第三章(13)
「ほほう……」
10式戦車やアパッチがこの空間から現れたということ、そして両者とも恐らく天一郎の存在に反応して動き出したということを考えれば、眼前の現象は予想し得ることであったかもしれないが、実際に当事者として目撃してみれば、そのあまりに異妖かつ壮観なる光景には、この男ならずとも感嘆のため息を漏らす以外にはなかったであろう。
巨大空洞のあちらこちらに膨大に堆積している、"大異変"の際に崩落してきたと思われる岩石や土くれの中から、エンジンやモーターの駆動音そして金属が"ぎしぎし"ときしむ音と共にその身を起こしてきたもの達は ーー
軍事的な分類では"第二世代主力戦車"に属し、旧型ではあるものの長らく本土防衛の基幹戦力であった"74式戦車"。
10式戦車の開発ノウハウをベースに、足回りを履帯ではなくコンバットタイヤに変更。74式戦車と同等の火力と10式戦車に匹敵する命中精度を持ちながら、最高時速100kmという高機動性を共存させることに成功した、本州や都市部での戦闘の主力となることが期待されていた"機動戦闘車"。
兵員の輸送を主目的にしながらも、35mm機関砲や7.62mm機関銃、79式対舟艇対戦車誘導弾といった重火力を装備し、さらに側面に銃眼を備えることにより各兵員が乗車したままでの外部との戦闘を可能にした、日本初の歩兵戦闘車(IFV)である"89式装甲戦闘車"。
150mm榴弾による強大な火力、そして砲弾と装薬の自動装填による6発/分の発射レートと最大射程距離40kmを誇る、本来は北海道にしか配備されていなかったはずの"99式自走155mm榴弾砲"。
その他、"87式偵察警戒車"や"FH70 155mm榴弾砲"など、動力や自走機構を有する様々な兵器が数十台以上、土石に埋もれていたその巨体を自ら掘り起こし、先に華々しく散っていった10式戦車の仇を討たいでかとばかりに、無礼な侵入者に対する迎撃体制を整えようとしていたのである。
そして、10式戦車がそうであったように、ほぼ全ての兵器が ーー
スクラップ寸前の惨状を呈していたのであった。
「標的がわしでなければ、"天晴なり我らが守護神たち。死してなお敵を殲滅せんとするその矜持、大八洲国の誉れなり"とでも言ってやりたいところじゃがの」
この空洞に落ちたことにより、地震によって直接潰されることは避けられたものの、落下の衝撃および覆いかぶさった土砂や岩石等の巨大重量の圧力により原型を留めている機体は一つもなく、車体はひしゃげ、砲塔は折れ曲がり、車輪は砕けて脱輪し、もはやまともな攻撃が行えるかどうかさえも不明な状態の兵器がほとんどであった。
「しかしながら貴殿たち、剣士一人に対して数十機がかりとはまさしく多勢に無勢、なんともご無体なことであらせられるな」
たった一人の若僧が、かつて自らをも守る対象にしていたはずの、そしていまや動けるはずもない自衛隊の忘れ形見たちに、どうやって造り出されたのかも不明な地下の巨大空間で完全に包囲されている ーー
"本分"を果たさんとする兵器たちに畏敬の念を抱きつつも、自らを取り巻くあまりにも非現実的で滑稽な状況に、苦笑というよりもむしろ爆笑を噛み殺すような風情で、天一郎はくっくっくと声を出して笑った。
そしてその時、上空から聴こえるはずもないこの男の含み笑いを感知しそれを"挑発"と捉えたか、あるいは起き出してきた全ての兵器がネットワーク化されて情報が共有されているのか、先ほどまで地表周辺をホバリングしていた最強ヘリAH-64Dが、この身の程知らずにとどめを刺すべく、"ぼぼぼぼぼぼぼ"というお馴染みの騒音と共に、同胞たちの待つ"巣"の中へ、ゆっくりゆっくりと戻り始めたのであった。




