教訓その二〜人を見かけで判断するな!
「はじめまして、ジン君」
先客はヤクザだった。
恐ッ! つか何この状況!?
『…え?……は?』
「あいさつは基本じゃろがい!!!」
『ヒィ!すいません!』
むりむりむり!
マジ恐いよこの人。
なんで学校にヤクザがいるの?
「明日から我が校に入学するんだってな」
は? 何それ?
そんなの聞いてねぇよ!
「補導回数六回、内一回が煙草、原付き無免許が一回、自動二輪無免許が一回、暴走行為が三回…か。ククク、随分と派手やのぉ」
うわーゴメンなさい。さっきから冷や汗が止まらねぇ。
警察と一対一より緊張するよ。
何この威圧感は…。
「じゃあ、早速…」
『え?あの…どちらに?』
「ちょっとここからは遠いからのう。学校に寝泊まりしてもらう」
『はい?あの…あなたは?』
「ワシは孤羽以 厄丸。貴様がこれから通う高校の校長だ」
嘘…絶対アンタヤクザでしょうが。
「ま、昔はヤクザだったがな」
やっぱりぃ〜!
「貴様が手の付けられない生徒だと報告があってな。ま、今までの行為を反省するんだな」
先生…ゴメンなさい。
もう真面目になります。
だから勘弁してください。
「貴様に似たような奴ばかり集まった学校じゃ。すぐ溶け込める」
うわ、ヤンキーだらけ?
…待てよ?
実はそういう人間のクズばかり集めて俺らをヤクザにするってオチか?
行きたくねぇ…。
結局、俺は厄丸校長に連れられ、校舎に止まっていた黒のベンツに乗り込んだ。
厄丸校長と俺は後ろの席へ。
運転席には活きのいいヤンキー兄さんが乗っていた。
こいつも恐ッ!
アイパーでソリコミばっちりじゃん!
「担任のヤスだ。宜しく」
…まるで獲物を狩る目ですね。
『は…はい』
「ククク、返事できるようになったじゃねぇか」
はい、そりゃもう。
「ま、このヤスって奴も、昔は返事できなかったからな」
「組長〜昔の話は勘弁してくださいよ」
組長!? やっぱり現ヤクザだぁ〜!
「組に入りたてのヤスが返事できないだけで殺されかけてたからな」
ガハハと笑う組長…いや、校長。
返事できないだけで殺されかけた?
ダメだ。帰りてぇ。
ここ5分くらいで俺だいぶ疲れたよ。
「よろしくね」
そして助手席からは、感情のこもっていない音程を一定を保ち、素っ気ないあいさつをする女の子……
『……あ!!』
マジか? 昨日の女の子じゃん。
「ん?ユキを知ってるのか?」
ユキ? ユキって言うんだ、この子。
『え…っと』
「組長の娘さんだからな、手ぇ出したら分かっとるよなぁ」
「ヤス、大丈夫じゃ。なぁ、ジン?」
むむむむ娘様ですか?
『ははははい!もちろんです』
「ついでにユキのボディーガードになってもらおうかのぉ」
「こんな奴にユキさんが守れますかねぇ?」
「いやよぉ…昨日ユキが高校生に煙草のポイ捨てを注意したら、現場に警察が来て、ユキが煙草を吸ったって誤解されたみてぇなんだよ」
「マジっすか?」
「んで、当の本人はユキに責任押し付けて逃げたとか」
「マジそいつ見付けだして半殺し…いや、全殺しにして埋めましょうや!」
うん、冷や汗が止まらないや♪
バレませんようにバレませんようにバレませんようにバレませんようにバレませんように…
「ユキさん!どうゆう奴でした?」
言いませんように言いませんように言いませんように言いませんように……
「……………忘れた」
セーーーーーーフ!!!
首の皮一枚繋がったあ!
