教訓その十一〜女の子の買い物は長い!
訂正しました。
・日曜日→土曜日
・兄弟→姉妹
・5時間→4時間
打ち上げの次の日、目が覚めたのは午後2時を回ってからだった。
昨日飲み過ぎた…頭がガンガンする。二日酔いってやつか?
しかしここで倒れては、なめられる!
俺はなめられたくないので、気合いで立ち上がった。
まだ一葵は寝てるようだ。まぁ学校は休みだから、のんびりしていても良いよな、うん。
さすがにこの学校でも、毎週土曜・日曜は休み。今日は土曜日なので、二連休だ。最近は慌ただしかったり慣れなかったりで、俺はまだこの学校の事をよく知らない。
特に《街》については、まだ詳しく回っていないのだ。
広すぎる敷地に建てられた店。少し探検してみたい気持ちもある。
一葵でも誘って、案内してもらうとするか。
『一葵ー、起きろー。買い物でも行こうぜー』
幸せそうな顔で爆睡している一葵の体を揺すってみるが、起きる気配は一向に感じられない。
「うぁー…あと10時間…」
どんだけ寝る気だよコイツ。
『一葵なめられるって! 早く起きろよ』
「サターンか!? サターンになめられるのか!?」
どうやら一葵は睡魔がサターンに見えるらしい。
『あ……あぁ、そうだ! 今もサターンがお前の頭上でほくそ笑んでるぞ!』
「くそ…! 閻魔の女に手を出して《サターン》から《ジョーカー》に降格された奴なんかに…なめられてたまるか…!」
そうだ、いいぞ一葵! そのまま起きるんだ!
「…え? うん、……は? マジで!? 腹いせにアサガオの前に仁王立ちして朝日を浴びせなかった? お前マジかよ〜……ぐぅぅ」
…………。
ええぇぇ!?
大丈夫かよ一葵? 何か俺はお前が凄く遠い世界にいるような気がするよ…。
しかも寝やがった。どうやら、一葵はジョーカーになめられたらしい。
今気付いたら、俺って男友達って一葵しかいないんだもんなぁ〜。
べっ、別に淋しくなんかないんだからー!
…誰なんだ俺は。
よし、俺も腹いせに花の前で仁王立ちして日光を浴びせないようにしよう。
とりあえず一葵に腹が立ったので、暖房の設定温度を最大の30°に設定してあげた。
はっ、口の中の水分を奪われるがいぃさ!!
ーーーーーーーー
寮に南側にある花壇。季節はまだ冬だというのに、なぜか花が綺麗に咲いている。
うーん…何て名前の花だろう? 見た事はあるんだが、いかんせん俺は花に関しては無知である。
ふふふ、せっかく咲いている所悪いんだが、君達に太陽の光は拝ません!
俺は花達に日影を作るように立ち、腕を組んでいる。
あぁ、何て淋しいヒマ人なんだろう…。
お花さん達、水はいるかい? ちょっとしょっぱいかもしれないけど、俺の体内から搾り出してあげるよ。
「……ジン。何してるの?」
涙で潤んだ瞳で、声の主の方向に振り返る。
『ユキ?』
「何してるの?」
ふっ、花に日光を浴びせないように仁王立ち………
あ、やばい。確か、この花壇を作ったのはユキだった気がする…。
『み、水でもあげようかなぁ〜…なんてさ』
「そう。私も」
ユキはそう言って、水が入ったゾウさんのジョウロを前に出す。
『ユキは真面目だよな』
「そう」
『あぁ、頻繁に水やりしてるのか?』
「うん。昨日はマヤが。だから今日は私」
マヤ…そうか、アイツも花が好きだからな。あれからも手入れをサボらないとは、マヤもまめな奴なんだな。
『でもさ、冬の寒い時期に、そんなにたくさん水をやって大丈夫なのか?』
まぁ、ユキもマヤも花に詳しいんだろうが…
「………さぁ?」
知らねぇのかよ!
