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鬼喰い  作者: 勝又健太
第四章 寄り添うものたち
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第四章(10)

「はっはっは。おいおい、心配するでない。いまは寝ておるし、こいつの持ち主がわしである以上、無茶なことはさせん。まあ、慣れておらんものが持つと、こいつの"邪気"にやられてしまうがの」


「"心配するな"って言ったって、無理よ! そんな危険なもの持ち歩いて……。あなたが操られない保証なんて無いじゃない!」


 その通りであった。セーフティの解除されたフェザータッチの機関銃を持った男が、"人には向けんから心配するな"と言っても、"ああそれなら"と安心できる者など誰もいないであろう。


「まあ確かに……保証は出来んのう?」


 なゆたの怒り怯える姿を見て、この男の"人を怖がらせたい"といういたずら心が再び顔をもたげたか、天一郎はにやにやしながら言った。


「もういいわ! わたしたち、帰る! あなたみたいな人のそばにすばるを置いておけないもの! あなたもあの迷彩服の怪人も……人の命を奪うことばっかり考えてる人たち同士、勝手に殺し合えばいいじゃない!」


 先ほどの"ゾンビ話"に続いて、真剣に村を守ろうとする自分の気持ちをもて遊ぶような天一郎の態度に堪忍袋の緒が切れたか、すばるを抱きかかえて立ち上がったなゆたの瞳から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出た。


「待て待て。怒るでない。ちょっとした冗談ではないか。こいつの"食欲"がどんなに強力であろうと、未熟者ならいざ知らず、わしが操られることなど万に一つもないから安心せい。だいたい、おまえたちを斬ったところで、わしの腹が膨れるわけでもないからのう。はっはっは」


 怯えさせたことを謝っているのか、さらに怒らせようとしているのか、いずれにしても、幼い弟を必死に守ろうとしている姉に対する言葉としては、不適切極まりない発言であった。


「自分のお腹がいっぱいになるなら斬るかもしれないってわけ……!? 最低よ! 馬鹿!」


 すばるを抱えながら、壁に立てかけてあった二人分の弓を持ち、激昂した少女は小屋の扉を荒々しく叩き開けた。


「おい、帰るのは構わんが、まだ敵の能力に関して説明しておらんぞ? 自分から尋ねたくせに、最後まで聞いていかんでよいのか? わしがいない間になにかあったとき、弟や村人を守りたいのじゃろう?」


 自分の言葉で少女の気持ちを散々傷つけたことを自覚していながら、飄々した口調の天一郎に悪びれた様子はまったく見受けられなかった。愛刀同様、この男にも"善悪の区別"という概念が著しく欠如しているようである。


「……」


 天一郎の言葉が的を得ていたか、なゆたは戸を開けた姿勢のまま、激怒に背中を震わせながら立ち止まっていた。


「まあ、もともと聞く必要の無い話じゃ。わしが一人で片付けてしまうからの。それに、松田殿の保安隊もおるではないか。おまえたち女子供は、安全なところでのんびりわしの帰りを待っておればよい」


 なゆたの怒りもどこ吹く風といった体で、天一郎は手を頭の後ろで組み、ごろんと床に横になり、あくびを一つかまして完全に寝る態勢に入っていた。


「……聞くわ」


 敵の能力や弱点を聞いておかねばならない、弟と村を守らねばならないという使命感が怒りに勝ったか、声を震わせながらも、必死に怒りの感情を押し殺しつつ、少女は小屋の中に戻った。


「よかった! おいらも敵の力知りたかったんだ。弓で姉ちゃんを守らないといけないからさ!」


 男の話に夢中になりながらも、なゆたの激しい怒りの前におろおろするばかりだったすばるは、話の続きが聞ける嬉しさに、姉にぎゅっと抱えられた腕の中で喜色満面といった様子であったが、弟は弟で、自分の方が姉を守る心づもりのようである。


「ふふふ。そうじゃな。幼くてもおぬしは男じゃ。弱き者を守るのは男の役目。いざという時には、おぬしが姉の楯にならねばならん」


「わたし、弱くなんかないわよ! すばる! あなたも調子良いこと言わないの。まだお姉ちゃんに全然かなわないくせに"守る"だなんて、十年早いわよ」


 姉におでこをぺしりと叩かれ、すばるは「いってえ」という声をあげ、ぺろりと舌を出し、いたずらっぽい笑顔になって天一郎と顔を見合わせた。


 "姉ちゃんはこう言ってるけど、守るのはおいらだから!"という、少年の無言の決心が伝わったか、天一郎は、いつもの高慢なにやけ顔ではなく、むしろこの男には似つかわしくないような穏やかな微笑を浮かべつつ、姉弟のやりとりを見守っていた。


「よかろう。どちらが闘うことになるにしても、もしくは逃げる判断をするにしても、敵の能力を知っておくことは重要じゃ。よく聞いておくのじゃぞ」


 天一郎は、駐屯地でひびきに話した"しびとの魂"、およびそれに"寄り添う"能力に関する説明を、二人に手短に話して聞かせた。


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