マジ恐いぃ〜。
膝に力が入らねぇよぉ。
「思い出したらいつでも言って下さいね。じゃ、行きますよ」
そしてヤスさんの運転の元、その《ヤクザの学校》に着いた。
先生全員ヤクザ。
生徒全員ヤンキー。
だが、生徒は容姿は恐いが、内面は真面目だった。
授業も真面目に受け、掃除も綺麗に熟している。
「よ、不幸な転入生くん」
まだ戸惑う俺に話し掛けてきてくれたのは、ドカンに短ランでリーゼントの男だった。
「姓は斎藤、名は一葵。人読んでサイトウイッパツと名乗っております。どうぞヨロシク!」
……変な奴きた。
たしかに一葵って一発って読みそうになるよな。
『い…一発でいいのか?』
「あぁ、気に入ってるしな。それよりお前…ジンだっけ?何やったんだ?」
『何って…別に何も…』
「してねぇわけねぇだろ?ここに居る奴らは全員、過去に何かやった人間さ」
グサッと、今までの悪事が身に染みた。
俺は一発に全てを話すと、やっぱりかぁ〜と笑っていた。
この学校のルールも聞いた。
一、サボり厳禁。
二、改心するまで卒業は認めない。
三、年齢は問わない。クラス分けは年二回。
四、外出時は許可を得る事。
この学校の生徒は全国から集められただけあって、全生徒が寮に入れられる。
よって24時間体制で見張られているわけであり、自由がないのだ。
…問題は三だ。クラスはA、B、C…と分かれていて、Aクラスになれば、卒業試験を受ける権利が与えられる。
三つのクラスは、さらにA−1、A−2…など、四つに分けられる。俺はC−4だ。
夏休みや冬休みなどの長期休みは一切なし。夏、冬の年二回、クラス替えが行われるが、毎回毎回、クラス昇格の為にやる事は内密らしい。
早ければ二年間で卒業する事ができる訳だが、年齢は関係ないので、改心の様子がなければ永遠に留年というわけである。
『なる…ほどね』
「後な、校内恋愛…すなわち、スクール・ラブは公認されている。……が、ここの女共は普通じゃない。気を付けな」
意味深な言葉を残して、一葵…もとい、いっぱつ君は去っていった。
普通じゃない…って、見た目は皆普通だし、可愛い子だって多いじゃないか。
女の子のヤンキーなんて、パーマでロングスカートのイメージがあったが、いやはや…ミニスカに今時のメイクなど、普通なJKじゃないですか。
年齢制限はないと言っても、たいして歳の差は離れてないみたいだ。
「やっほ!転校生くん!」
背中を叩いて挨拶してきたのは…赤みが掛ったショートの髪に、クリクリした瞳の幼い顔立ちの子だった。
う〜ん…まだ未発達な部分からして、年下かな?
何せこの学校は年齢関係ないからな。
「アタシ、五十畑 妃茄。ヒナで良いよ!君は?」
『あ…只野 仁。ジンで良いよ。え…と何歳?』
「十六歳。高校一年生だよ♪」
嘘! 俺より年上かよ。
「あ〜敬語とか辞めてよね。そゆの苦手だから〜」
無邪気な笑顔で微笑んでくれたヒナ。やっべ、めっちゃ可愛い。
「ヒナ、廊下に群れてる野郎共をどうにかしろよ!」
ヒナに大声で叫んできたのは、ボリュームがあるロングヘアーは明るい茶色で、目がキツイ子だった。
なんか恐い雰囲気だ。
「ヒナた〜ん!こっち向いてぇー!!」
キモッ!!
廊下にはザッと数えて十人くらいの男達がヒナを見に、わざわざ教室まで訪れてきていた。
「アハハ…あの人達しつこいんだよね」
苦笑いのヒナ。どうやらこの学校のアイドル的存在のようだ。
「あたいは船戸川 麻弥。以上」
冷たいな!
