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鬼喰い  作者: 勝又健太
第一章 人の消えた村
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第一章(4)

「お、疑いは晴れたようじゃの。それではもう手を下げてよいかの?」


「ええ。ただし変な真似をしたら容赦なく撃つわよ」


 男は手を下げて、おおげさに肩を回し、首を左右にこきこきと鳴らしながらながらぼやいた。


「やれやれえらい災難じゃった。そもそもわしのような好男子がこんな非道な所業をするわけがないじゃろう。顔を見れば分かりそうなものじゃ」


 この男は自分の外見にもかなり自信過剰なようである。


「でもあなたを完全に信用したわけじゃないわよ。村でまとまった食糧を稼ぎたいなら、その前にちゃんとした入村チェックと取り調べを受けてもらうわ」


「ほう、おまえたちの村も近くにあるのか?」


「そっちが本村の"日守村"よ。ここは分村の"日守下村"」


「なるほどな。大きい村と聞いておったのでおかしいとは思ったが、分村じゃったか。道理で家が少ないわけじゃ」


 野盗や外敵との抗争を考慮して、村は出来るだけ一つの場所にまとめ、周囲を柵で囲うのがこの時代の常識である。その方が防御の際に都合が良いからだ。


 しかし、いくつかの理由により、領域を複数に分割している村も存在した。


 分割する理由のほとんどは、「身分格差」である。

 "大異変"の前にも様々な格差は存在したが、食糧確保が最優先事項となっているこの時代においてその傾向はより顕著となり、食糧確保に関する何らかの利権や力を持っているものは優遇され、そうでないものは冷遇された。


 過去に存在した"穢多非人"と呼ばれる階級制度が復活したと考えれば分かりやすいだろう。

 彼らに与えられる仕事は、他の人々がやりたがらないような"汚れ仕事"がほとんどであり、村民としての権利も著しく制限され、自警団による保護もない。

 おそらくこの分村の人々も、そういった汚れ仕事に従事しながら、様々な屈辱を歯を食いしばって耐え忍んできたのであろう。


 その耐え忍んできた結果が、これだったというわけである。


「この時代、誰も死に方は選べんか……」


 男はつぶやき、刀と荷物を担ぎあげた。


「ところでおまえたち、見たところまだ子供なようじゃが、こんな物騒な現場に二人だけで来たのか?随分と勇敢じゃの。父上殿はどうしたのじゃ?」


 男のなにげない質問に対し、少女の動きがビクッと止まった。


「……勇敢なんかじゃないし、好きで来たわけでもないわ!あなたには関係ないでしょう!」


 突然の少女の激昂に、男は目を白黒させた。


「どうしたのじゃ。わしがなにか気に障ることを言ったか?」


 男は少年に視線を移して聞いた。この人懐っこい少年は、よほどこの男と刀に興味をひかれたと見えて、先ほどから男の周りをつきまとっていた。


「父ちゃんは……死んじゃったんだ」


 先ほどまで元気だった少年は、うなだれた様子で言った。


「そうじゃったか……。それはすまんことを聞いたな」


 無神経を絵に描いたようなこの男も、さすがに少々ばつが悪そうである。


「いいわ、別に……。怒鳴ってごめんなさい」


 どうやらこの姉弟の人生にも、様々な事情が存在しているようであった。


「それより、さっきからわたしたちのことを子供子供と言ってるけど、あなただってまだ若造じゃない。いくつなの?」


「17歳じゃ」


「……私と同い年じゃない!なによ自分だって子供のくせに散々人を見下すようなことを言って……」


「む、失礼な、わしは子供などではないぞ。こう見えてもおまえたちより人生経験はずっと豊富じゃ」


 男はふんぞりかえって答えた。自分が優位に立たないと気の済まない性分らしい。


「この時代の17歳ならみんなそうよ!"大異変"の後を必死で生き抜いてきたんだから……」


「ふむ、まあ確かにな」


 その通りであった。"大異変"前の、高校生活や部活動、アルバイトや大学受験等が生活の全てだった頃の17歳とはもはや全てが違うのだ。


 生き抜くこと、食べること、さらに言えば"殺す"こと、"殺されぬ"こと、それが最優先となるこの時代における17歳は、過去の平和な時代の大人たちが一生経験しないほどの、そしてする必要のないほどの修羅場を経験してきているのであった。


「もういいわ、あなたと話してると頭がおかしくなりそう。さっさと村に行きましょう」


「情緒不安定じゃな。もっとおおらかな気持ちで会話を楽しんだ方がよいぞ」


 人をいらいらさせることに関して自分が天才的であることを、どうやらこの男本人は全く自覚していないようであった。


 少女は大きなため息をつき、怒りを鎮めるように何度か深呼吸してから言った。


「村への行き方は案内するから、あなたが先頭に立って」


「わしが前を行くのか?ほんとうに用心深いのう……」


 背中を見せることが戦闘においては圧倒的な不利になる以上、信用できないよそ者に対する指示としては的確であった。


「嫌なら村には入れないわよ」


「わかったわかった。入れてもらえるのであればなんでもよい。後ろから矢を射るのだけは勘弁じゃぞ」


「妙な動きはしないことね。すばる!いいかげんその人から離れてこっちにいらっしゃい」


 男の周りをうろちょろしていた少年は、男と色々話したいようで不満そうな表情を作ったが、姉の命令に従った。


 まだ甘えん坊らしい少年は、戻ってくると姉の足にしがみつき、少女は優しい表情でその頭を撫でてやった。


「さあ、行きま……!」


 視線を上げて男の方を見た少女の顔に、驚愕の相が浮かんでいた。


「ほ?」


 男は、その視線が自分ではなく、自分の背後を見ていることに気が付き、ゆっくりと振り返った。


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