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教訓その十五〜『愛』とは名ばかりだ!


「ってわけでさ、俺はさくらって子の為に、借金取り相手に麻雀打ったわけよ!」


一葵の過去の話。それをようやく、本人の口から聞く事ができた。



俺が今まで疑問に抱えていた、一葵の能力。どうやら一葵自身もよく分かっていないらしい。


読めるから読める。

おそらく天性の才能なのだろう。



『そ、そんで結果はどうなったんだ?』


「うーん…勝ってはいない。でも、負けじゃない。……引き分けかな?」


『……引き分け?』


「あぁ。一対三の状況で俺は圧勝してた。でも、相手が相手だろ? 中学生に負けるなんて許されない。ましてや大金がかかってりゃ尚更な。それで暴力で圧をかけてきやがった」



…そうか、よく考えりゃ中学生がそんな集団の中に自ら行くなんて、自殺行為も良いところだ。



『でも、引き分けってどういう意味だ?』


「あぁ、俺が殴られてるところに、相手団体の親玉さんが登場してな。筋を通す人だったから助かったんだ。それで、さくらの借金はなくなった」


『すげぇ! 一葵すげぇよ!』



ってかいくら賭けてたんだろう?


廃人化するくらいの借金って事は……んー、何千万くらいかな?


それを賭ける一葵は凄い。負けたら命だってなくなるかもしれない状況だったのだから。



『んじゃ、何で一葵はこの学校に来たんだ?』



この話はまだ聞いていない。そもそも、最初に疑問を抱いたのが一葵がこの学校に来た理由だからな。


「言ったろ? 俺は勝ってはいない。勝負は中断したんだからな。だから、さくらの借金がなくなる代わりに、俺も何かリスクを背負わなくてはならない。…と、親玉さんに言われてな」



もし勝負が中断しなかったら、一葵は圧勝だったのだろう。俺は、そう信じている。


「その条件は、俺に機会を与えてくれるというものだったんだ」


『機会…?』


「あぁ。奴らとしても、さくらの借金がなくなれば、大きな負債額が出る。だから、その負債額を、俺が代打ちという形で雇ってもらう」


確かに…。相手は、まさか負けるとは思わないだけに、借金帳消しを軽い気持ちで約束したんだろう。


でも、負けそうになった。だから暴力…か。


「大金を賭けるなんて事ができるのは、滅多にない。だから、俺はこの学校に代打ちとして来たんだ。借金分の金額を勝つために…」


一葵の抱えていたもの。

それは俺の予想を遥かに上回るほどだった。


おちゃらけた性格の一葵が、まさかこんな事になっているなんて、思いもしなかった。



辛さを隠す為に、わざと明るく振る舞っているのだろうか?


だとしたら、俺に何かできる事は………。



『一葵…あの…』


「心配すんな。もう借金返したから」


『………へ?』


「ここに来てすぐに、代打ちの場を授けられてな。それで勝ったから、俺は自由の身だ。でもこの学校の校則は破れない。一度入学したら、卒業するまではここの生徒だからな」


『そうか…良かった』



それじゃ、一葵自身は悪事を重ねてここに来たんじゃないのか。


なんか、急に自分が情けなくなってきたぜ。



『でもさ、何で野球部を辞めちゃったんだ?』


「……………っ!」



突然、一葵の表情が曇った。やばい、これは聞いちゃいけない事だったのか?


『あ、ごめっ…言いたくないなら別に』

「いやああぁー!」



一葵は両手で頭を覆い、奇声をあげた。


どうしよう、コイツ壊れちゃったよ。


俺のせいか。俺のせいなのか?


どうやら触れちゃいけない過去に触れてしまったらしい。


『かっ、一葵…落ち着け!』


「あっ…愛の……キャッチ……ボー……いやああああー!」


『一葵ーーー…!』



一葵の乱れ様は異常だ。

一体何があったんだ!?



かろうじて聞き取れた言葉を繋ぎ合わせると、『愛のキャッチボール』だ。


どういう意味だ…。

それが一葵が野球部を辞めた理由と関係があるのだろうか?



