ヒナ外伝〜『名前』で呼ばれたい!
ヒナの過去の話となります。『高校生六人』とは、チョメディーに出てきた奴らですが、読んでなくても問題ありません。明くんのキャラや、やり取りが気に入ってくれた方は読んでもらえたら嬉しいです。 他にも一葵、ユキ、レイナ、マヤの過去の話も書いてる途中ですので、ちょこちょこ投稿するかもです。
「No:15、今回の任務は大島家の財宝を手に入れる事だ」
『はい。現在の状況は?』
「すでにエージェントを送ってある。現在、大島家には長男が一人。両親は海外にいるため、今が絶好のチャンスだ」
『了解しました。お父さ…』
「父と呼ぶなと言っただろう!何度も言わせるな!」
『は…はい。すいません』
「では早速行ってこい!」
『…Yes,Boss』
はぁ…私は何の為に人生を送っているのだろうか。
父が組織の長なため、幼い頃からそうゆう教育を受けてきた。
私は同年代の子達と同じ様に、外を走り回る事も、買い物、カラオケ、デート…それらの行動は皆無とされていた。
毎日毎日、勉強や肉体強化。《トレジャーハンター》なんて格好良い事言っておきながら、結局はただの泥棒じゃない。将来的には人を危める仕事になる。
まだ17歳。年頃の女の子なのに…私だって学校行きたいよ。
どうして? 私は周りの子と違うの…?
パパからちゃんと《ヒナ》って名前で呼ばれたいよ…。
ナンバーで呼ばれるのなんてヤダよ…。
でも、パパ…いえ、ボスは本名は外部に漏れる危険があるから駄目だ、なんて…。
でも、私は泣かないもん。
頑張って、パパに認めてもらうんだ。
そうすれば、注目してくれる! もっと私を見てくれるかもしれない!!
ミスは許されない、今回の任務。
いつも通り、コンパクトパソコン、針金、スタンガン、煙玉を入れた鞄を持ち、大島家に向かった。
ーーーーーー
…大きい。それは予想をはるかに上回る豪邸。組織の基地と同じくらいの広さを一般人が持っているっていうの?
これだけの豪邸だ。セキュリティも凄いのだろう。
でも大丈夫。エージェントが上手くやってくれている事を信じる。
私は高い塀を乗り越え、庭の状況を確認した。
…これまた広い。
綺麗に整った人工芝は円を描き、その中心に噴水。
草木が絶えず見ているだけで癒される。
ーー私もこんな家庭に…
いや! 仕事…任務に専念しないと!
そんな事を考えている場合じゃない。
最近はブルーな気分になる事が多い。青春の一つも味わった事がないからだろうか?
塀を乗り越えようとした時、表門の前に六人の高校生が見えた。
表情から見て、かなり仲が良さそう。…羨ましい。
しかし、その高校生に視線を移したのが間違いだった。
どうやら、対人センサーに触れたらしく、屋敷にブザーが鳴り響いた。
私らしくない…こんな単純なミスを…。
いくらエージェントの手が回っていようと、こんな一方的な展開では《あの手》を使えない。
まず非がある私を、ためらいなく捨てるだろう。
…どうしよう。
「侵入者発見、射撃班、重装歩兵は表門へ」
そんな放送さえ流れている。
ーー終わった。私の人生は、華咲く事なく、終わりを告げようとしていた。
「てめぇリョータ! お前の地球儀が武器として見られてんぞ!? どうすんだよ!?」
「仕方ない…みんな、先に行ってくれ!」
「って、漫画みてぇな事言うな!
