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鬼喰い  作者: 勝又健太
第三章 死闘"竜ヶ谷駐屯地"
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第三章(14)

「下りて来よったか。せっかちな御仁じゃ」


 数十体の巨大兵器に取り囲まれ、そこへさらに"真打ち"とも言うべきアパッチの再登場とあっては、流石にこの男も観念したか、あるいはぎりぎりまで体力を温存しようという魂胆なのか、相変わらずの脳天気な口調からはその本心を窺い知ることは出来なかったが、戦闘態勢にも入らず地面にどっかと座り込んだまま、プロペラ音が次第に大きくなってくる上方の巨大な穴をにやにやと見つめる天一郎の表情には、ひるんだ様子は全く窺えないのであった。


「世が世なら記念写真でも撮って自慢したいところじゃがの。鬼伏流の歴史いかに長しとはいえ、これだけの数の兵器に取り囲まれたのはわしぐらいじゃろう」


 そしてこの期に及んでもこの男の自己顕示欲にはいささかの翳りもなく、むしろこの尋常ならざる経験をどのようにして皆に面白おかしく話して聞かせるか、皆がどのように驚くか、その愉快な妄想で頭がいっぱいになったのか、"くっくっく"という含み笑いはさらに大きくなっていくのであった。


 だが、天一郎がいかにこの奇想天外な妖闘異譚を人に話して聞かせたいと思っても、その望みが実現する可能性はもはや万に一つもないと考えてしかるべきであったろう。


 先ほどのアパッチとの戦闘の際に使用した"闇隠"という技を繰り出したとしても、防御出来るのはわずか一方向のみで、しかも斬られた空間は数秒後にはふさがってしまう。


 さらに、落下した際に用いた謎の技や、それ以外の秘技をこの男がまだ隠し持っていたとしても、これだけの数の兵器に四方を囲まれて同時に集中砲火を浴びてはそんなものが通用するはずもなく、もしなにかの僥倖で最初の攻撃をかわし得たとしても、各々の兵器から放たれるミサイルや砲弾によってこの空洞を蹂躙する数千度の紅蓮の炎の前には、どんな戦略もすべて悪あがきに等しいと思われた。


 そして、兵器たちが完全に土中から這い出し、主砲の無事なものはその照準をピタリと天一郎に向け、武器を失ったものは天一郎への突撃体制を ーー もしくは自爆体制を ーー 整え、お膳立てが全て整ったとき ーー


 かつて世界中の軍隊やテロリストを畏怖させた最強ヘリ、AH-64D アパッチ・ロングボウが、その燦然と輝くキャリアの最後を飾るべく、軍事史の中でもまさに前代未聞の、人類と兵器による「一対多の地底戦」の舞台へと姿を現したのであった。


「ご登場じゃの。いやいやお見逸れした。これだけの食客を抱えておられるとは、さぞかし名のある大親分殿に違いない」


 兵器たちをやくざ一家に、自身をそこに単身殴りこみに来た侠客にでも見立てたか、どうやらこの男の頭の中では今まさに任侠映画のテーマソングが鳴り響き始めたようである。


「"お控えなすって"といきたいところじゃが、仁義の切り方はよく知らんでの。わしのオリジナル口上で勘弁してもらおう」


 いつの間にか鞘に収めた鬼狩丸を支えにして、再びよっこらせと身を起こし、自身を取り囲む巨大兵器たちを満足気に一瞥した後、アパッチに向き直った天一郎は、なんと本当に"名乗り口上"を述べ始めた。


「やあやあ、それなる方々に物申す。それがしは旅の剣士、鬼伏天一郎と申す者。若輩なれど、その愚名通り、天下に唯一人の力を持つと自負する豪傑なり」


 当然のごとく兵器たちからの反応はなく、それどころかいつ総攻撃が開始されてもおかしくない状況であるにも関わらず、自分が口上を述べている間は攻撃されないという確信でもあるのか、天一郎はこのような見せ場を待っていたとばかりに、喜色満面の表情で続けた。


「故あってこの地に尋ね入ったが、問答無用とあれば是非も無し。各々方が現世(うつしょ)に残されし未練愁苦(みれんしゅうく)の一切、我とその愛刀・鬼狩丸が、見事"喰らって"進ぜよう。在所ご両所の仇と思い、存分に打ちかかって参られるがよい」


 この男らしい、どこまでも相手を見下した、高慢かつ傲慢な名乗り口上を満足げに終えた後、天一郎は腰を落として半身の姿勢となり、左手の鞘に収めた愛刀を抜刀せぬまま、柄にそっと右手を添えた。


 事ここに及んで居合い斬りの類が通用するはずもなかったが、一世一代の大舞台と見て気力体力ともに蘇ったか、やや前かがみで兵器たちを見据える天一郎の瞳には先ほどまでの疲労感や倦怠感はまったく窺えず、口上で"喰らう"と宣言したその言葉通り、獲物に襲いかかる直前の猛獣のような、ギラギラした空腹感と高揚感が漲っているのであった。


 そして、まさか天一郎の口上が終わるまで待っていたわけでもなかろうが、たとえこの男を挟んで対角にいる味方を攻撃することになろうと、あるいは自らの車体を爆破することになろうと、この空洞が崩れ落ちることになろうと、我らが守護する地に仇なす無法者、断じて許すまじという兵器たちの無言の殺気が一気に凝縮したその瞬間 ーー


「いざ!」


 空洞に鋭く響き渡る天一郎の掛け声が、まるで合図にでもなったかのように、巨大兵器たちがその持てる火力の全てを一気に解放した。


 ―― 74式戦車と機動戦闘車は、その主砲51口径105mmライフル砲を。


 ―― 89式装甲戦闘車は、主砲である35mm機関砲と対戦車誘導弾を同時に。


 ―― 99式自走155mm榴弾砲とFH70 155mm榴弾砲は、本来数十キロメートル先の敵を撃破するための155mm砲を超近距離で。


 ―― 主砲を失った87式偵察警戒車は、砲弾を内部で誘爆させ、弾け飛ぶ自らの破片を武器として。


 ―― その他の兵器たちも、残されたあらゆる攻撃手段を最大限に駆使して。


 そして、天一郎言うところの"名のある大親分"、最強兵器アパッチ・ロングボウは、左右のポッドに搭載された70mmロケット弾、陸上自衛隊の独自装備であるスティンガー空対空ミサイル、さらに先ほどこの男を文字通り奈落の底へと突き落とした"地獄の業火"ロングボウ・ヘルファイア空対地ミサイル、それらすべての、閉鎖空間で使えば間違いなく自らをもその爆発の巻き添えにするであろう強力な砲弾を、ここで果てるが本懐とばかりに、天一郎に向けて全弾発射したのである。


 もしこの戦いを目撃したものがあっても、白昼夢や幻覚の類として一笑に付されたであろう、戦力差を考えれば現実的にあり得るはずもない、たった一人の剣士に対する数十台の重火器による一斉攻撃は、まるで全ての兵器が情報ネットワークに接続されて、マイクロ秒の精度で同期が行われていたかのように、寸分違わず同じタイミングで始まり、空洞は一瞬でまばゆい火球と衝撃波と砲煙に包まれ ーー


 そして始まった時と同様、一瞬で静謐なる暗闇に戻ったのであった。

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