「あっ…愛のキャッチボール…。先輩の命令は絶対服従が暗黙の了解となっているのが、我が校の野球部だ…。


後輩である俺達は、飲み会に強制参加をさせられ、後輩全員で『回し飲み』をさせられた。


その行為を…通称、愛のキャッチボール…!」


『回し飲みって…。用は間接キスだろ? まぁ確かに男だけで…しかも後輩の部員全員ってなったら気持ち悪いのも分かるけど…』


「ちっ…違う!」


一葵は息を乱しながら、尚も取り乱している。


違うって…間接キスが嫌じゃないって意味か?


一葵くんにモーホー疑惑浮上です。


「いや、回し飲みって言い方が間違ってた。正確には、『口移し』だ」


『………は!?』


「だから…部員が一列に並び、端っこの奴がビールを口に含む。その含んだビールを、隣の奴に口移しをする。


そして、それを端から端へと回していく…。そして…『アウト』と言われた時に、口に含んでいた奴は…そのビールを飲み込まなくてはいけないという恐ろしいゲームなんだ…!」



どうしよう。想像しただけで、もの凄く気持ち悪くなってきた。


一葵は当時の出来事を思い出しているのか、顔色が芳しくない。


体は奮え、視点が定まっていない。



愛のキャッチボール…。恐ろしい競技だ。



『でも、よく辞められたな。普通、先輩にボコられるだろ』


「あぁ、そもそもの始まりは、俺にレギュラーを奪われた先輩の発案だったらしい。部員の皆には悪い事をした…」



さっきまで怯えていた一葵の目が、急に淋しそうな目になった。


つまり、一葵は野球部を追い出されたって事か。


きっとコイツ…野球やりたかったんだろうなぁ…。


昇格戦のソフトボールをやっている一葵は、本当に楽しそうだったから…何となく分かる。



一葵は野球が好きなんだ…と。


『今度、ヒマな時にでもキャッチボールするか!?』


「…え、『愛』の?」


『馬鹿、ちげぇよ! 普通に、だよ。どうせグローブとか持ってんだろ?』


「お…おうよ!」



一葵の顔が、パァと明るくなった。まぁ俺としては、そこまで野球が好きなわけじゃないが、たまには付き合ってやるとしよう。うん、俺って優しいな。




『それにさ、さくら…ちゃんが待ってるんだろ? 頑張って、早く卒業しようぜ!』


「あぁ。あれ依頼会ってないからな。元気になっていれば良いけど…」



一葵には、待ってくれている人が居る。それは羨ましい事だ。



……俺にも、帰りを待ってくれている人は居るのだろうか…?



「さて、そろそろ寝るか。明日からBクラス用の寮に移動だ。準備だの忙しくなるぞ」


『そうだな。…おやすみ』


電気を消し、ベットに横になる。


今日一日で色々な事があったな。


でも、一葵を見直した。



俺は、こいつとは親友になれそうだな…と思いながら、眠りについていった。




ーーーーーーーーー



『起きろ一葵ーー! 時間! 遅刻するーー!』


「むにゃむにゃ…」


見直した俺が馬鹿だったのだろうか?




一葵の周りでは馬鹿みたいに大きな音の目覚まし時計が二個、さらに携帯電話のアラーム音が鳴り続けているのに、全く起きる気配はない。



こうなったら、あの手でいきますか…。



『愛のキャッチボール』


「うわああぁあぁ!」


おっ、速効だよ。


重度の寝坊症候郡の一葵が一発で目覚めるおまじないだな。

よし、覚えておこう。




「嫌だ…嫌だ……いやあああぁー!」



ただし、寝起きは意識が朦朧としてるので、精神を崩壊する恐れあり…と。

よし、覚えておこう。

久しぶりの更新です。なんか会話だけで終わっちゃいましたね。さて、次回からBクラスになり《ヤツ》が再登場します。まぁ早めに更新できれば良いなぁーぐらいの気持ちで書きますんで、気長にお付き合いして下さい。

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