萎む、萎んじゃうってユキさん。
「よし」
何が良いのか分からないが、とにかく良いのだろう。
ユキはジョウロに入った水を全てやると、立ち上がった。
「それじゃあ」
そして、とことこと歩き出して行った。
あ、そうだ。ちょっと買い物でも付き合ってもらおっかなぁ。
『ユキ、この後なにする予定?』
「予定は未定」
『じゃあさ、買い物付き合ってくんない? 俺、まだどこに何があるのかとか分からなくってさ』
「構わないよ」
ユキから承諾を得られました。今になって後悔したけど、俺は今日一日、必要最低限の言葉しか喋らないユキと会話がもつだろうか…?
とりあえず街に向かって歩き出す事にした。
「何が欲しいの?」
おぉ、ユキから話題を振ってくれたぞ。何だ、俺の心配のし過ぎか。
そう、そうだよ。ユキだって普通の人間だもん。何も変わった事なんてないんだ。ただ、人より口数が少ないだけ。話題があれば喋るし、問い掛ければ答えてくれる。
当たり前な事だよ。
『うーん、とりあえず春服が欲しいかな。家から贈られてきたのってほとんど冬服だからさ』
「そう」
……………前言撤回、会話終了。
『どっ、どこかオススメの店とかある?』
「………………」
考えてるのはわかるけど、何か返答を下さい。
こうなったら話題出しまくってやるぜ。
とりあえず褒め殺しだ!
『その服どこで買ったの? 可愛くて似合ってるよ』
「レディース店だけど?」
僕の服はそこにはないですね。
そういや、今になって気付いたけど、ユキの私服を見るのは初めてだな。
服装は小柄な体格と、幼い顔立ちにマッチしている。
無理に大人びた雰囲気を出しているのではなく、セクシーよりも可愛い派だ。
下は、名前の通り雪のように白い足を膝上から露出するスカート。上は手触りが心地良さそうなモコモコのジャンバーを羽織っている。
ジャンバーのチャックは全開に開け、その下に着ている黒のシャツには白と紫のラメが入っている。
そして気付きました。ユキ以外と胸あるな…。普通、ヒナのような幼児体形じゃペッタンがお決まりなのに…。
前に一葵が言っていた。マヤはE。レイナはDだと…。どこで調べたのかは知らないが、とりあえず一葵は気持ち悪いね。
「ここ」
突然ユキが立ち止まり、ある店を指差した。
《WINPS》と書かれた看板を下げた店。窓越しから店内の様子を伺うと、ズラリと並ぶ洋服。
一先ず、ユキが選んでくれた店なので中に入る事にした。
明るいムードが漂う。とりあえず気に入った服はないかと、ウロウロする。
『あ』
「あ」
気付いたのも、声を上げたのもほぼ同時。なんと、店内にはヒナがいた。
『偶然だな、ヒナ』
「そだねー♪ 一葵くんと来たの?」
『いや、一葵はまだ寝てるからーー』
「……ん?」
ヒナの存在に気付いたユキが、ひょっこりと顔を出す。
「あ、ユッキーじゃん♪ ………って、え?」
『あぁ、ユキに買い物付き合ってもらったんだ』
「そっ、そうなんだ。ユキの事誘ったんだ…」
ん? 何か変な事でも言ったか? ヒナの表情が雲って見えるが…。
「姉さん、その服より、こっち」
ユキが、ヒナが手に持っている服を取り上げ、別の服を渡す。
「ホント♪ ユッキーが言うなら間違いないかもね♪」
ユキとヒナ、二人が並んで喋っていると超和むんですけど。
………………ん?
姉さん? さっきユキはヒナの事…姉さんって言った?
