしよう。俺まで緊張してきた。
『はっ、はい。なんでしょうか?』
なぜか俺まで敬語になってしまった。
「じっ、実は…私はジン君のーーー」
事が好きなんです!
って来るのか!?
「おねーー」
「ジーーーーーン!!!!!!」
レイナとの会話は、突然現れた一葵によって遮られた。
うわマジKY。
ホント空気読めてないわこのオッサン。
ん? もはやKYって使う人いないか?
そうさ、時代は常に流れていくのさ。
きっと後数年も経てば、流行語なんて死語になってるに決まってる。
そんで俺の存在も、死後には忘れられるに決まってる…。
お、上手い事言ったな、俺!
『そんな慌ててどうしたKY』
「KYって《一葵・ヤベェ》の略だって知ってた?」
知らなかった!
『まぁ冗談はさておき。本気でどうした? そんな汗びっちょびちょのぐんにゃぐにゃのべったべたで。今ならデブロン毛と五分る勢いだぜ?』
「ジン…落ち着いて聞けよ…?」
『何だよ、そんなマジな顔して』
「ユキが………誘拐された」
ーーーーーーえ?