教訓その十〜つけないのは駄目だ!!
今回は一葵視点です。
マヤとジンは隣の部屋に行ってしまい、俺、レイナ、ヒナは取り残されてしまった。
うーむ…それにしても内容が気になる。気になりまくる。
ジンの野郎は、俺が今まで出会った男の中で『鈍感部門第一位』の席に君臨する奴だ。
目や行動を見ていれば、俺には分かる事だが、ジンには少し天然の部分がある。
それで女性のアプローチに素で気付いていない。あぁ勿体ない…。
男の俺から見ても、ジンはカッコイイと思う。言い寄る女も多いだろう。
美形ではないものの、顔のパーツは整っており、喧嘩で鍛えた身体も筋肉質。一際目立つ金髪の髪は、目が隠れる程長い。
不祥事が原因でこの学校に来たからには、自己中心的な性格だと思ったが、実は優しい。男にも女にも気がきく奴だから、性別問わず人気があるはずだ。
…………だが。
やはり見た目が恐い分、初対面では声をかけにくい。
爽やかな笑顔を振り撒いていれば、まさにジンはパーフェクトヒューマンだ。
俺は何となく思う。ジンの不祥事は自分勝手なエゴではなくて、本当は友達の為なんじゃ…………。
「むーー。何か話してるみたいだけど聞こえないよー」
ヒナが壁に耳を付けている。こやつ、盗み聞きする気か!? その行動には賛成!!
「ヒナ、辞めなさい。何を話していようが、ジン君の自由でしょ!」
「えーっ。そうゆうレイナだって盗み聞きしてるじゃん」
レイナもヒナと全く同じ格好をしている。
「わ…私には…その……委員長としてクラスメートの不純な行為を見逃す訳にはいかないからだもん!」
ほほほっ、レイナくん。君は僕の心理思考看破能力を舐めているね。嘘がバレバレだよ。本当は不安でしかたないから居ても立ってもいられない…が答えだ。
よし、俺も気になってきた。
「一葵くんは駄目」
「なぜ!?」
「なんか目付きが嫌らしいから」
「ふふふ、お二方。これが何か分かるかい?」
俺は二人を手駒に射止めるため、ある必殺のアイテムを取り出した。
「盗聴器〜♪」
「何してるの一葵くん! 早くセッティング!」
よし、大成功。
なぜ俺が盗聴器なんぞを持っているかは深く考えないでくれ。別にやましい理由ではない。
情報屋として、そして心理思考の勉強として、仕方なく……本当に『仕方なく』使っているだけだから。
そもそも俺の能力は、本当に特別な力なのだろうか?
単純に、異常に優れた『ただの感』という可能性も否定できない。
能力に自覚が生まれたのが中学一年生の頃だった。
俺は小学生の頃から始めた野球を続け、中学校に入っても野球部に所属していた。
小学生野球は、ピッチャーが投げる球種はストレートのみというルールがあったが、中学生になればカーブやフォークなどの変化球を投げる事が認められている。
これは、まだ身体の作りが幼い小学生が変化球を投げれば腕を故障する可能性があるからだ。
そして、新入生の実力を量る試合に出場した時、異変に気付いた。
ピッチャーは先輩が担当したのだが、何と言うか……分かるのだ。先輩の心境、球種、何を考えているか、全てが手にとるように分かる。
そして自分で言うのも何だが、俺は初心者ではない。
小学生の頃から継続させた練習は決して嘘は付かなかった。
理想的なバッティングフォームを身につけたからには、読み通りに来る球を打ち返す事に難はなかった。
だが、俺はそれを秘密にしてきた。
気味悪がられるかもしれない。それが怖かった。
俺がこの学校に来た理由。それはまさにこの能力にあるのだが、それはまた別の機会にでも…。
俺は盗聴器から伸びた線の先端を壁に取り付ける。
そして三本のイヤホンを用意し、それぞれに渡す。
まずい、余りにも手慣れ過ぎていて二人は若干ひいている…。
「一葵くん……」
「まさかとは思うけど、私達にもそれを……」
「………お、ジンの声が聞こえるぞ!」
「ホント!?」
………セーフ♪
さて、ようやくジン達の会話が聞けるぞ。
『そうだ、まずはこいつをくわえて…』
ん? ジンがマヤに『何か』をすすめているようだが……。
『はっ、初めてなんだからな! うっ、上手くできなくても笑うなよ!』
それにマヤは恥ずかしそうに返事をする。
「レ、レイナ? こっ、これってもしかして…」
「いっ、いえ、決め付けるのは早過ぎるわ!」
そっ、そうだよ、うん。
ジンはそんな事をマヤにさせるわけ……。
『違う違う、マヤ、歯を立てちゃ駄目だよ』
あの野郎『フェラーリ』させてるのかーー!!