『え? 二人って姉妹なの?』
「あはは、違うよー。アタシとユキは従姉妹なの。アタシが小さい頃って、お盆と正月の時しか同年代の子と会わなかったし、その子達って、レイナとユキだけなんだ。それで仲良くなって、ユキはアタシの事姉さんって呼ぶんだよね♪」
「私より一つ偉い。だから、姉さん」
レイナとヒナとユキは従姉妹なのか…。
なるほど…しかし、ヒナの幼少時代の話は想像がつかないな…。
この明るい笑顔の裏側には、何が隠されているのだろうか…。
つついて確かめるつもりはないんだが、やはり気になるのが人間の性。
でも、きっと辛い過去なのだろうから、俺は言葉を飲み込んだ。
過去に何があろうが、ヒナはヒナ。そして、ユキもユキだ。レイナもレイナだ。
何も変わらない。俺は、今のままの三人でいい。
「お待たせ、ヒナ……あ」
そこに、ヒナと一緒に来ていたと思われるレイナが現れた。
うおぉ…レイナの私服姿、めっちゃ可愛い…。おっと、思わず見とれちまったぜ。
格好的にはユキと似ている。下はスカート、上はジャケット、そしてチャックを開け、中にはシャツ。
うぅ…胸が強調されておる…。
「ジッ、ジンくん」
『よぉ』
レイナは俺に気付くと、軽く頭を下げた。手には紙袋。きっと、さっきまで会計をしていたのだろう。
「レー姉、その服だと、こうした方が良い」
ユキはレイナの事をレー姉と呼ぶのか…。
ユキはレイナのジャケットのチャックを閉め始めた。
あーぁ……いや、何考えてんだ俺は。
「そう? でも、ユキちゃんがそう言うなら間違いないね」
「そだねー♪ ユッキーはファッションセンス抜群だからね♪」
ふむ、そうなのか。では、俺の服選びもユキに協力してもらうとするか。
俺は自分なりに気に入った服を手に取る。
春服を買いに来たとは言え、まだ寒い事を予想しての少し厚めの生地にした。
下はジーパンを何着か持っているので、買う必要はない。
シャツと、その上に着るやつ、まぁ俺なりのファッションセンスってやつで選んだつもりだ。
『これとこれだ。ユキ、どう?』
「……びみ」
びみ!? 美味? それとも微妙の略?
「下は?」
『あ、あぁ。下は持っているジーパンに合わせようと』
「ジーパンってどんなの?」
『普通に薄い青っぽいので、膝にダメージが入ってるのかな』
まぁ膝のダメージは、実はオシャレであらかじめ入っているのではなく、バイクで転んだ時に擦りむけたやつなんだが…。
良い具合にダメージがついたので、男の勲章として、そのままにしてたりする。
「…………。シャツはそれで問題ない。でも上はこっち。あとこれとこれも…」
服の事になるとどうだろう…? 無口なユキが急に輝き出したではないか。
しかも、俺みたいな他人の為に、選んでくれている。
気が付くと、ユキが選んだ服をカゴいっぱいに持っていた。
「きっと全部似合う」
『そっ、そうか?』
そこまで言われちゃ、買わないわけにもいかないな…。
そのカゴをレジに出した。
「○○○○○円でーす」
うーん、今月ピンチ☆
「ありがとうございましたー」
店員さんの優しい声に見送られ、俺達四人は店を後にした。
「じゃあ、私はこれで」
『帰るんだったら送ってくぞ?』
「いい。この後、寄る所ある」
『そっ、そうか。今日はサンキューな、ユキ。おかげで良い服が手に入ったよ』
かなり予算オーバーだけど、それはおいといて…。
ユキはコクリと頭を下げると、スタスタと歩き出した。
「ジンくんはこの後どうするの?」
『いや、特にやる事ないけど?』
「私達、これから買い物行くんですけど、良かったらご一緒しません?」
うむ、この辺りに何があるかもまだよく分からないし…部屋に戻っても一葵はまだ寝てるだろうし…。
『おう、良いならご一緒させてもらおうかな』
ーーーーーーーー
『ただいまー……』
「おっせぇーよジン! どこで誰と何やってた!?」
部屋に戻ったのは夜の8時。かれこれ4時間程、彼女達の買い物に付き合っていた。
女の子の買い物って長いのね。別にヒナもレイナも、買う物を悩んで長くなった訳ではない。
次、次と欲しい物を買いまくり、気が付けば手荷物いっぱい。
『重そうだから俺が持つよ!』
調子乗らなければ良かった…。
もう膝も腕もプルプルです。
「俺の事放置しやがって! まぁいいや、俺起きたのついさっきだし。たくさん寝たから夜寝れないし。よし、今から何やる?」
勘弁してくれ…。俺は寝るぞ。
その夜、寝ようとした俺の横で、一人で騒いでる一葵がうるさくて殴った事は言うまでもない。