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鬼喰い  作者: 勝又健太
第四章 寄り添うものたち
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第四章(9)

 なゆたはキョトンとした表情で聞き返した。親から子へ、能力が遺伝として引き継がれるというならば理解も出来ようが、住む土地によって同様な能力が発現するとはどういうことであろうか?


「そう、土地じゃ。"龍脈(りゅうみゃく)"や"龍穴(りゅうけつ)"という言葉を知っておるか?」


「聞いたことはあるわ。"風水"の用語でしょ?」


 なゆたは遠い記憶を手繰るようにして言った。


「そうじゃ。まあ風水の多くは、表面に現れる地形だけに着目した、取るに足りない児戯のようなものじゃが、地下水やガス、そしてさらにその下で蠢いておる"地殻"や"マントル"の長期的な移動にまで着目した場合、そこには複雑ながらも明らかな意図を持った"流れ"が確かに存在しておる。その流れが"龍脈"じゃ。そして、龍脈の相互作用によって作り出される膨大な力が地表に噴き出る場所を"龍穴"といい、わしら"寄り添うものたち"の多くは、その"龍穴"の周辺で生まれておる、というわけじゃ」


「……ちょっと待って。地下水とか、地殻とか、マントルとか……そんなものの"流れ"なんて、見えないのに分かるわけないじゃない? 誰かが観測でもしたの?」


話のスケールにも驚いたが、このいかにも学の無さそうな男から、風水用語、さらには"地殻"や"マントル"という地球物理学的な言葉が出てきたことに驚愕し、少女は疑念いっぱいの顔で聞き返した。


「"寄り添うもの"の中に、地下の流れを読めるものがごくたまに現れるのじゃ。例えばわしも、風や火の魂に寄り添って本分を引き出すようなことは無理じゃが、その魂を感じ取る程度のことは出来る。よほど強い火や風に限るがの。それと同様に、地球という一つの大きな"魂"を感じ取ることの出来る者がおる。わしの爺さまがそれじゃ」


「……あなたのお爺さんは、地下水とか地殻の移動を感じ取ることが出来るってこと?」


 "大異変"以前に、電磁波で地下の状態を調べる技術が存在していたことはなゆたも知っていたが、それはごく浅い部分に限られていたはずである。"マントル"という地底の深層部分の流れを調べることが可能な機械や人間などあり得るはずもなく、少女の顔に浮かんだ疑念はさらに濃くなった。


「なにがどう動いておるかを正確に把握出来るわけではない。その流れの奥底にある"意志"を見極めることが出来るということじゃな。死にぞこないのくそ爺いじゃが、その能力だけは健在じゃ」


 役場での取り調べの際に、この男の"死にぞこないの爺さま"の話は少女も耳にしていた。その際は、祖父の能力として、いるかどうかもわからない存在の"気配を感じる"ことが出来るというようなことを天一郎は話していたが、今度は地中の流れで"地球の意志を見極める"ことが出来るという。


 村長は"あまりにもオカルトじみている"と評したが、それを通り越してもはやこの男の"誇大妄想"とでも言うしかないような話の規模感であった。


「地球に……"意志"があるの?」


「先ほども言ったが、魂はあらゆる"生きもの"に宿っておる。それがこの世の原則じゃ。例外はない。地球も一つの"もの"であり、生きておる以上、魂が宿っておる。魂が宿れば、そこには"意志"が生まれる。そういうことじゃ」


 天一郎はさらりと言った。話の内容はどうであれ、この男は嘘を言っているつもりは一切無いようである。


「……あなた達みたいな能力を持った人の多くが、"龍穴"の近くで生まれているって言ったわよね。それも地球の"意志"ってこと?」


「意図したことかどうかは分からん。単なる副作用かもしれん。分かっているのは、龍穴周辺で"寄り添うものたち"の多くが生まれて来ているという事実と……」


 この男には珍しく、話していいものかどうか一瞬迷ったか、天一郎は逡巡するような表情を見せた後、やや声を小さくして続けた。


「……あの駐屯地を中心としたこの竜ヶ谷地区一帯も、おそらく過去に"龍穴"だったことがある、ということじゃ」


「なんですって?」


 少女は目を見開いて聞き返した。


「断言は出来んが、ほぼ確かじゃ。分村の怪人、駐屯地の兵器たち、巨大な地下空洞。そしてこの村の急速な発展、この時代にあって自殺者がここ数年出ていないという"奇跡" ーー これらの異常現象を重ねあわせれば、出てくる答えは一つだけじゃからな」


 本日遭遇した強敵たち、そして見聞きした様々な事象を思い返して整理しようとしているかのように、天一郎は頭の後ろで手を組み、天井に視線を漂わせながら答えた。


「……龍穴"だった"ってことは、今はもう違うの? そして、この村にも、あなたみたいな能力を持った人がいるかもしれないってこと?」


「今も"龍穴"かどうかは分からん。"大異変"で閉じてしまった可能性もあるし、少なくとも周囲に影響を与えるほど強力な力はもう放出されていないはずじゃ。そうであればわしでも感知出来るはずじゃからの。そして、この村もしくは近辺に"寄り添うもの"がいるかという件に関しては、間違いないと考えて良いじゃろう。ただし、相手が"人"とは限らん。そこが面倒なところなのじゃ」


 次から次へと常識はずれの信じがたい話を続けられて、軽い混乱状態にある少女をおもんばかる風もなく、天一郎は新たに厄介な情報の提供を始めた。


「"人"に限らないって……どういうこと?」


「あらゆるものに魂が宿るのと同様、"寄り添う"という能力を持っておるのも、人間だけではないのじゃ。動物でも、火でも、水でも、無機物でも、魂が宿っているものはどれも"寄り添うもの"としての能力を持つ可能性がある」


 天一郎は傍らの愛刀にちらっと視線をやりながら言った。


「……じゃあ、もしかして……」


「そういうことじゃ。"こいつ"もまた、刀でありながら"寄り添うものたち"の一つ。持ち主の"本分"を最大限まで引き出そうとする。おぬしたちが役場で感じた寒気は、こいつの意志というか、まあ"食欲"みたいなものじゃな」


 天一郎はにやりとしながら縁起でもないことを言った。


「……食欲?」


 天一郎がなにを言いたいのかは薄々理解しながらも、少女は聞き返した。


「うむ。寝起きは特に腹をすかせておるでな。周囲に"旨そうなもの"があると、見境なく食べたがる ーー つまり"斬りたがる"のじゃ」


「……わたしたちを"斬ろう"としてたの?」


 少女の声は震えを帯びていた。


「そういうことじゃな。ただしこいつは無機物じゃから、自分では動けん。つまり"斬ろう"としていたわけではなく、正確にはわしに"斬らせよう"としていた、ということになるがな。ほっほっほ」


「……」


 この男の話に完全に心を奪われている弟を守るように抱き寄せて、少女は眼前で呑気に笑う天一郎を睨みつけた。

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