まぁ…仲良くしようとも思ってないから別に良いけどね。
「マヤちゃん怒ると恐いから…。目ぇ付けられないようにしてね」
『ご忠告どうも』
「ヒナ!早くこのむさ苦しい奴らどうにかしろ!」
「はいはぁ〜い…」
マヤに怒られたヒナは、いそいそと廊下に出ていった。
ヒナが廊下に出た瞬間に、まちぼうけしていた男からは歓喜の声。
その大音声に苛立ったのか、マヤはチッ…と、舌打ちをした。
「何見てんだよ…」
あ、マヤに絡まれた。
『別に見てねぇよ』
「あたいに向かって、その口調…気に入らないね」
最初はこの学校の事で戸惑っていたが、こんな女相手に俺はペコペコするような人間じゃない。
『随分と偉い様だね』
俺だって喧嘩大好きだぜ。まぁ、そのせいでここに連れてこられたんだが…。
「てンめぇ…」
男顔負けのメンチを切りながら、俺の胸ぐらを掴むマヤ。
うん、さすがに殴るよ?
相手が女子供だろうが関係ないもん。
気に入らない奴は殴る。
俺が拳を振りかぶったその時…
「ちょ…辞めて下さい!」
メガネを掛け、艶のあるストレートな髪のおとなしそうな女の子が、俺達の間に割ってきた。
「なにすんだレイナ」
レイナ…と言う名前らしい。
「喧嘩がバレた場合、ペナルティーがありますよ」
「……うっ」
強きなマヤでさえ、ペナルティーと言う言葉を聞いただけでおとなしくなってしまった。
そんな酷い罰でもあるのか…?
「私は速水 麗奈。レイナって呼んで下さい」
『おう』
レイナのおかげで、俺達はペナルティーを避けられた訳だ。マヤは気に入らないけど、まぁ良しとしよう。
「このクラスの委員長なので、分からない事があったら、何でも聞いて下さいね」
そう言ってレイナはニコッと俺に微笑んでくれた。
しかし、この学校は解らない事だらけだ。
一葵やマヤは見た目や性格が悪いから、問題児と言う事は解る。
だが、明るくて人なつっこいヒナや、知的で育ちも良さそうなレイナが、何でこんな学校にいるんだろう…。
それに、なぜ二人がCクラスなんだ? レイナに至っては勉強もできそうなのに。
「フフフ、不思議だなぁ〜みたいな顔をしてるね、ジンくん」
うわぁ…また一葵きた。
「確にヒナは良い子だぜ。だが…見てみな、ヒナに触ったキモ男くんを…!」
は? …と思ったが、廊下に顔を出してみる。
「ヒナちゃ〜ん」
「アハハ、ヤダァ〜」
ヒナがキモ男くんを軽く叩いた。…と、そこまでは肉眼で確認できた。しかし、その刹那…
ヒュン……と、耳元で風を切る音がした。
『………はい?』
何かが高速で通過した。
その方を見ると、十メートル先まで、さっきまでヒナの隣にいたキモ男くんが飛ばされているではないか。
「ヒナは殺し屋の娘さ。幼い頃から裏の世界で生きているし、修行もつんでいる」
『…って、事は…過去に人を殺したから、ここに連れてこられたのか?』
「別にそうじゃない。普通の子の様に外で遊び回る事が出来なかったヒナが、学校行きた〜いと、ワガママ言ったらしい。この学校に来たのは自分の意志さ」
ヒナ…あんな可愛くて元気な子が…殺し屋!?
『じゃ…じゃあさ!レイナは?何でここに?』
「あぁ、レイナはIQが180の超天才児でな。しかし親が裏組織の化学者だったんだよ。それで、助手として働いていたが、両親が捕まり、行く宛てを失ったレイナは、この学校に引き取られたのさ」
なんか複雑な事情を持っている子もいるようだな。
俺みたいに不祥事を犯した奴だけじゃないみたいだ。
両親が裏の人間だから、子供も裏…と、いうのを救おうとしているのが、このヤクザの学校なのかもしれない。
『ちなみに、一葵は何やったんだ?』
「あぁ〜万引きとか窃盗とか」
ショボ!