すいません、僕達は友則君の友達で…」
どうやら、ブザーを鳴らしたのが、勝手に門を開けた高校生のせいになっているらしい。
間一髪、セーフ。
出足からこんなに汗をかいたのは初めてだ。
護衛が高校生に意識を移している間を見計らって、私はなんなく屋敷に侵入する事ができた。
さて、エージェントが一階の角の部屋の鍵を開けておいてくれる筈だ。
…よし、開いている。
中に入ると、そこは…たぶん、同年代くらいの女の子の部屋だと思う。
ぬいぐるみで飾られたベッド。主にベースとなる色はピンクでハート形の物を所有している。
クローゼットを開けると、高級そうな素材のドレス。
それに触れてみた。
…着てみたい。
タンスの引き出しを開ければ、可愛らしい下着が綺麗に収納されている。
今の下着とは…こんなにも可愛らしいのか…。
生活に必要最低限の物しか与えられない私は、上下常に白の下着しか着けない。
普通の女の子なら、ここまでじゃなくても、ファッションに気を遣ったりするのだろう。
お気に入りの服を着て、遊びに行くのだろう。
化粧だって楽しむだろう。
綺麗に、可愛くなっていく自分が嬉しいだろう。
好きな男の為に、外見から努力するだろう。
…私は?
黒のパツパツした、動きやすいスーツ。
化粧もした事がない。
髪型も気にしない。クセのない直毛だから、なんの手入れだってしていない。
この違いって…。
全身鏡に映った今の自分の姿が、なんだか悲しくなった。
『着てみたいなぁ…そうだよ!この格好じゃ、もし人に見られたら怪しまれるもん。ドレス姿なら…うん、そうそう! 着ちゃえ!』
多少強引な理由を自分に押し付けて、着てみる事にした。
スーツを脱ぎ、下着姿になった私。
ーーしかし、その時…
「まずはこの部屋からだぁ〜!…って、うわぁ〜ぉ……メッチャラッキー!!」
『…え?キャー!』
さっきの高校生が部屋に入ってきた。
やだ…見られたくない。
…こんな、情けない私を。
慌てて近くのリモコンのボタンを押してしまった。
すると、高校生が居た位置の床にパカッと穴が開いた。
「ーー落ちちゃう!」
私の反応よりも早く動いたのは、落ちかけた高校生の友人だった。
「明ぁ…」
「た…匠ぃ!俺が落ちたら…いや!主人公は死なないって決まってるよな、うん」
なんか変な事を言っている。今時の男のコってこうなのだろうか?
匠…くんに手を掴まれ、なんとか耐えているけど、あんなのは時間の問題。いずれ落ちるわ。
私の事を見られている訳だし、このまま落ちてくれた方が都合良い…
「匠!スマン!」
「え…?ちょっ…明!てめえぇえぇぇ……」
グイッと手を引っ張り、その反動で床に手が届いた明くん。…でも、代わりに引っ張られた匠くんは落ちてって…
……ええぇぇ!!??
この人、自分が落ちるのヤダからって、助けてくれた友達身代わりにして自分助かったーー!!
「ふう、危なかった」
そしてケロッとしてるわコイツ。
『あの…今の人は友達じゃ?』
「あぁ、アイツは…まぁ…こうゆうキャラ!!」
ウインクして私に向かって親指を立て、グットのポーズをする明くん。
いや、…ええぇぇ!!??キャラ? それだけで友達見捨てるの!?
あぁ、私、今時の高校生が怖いです。
「あ、最初六人だったけど、皆落ちちゃってさぁ〜…ってか君だれ?」
むしろお前が誰だよ!
何自分助かって安心してんの!?
名前…私の名前…?
本名は駄目だ。誰か、誰でも良い。名前を名乗らなければ…。
誰…名前って?
友達の…?
いないよ、私には…。
いや、居た…。
『私は《ユキ》…友則お兄ちゃんは外出してますよ?』
こめん、ユキ。名前借りるね。私には、ユキとレイナしか、女の子で知ってる名前ってないの…。
しかも妹って口からでまかせまで…。信じてくれるかな…?
「妹…?」
首を傾げる明くん。ヤバイ…妹がいないって知っていたら…バレる。
「………グ、ググ」
メッチャ肩プルプルいってますけど?
怒りのオーラが出てますけど?
あ、これバレましたね。
「ちっくしょ〜こんな可愛い子から《お兄ちゃん》って…あぁもう!《お兄ちゃん》って!羨ましいなチクショオ!!」
…どうやらバレてないみたいです。
「…と、それはまぁ良いや。それより、可愛いお嬢さん。よろしければ、この迷える子羊めに、光と言う名の道案内をしてくれないかい?アト、ボクノコトモお兄ちゃんッテヨンデ!」
……最初から最後まで変過ぎて何だか分からない。
『え…と? なんですって?』
「だからぁ〜、君可愛いね。僕の事もお兄ちゃんって呼んで」
友達助ける気ねぇー!!
