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鬼喰い  作者: 勝又健太
第四章 寄り添うものたち
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第四章(8)

「……縁起でもないことを言いおって。わしが"しびと"ごときに負けるとでも思っておるのか? 今日の一戦はわしも準備不足じゃったが、敵の能力を把握した今となっては、相手が何人だろうが何機だろうが、もはや恐るるに足らずじゃ」


 少女の強烈かつ的を得た一言に眠気も吹き飛んだか、一気に不機嫌そうな表情になって天一郎は言い返した。


「その"敵の能力"っていうのを理解してるのはあなただけでしょ? "しびとの魂"とか"寄り添う"っていう言葉の意味を教えてくれないと、わたし達には相手の戦力が分からないのよ?明日あなたがいない間に、あの怪人が村を襲ってくる可能性だってあるんだから、知っていることは全部いま教えてほしいの。すばるや、村の人たちを守るためにも」


 なゆたは真剣な表情で天一郎を見つめた。この勇敢な弓使いの少女は、自らが村を守るために身を捧げる覚悟はあっても、天一郎に"守られる"つもりなどさらさら無いらしい。


「……ふん、わしの仕事が終わるのを、おとなしく待っておればよいものを。まあよい。戦いたいなら好きにすればよいし、聞きたいならば教えてやろう」


「おいらも聞きたい! にいちゃん、ちなみにこれ、内緒の話? "オフレコ"ってやつ?」


 好奇心を抑えられなくなったか、二人のやりとりを黙って聞いていたすばるが割って入った。


「はっはっは。懐かしい言葉を知っておるな。いや、"大異変"前ならいざ知らず、このような時代に秘密にしておいても意味はないゆえ、誰に話しても構わん。ただし内容が奇天烈すぎて"気狂い"と判断されるのがオチじゃろうから、話す相手は選んだ方がいいがの」


「うん! わかった!」


 目をきらきらと輝かせる少年の頭を軽く撫でてやってから、天一郎は静かな口調で語り始めた。



「……わしの能力も、そして"しびとの魂"を操っておるものの能力も、基本的には同じ原理じゃ。やっていることはごく単純。ものに宿る"魂"に寄り添い、その"本分"を引き出すこと ーー それだけじゃよ」


「"魂"に"寄り添う"?」


 なゆたが怪訝な表情で聞き返した。


「そうじゃ。人間にも、動物にも、草木にも、この水筒の水にも、この蝋燭の火にも、道端に転がっている石にも ーー あらゆるものに"魂"は宿っておる。もちろん"刀"にもな」


「……鬼狩丸のこと!?」


 天一郎の傍らに置かれている愛刀を、すばるは怖そうに見つめた。


「ふふふ。こいつに限らん。刀でも、包丁でも、(のこぎり)でも、そいつが"生きて"おるならば、すべて魂が宿っておるし、そしてそれらの魂は、宿る実体に即した"本分"を持っておるのじゃ」


「"本分"って……"役割"っていうこと?」


 なゆたはさらに怪訝な表情になった。幽霊話や怪談、あるいは"万物に神が宿る"という自然崇拝の思想なら知っていたが、魂が"本分" ーー つまり"機能に応じた役割"のようなものを持っているなどという話は聞いたこともなかったのである。


「"役割"という捉え方でも間違ってはおらん。もっとざっくり言うならば、要するに"本能"や"欲求"や"欲望"のようなものじゃ。複雑なものではない。例えば火なら"燃やしたい"じゃろうし、風なら"もっと強く吹きたい"かもしれんし、雲なら"どこまでも流れていきたい"ということかもしれん。そして刀なら……」


 天一郎は、もったいつけるように、わざと一呼吸置いてから続けた。


「……"斬りたい"じゃろうな」


 いたずらっぽい無邪気な笑みを浮かべた天一郎を見て、なゆたは背筋が寒くなるのを感じた。


 話の真偽は別として、この男はやはり"斬ること"を心から楽しんでいる ーー 何かを守るための"手段"として弓を使う自分とは違い、この男は"闘うこと"そして"斬ること"そのものが目的であり、そしてその愛刀もまたしかり。


 "殺人愛好者"とまではいかないまでも、この男と自分たちは根本の部分で違う生き物なのだということを改めて認識したのである。


「……つまり、あなたは、刀の魂に寄り添って、"斬りたい"というその刀の"本分"を引き出しているっていうこと?」


 天一郎に感じた戦慄を隠すように、なゆたは努めて平静な声で聞いた。


「そういうことじゃな。ただしわしの場合、"刀"以外の魂に寄り添うことは出来ん。こればかりは修行でどうなるものでもなく、生まれつきの"才能"で決まる。どういう理由でそうなっているのかは知らんが、寄り添える対象の種類は一つだけなのじゃ」


 要するに"自分が砲術や弓術といった剣以外の戦闘術に全く才能を持たずに生まれて来たのは努力不足ではなくそのルールのせいである"と言いたいようである。


「じゃあ例えば……"風の魂"に寄り添える人でも、"刀の魂"には寄り添えないってこと?」


「そうじゃ。そして、"寄り添う力"の強弱は、簡単に言えば"信じる力"の強弱で決まる。つまり、例えば"風に寄り添う"という同じ能力を持った者同士でも、そよ風を吹かせる程度しか出来ん者もおれば、風速50メートルの突風を巻き起こせる者もおる、ということじゃ」


「風を起こせちゃうんだ。すげえ。かっこいい!!」


 天一郎の話す内容がどんどん大きく派手になるにつれて、すばるの瞳はさらに輝きを増していったが、なゆたの表情はさらに怪訝さを深めていった。


「"同じ能力"って……同じようなことを出来る人が何人もいるの?」


「おるぞ。"刀に寄り添う"という能力に関して言えば、わしの親父も、わしの爺さまも、同じような力を持っておった。まあもちろん、一番強いのはわしじゃがのう?」


「……お父さんもお爺さんも同じ能力ってことは、その力は遺伝するってこと?」


 得意気に話している天一郎は気付かなかったが、この時なゆたは何かに思い当たったのか、先ほどまでの疑り深い表情を一変させ、真剣な口調で天一郎に尋ねた。


「遺伝の場合も多いが、より強い要素としては、"土地"じゃな」


「土地?」

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