「そんな…ジンくんの事…し…信じてたのに…」
ジンの台詞を聞いたレイナは、全てを悟ったようで、涙を流し崩れ落ちる。
「レイナ……もーー、ジンくん許さないよー!」
「待つんだ、ヒナ! 頼む…ジンを…自由にさせてやってくれ」
「で、でも…」
「きっと、ジンは溜まってるんだよ…。しかも俺と同じ部屋だ。きっと…ジンは……」
「そっか……思春期の男の子だもんね…」
ヒナは苦笑いをし、部屋への突入を諦めた。
ただ、その顔からは怒りよりも悲しみが伺えた。
『マヤ、ゆっくり…ゆっくりで良いから、くわえて…吸ってみな?』
『う、うん。……うぇ。苦いよ…変な味がする…』
『初めは誰でもそうだって。慣れれば快楽になってくるから』
………あの野郎。
やっぱり『カプリコ』させてやがるー!
『さて、そろそろ本番だ』
『もっ、もう!?』
『だってマヤ、いつまでもくわえてるからさ…濡れてきてるだろ?』
『………うっ、うん』
『しかもそれやりすぎると先っぽ黒くなるぞ?』
やばいやばいやばい!
何がやばいって…そりゃ何つうかもうお前らやばいよ!
ってかこの小説やばいよ!
間違えるとノクターン行きになっちゃうよ!
『じゃ……私からは怖いから…ジンから…な?』
『仕方ねぇなぁ』
体位か!?
貴様ら体位の話をしてるのか!?
『あ…あれ? 付かない…この、つかねぇな畜生』
ジンくん、君はナニに何を付けようとしてるのです?
それは、もしや『アレ』ですか?
安心安全を誇る最強の輪っかですか?
『付かないな…まぁ、いいや』
よくねぇーーー!!!
「ヒナ、突入するぞ!」
「え!?」
「このままじゃジンは人として過ちを犯す事になる! レイナもいつまでも泣いてないで、行くぞ!」
俺達は手遅れになるまえに、隣の部屋を突入することを決意した。
あわよくば、マヤのイヤーンな姿が見れてニヤニヤ………いや、今のは忘れてほしいです。
とにかく、『つけない』のは駄目ですぞ、ジンくん。
俺は意を決すると、ドアを開けた。
「ジンてめぇ何考え……て…………んだ?」
『かっ、一葵…皆!? マヤ、どうやらバレちまったみたいだな』
な…何て事だ…。
俺達の予想は華麗に裏切られた。いや、この場合は良かったと言うべきか…?
ジンがマヤにくわえさせていたモノ…それは……
「タバコ?」
『あぁ、何でもマヤの奴、タバコは吸った事ないんだとよ。それで、ヒナやレイナに、《普段は大きい態度なのにタバコも吸えない》って思われたくなかったんだって。馬鹿っつうか…マヤも可愛いトコあるよなぁ……いてて!』
「うるさい! それ以上言うなー!」
初めてなんだから笑うなって………
そ…そういう事?
マヤのくわえたタバコを見ると、フィルターの部分に歯を食い込ませたような形跡があった。
歯を立てるなとは…そういう意味ですか…。
「ぬ…濡れるとか黒くなるって…?」
『あぁ、それはマヤがタバコをくわえたままで、いつになっても火ぃ点けないからさ。フィルターの部分が唾で濡れちゃって……ほら、メンソールって、フィルターが濡れると先っぽが黒くなるだろ?』
こ……こんなオチなのか?
そうなのか?
「じゃ…付ける付かないって……」
『このライター点かないんだよぉ〜。……ってか、何で会話を知ってんの?』
は…はは…ははは。
「ヒナ、レイナ、どうやら俺達の勘違いだったみたいだな…」
「えぇ」
「そだねぇ♪」
「まさかテメェら盗み聞きしてやがったのかー!?」
「マヤちゃんが怒ったー♪ 逃げろー♪」
『勘違いって何だ? なぁーレイナー。何を勘違いしてたんだー?』
「そっ…そんな事私の口から言えるわけないじゃないですか!」
さすが鈍感男だ。その発言、わざとだったらセクハラになるぞ。
ふふふ、まぁいい。
ジンよ、お前が一線を越えなくて良かったぞよ。
これからも友達でいられそうだ。