…って、え? 今…私の事、可愛いって?
『可愛くないです…よ』
「ホラ、見てみなよ!」
明くんは全身鏡を指差した。そこに映ったのは、いつの間にか、ちゃっかりドレスを着ていた私だった。
『え…コレ…ええぇぇ!!??何着てんの私?馬鹿みたい!』
「あの…もしもし?」
はっ…あまり不審な行動は控えないと…。
『失礼しました。お友達は第ニの部屋です。付いてきて下さい』
この屋敷の図形をあらかじめ知っている私には、地下さえも記憶している。
これで屋敷の住人と思わせる事ができたはずだ。
しかし、バラバラになった高校生はどうする?
任務遂行に最も邪魔な存在だ。
屋敷を守る兵なら、躊躇わずに攻撃できるが、何の関係もない一般高校生を巻き込んで良いものかどうか…。
「…ちゃん!…ユキちゃん!」
…!!
『はい!!』
いけない…考え事をすると周囲の声が聞こえなくなるのが悪い癖だ。
「この扉、鍵が掛ってるみたいだぜ?」
『はい、まかせて下さい』
私は鞄から針金を取りだし、鍵穴に差し込んで開けてみせた。
中に入ると、暗くて何も見えない。地下に何があるかは、まだ未調査だったのが不味かった。
遠くから何か光が見える。…四つも。
しかも、それが徐々に近付いてくるではないか…!
『あれは…一体』
不思議がる私の背中に、グッと重みが掛った。
『え?何??』
よく見ると、明くんが気絶していた。
『ちょっと!…ねぇ!』
まさに最悪の事態だ。
敵はいつ明くんを襲ったのか…この私ですら気配を感じなかった。
しかも四つの光は、すぐ目の前まで迫っていた。
「……明?」
光の正体はさっきの高校生だった。携帯電話の明かりだったみたいだ。
『気を付けて下さい!…何かいますよ、ここ!』
高校生を傷付けるわけにも行かない。ささいな正義感が私を煽った。
「大丈夫だよ。明は怖いのが苦手だから、勝手に気絶したんだろ」
表門で地球儀を持っていた人…確かリョータくんと言ってた気がする。
『な…なんだ、そうですか…』
今思えば、これはチャンスではないか?
幸い、明くんの気絶で高校生の足止めはできた。
なら、この地下室に閉じ込めれば……
「えっと…君は?」
『あ…私は…ユキです。友則の妹です』
「へぇ〜可愛いんだな…いててて」
「あんた…私が居ながら女の子口説く気?」
「誤解だって舞!」
この人達はカップルだろうか…?
それにしても、仲が良さそうな人達…。羨ましいなぁ〜。
「んで、ユキちゃんはさぁ〜………」
「マジ!?ウチと気が合いそうケロ〜☆」
「じゃあ、今度はユキちゃんも一緒に………」
『フフ…アハハハ☆』
…………はっ!!
私…今、笑った?
何だろう…この人達と喋ってるのが、凄く楽しい…。
「う〜…ん」
「明、やっと起きたか」
あ、明くんの事忘れてた。
「皆無事だったか!?」
「てめぇが言うな!」
五人の高校生が無事を確かめ合い、また笑みがこぼれた。
羨ましいなぁ〜。
「あとは匠だけだな、じゃあユキちゃん。案内よろしく」
私は頼られている…?
いや、違う。
利用されているだけかもしれない…。
任務の邪魔だ。
この人達は今ここで…。
早くしないと…もっと一緒に居ると…仲良くなってしまいそうで…私は…それが逆に怖い。
『はい、まかせて下さい!』
…私は笑顔で言った。
ーーーーーー
匠くんの部屋に向かう途中。組織からメッセージが届いた。
《準備完了》
それは高校生と別れを意味していた。
『ここが…匠くんが居る部屋です』
…楽しい時間を…ありがとう…。
〜ガチャン〜
皆が部屋の中に入ったのを確認すると、私は部屋のドアを閉め、鍵を掛けた。
「おい!何の冗談だよ!」
明くん、ゴメンなさい。
やはり、私とあなた達では住む世界が違うの…。
「さよなら」
そう一言言い残し、私は任務に戻った。
すでにエージェントが屋敷を乗っとる計画を進めていた。使用人全てを味方につけた。
後は友則を叩くだけだ。
『友則はどこに?』
「地下室だ!全員そこに集合せよ!」
地下室? さっき高校生を閉じ込めた所じゃない。
不安を胸に戻ってみると、鍵が外されていた。
『嘘でしょ…パスワードを掛けたのは私なのに…』
ありえない…友則にハッキングされたとでも言うの?
この地下室のドアは特殊で、鍵はコンピューターで八桁の暗証番号を入力して解除するタイプだ。
私が開けた時はパソコンでハッキングした。
それは小さい頃から訓練を受けた私にだけできるものであり、友則のような高校生に成せる技じゃない。
室内には、明と友則以外は、床に倒れていた。
…なんで? なんで倒れているの?
『…毒ガス?』
かすかな残り香に気付いた。間違いない、これは有毒のガスだ。
きっと、室内に仕掛けられた罠だろう。
見た所、明くんは無事の様だ。…あの人、本当に人間なの!?
『私が…閉じ込めた…せい?』
一人、頭を整理しているが、屋敷のエージェント達が友則を襲う。
「させるかよ!」
だが、手玉にとった筈の使用人が、ここにきてまさかの裏切り…。
銃弾を鎧で弾き、明くんを助けた。
「拓哉…和也…?」
どうやら明くんの友達だったようだ。
組織を裏切れば、その代償は半端ではないのを知っているはず…。
それでも、自分の命より、友達を優先したって言うの!?
……分からない…。
今時の高校生の友情が……
私には分からないよぉ!!
「ユキ!どこへ行く!援護せんか!!」
暴走した明くんに、次々と倒される兵達。
…本当に、明くんは人間じゃない。
『私の任務は財宝を手にいれる事。ここはあなた達の仕事でしょ?』
「この…小娘が…!!」
私は逃げ出すようにその場を去った。
もちろん財宝を手にいれずに。
高校生…同い年…理解不能だわ。
特に、友情。
これが私にとって一番の謎だ。
ただ、見ていて悪くないと思った。
むしろ、羨ましいとまで見とれてしまった…。
私も…いつかは明くんみたいな友達を持ちたい…。
そう決意し、私は基地へと帰って行った。
『パパ!!』
「何度言ったら分かるん…」
『学校行きたい!』
「……馬鹿な事を言うな」
パパはハァと深いため息をついた。怒ってるだろうなぁ…。
『だって…ヒナだって16才だもん…高校一年生だもん……友情なんて感情は任務の邪魔…? ヤダよ…そんなの……私だって…カラオケとか…ショッピングとか…デートとか……色々したいんだもん!』
私は、いつのまにか泣いていたようだ。涙など久しぶり…。感情は捨てろという教育をさせられていたはずなのに…。
「……はぁ、仕方ない。デートは駄目だが、18才までは殺しの仕事もさせなかったつもりだ。待ってろ、今、孤羽井さんの所に連絡を入れてやる」
…それって、ユキが住んでいる学校の事?
ある事情で預けられた生徒だけという、学校…?
やはり、私は《普通》の高校生にはなれないんだ…。
…………でも
「承諾を得たぞ。寮に住み込みらしいから、準備できしだいすぐに出る」
でも、何だろう。この嬉しい気持ちは。
『行ってきまーす、パパ♪』
「パパと呼ぶなと…」
『アタシ今は高校生だよ? だから、パパ♪』
「ふぅ、困った娘だな。行ってらっしゃい……ヒナ」
パパが名前で呼んでくれた……!
涙が出そうなのを堪え、アタシは校舎に走って行った。
先日、友人がチョメディー読みまして、『…で、結局ユキってどうなったん?』とツッコまれた事から、今回の話が出来上がりました。 ユキがヒナだったんだよぉ〜…なんて、我ながら無理過ぎますね(笑)