第三章(8)
「成仏されい。図体がでかすぎて、墓は作ってやれんがの」
自らの一撃に対する絶対的な自信のなせるわざか、動かなくなった10式戦車の方を振り返ることもなく、天一郎は鞘の方へ歩き出した。
「しかし、空挺部隊の駐屯地に、なぜ戦車がおる? 戦車は機甲部隊の駐屯地にしかおらんと思ったがのう……」
かつて自衛隊には様々な兵科が存在したが、直接戦闘を行う"戦闘部隊"としての兵科は「普通科(歩兵部隊)」「機甲科(戦車部隊と偵察部隊)」「野戦特科(対地攻撃部隊)」「高射特科(対空攻撃部隊)」「航空科(飛行部隊)」の5つに分類される。
それ以外に「情報科」「施設科」「衛生科」など計16種の兵科があり、これらの兵科が、各地域の師団や旅団の隷下に「連隊」や「大隊」として機能別に編成され、それぞれの駐屯地に配置されていたのである。
どの駐屯地にどの連隊や大隊をどの組み合わせで常駐させるかは、戦略上の目的やその駐屯地の広さ、立地条件等を鑑みて決定されるため、どちらも戦闘部隊である普通科と機甲科が同じ駐屯地を使用していたとしても不思議はないが、それは広大な敷地面積を誇る一部の駐屯地に限ったことである。
この竜ヶ谷駐屯地程度の広さの土地に、兵科の異なる、しかもどちらも数百人規模の戦闘部隊である普通科大隊と戦車大隊を共存させる余地などあるはずもなく、なゆたの言っていた通り、ここが空挺部隊中心の駐屯地だったとするならば、戦車が存在するというのはあり得ないことであった。
「しかも、平時の訓練であれだけの実弾を積んでおるわけがない。"大異変"の時にちょうど合同演習でもあったか、あるいは"なにか"と一戦交えようとしておったか……」
拾い上げた鞘に鬼狩丸を収めながら、天一郎は考えを巡らせていた。
10式戦車の爆発規模から考えれば、誘爆した予備弾倉にも炸裂弾が搭載されていた可能性が高いが、通常訓練の際に使用するのは安価な演習弾のみのはずである。
さらに、もしこの戦車が、実弾をふんだんに使える大規模な訓練や演習に参加する予定だったとしても、天一郎の知る限り、そのような規模の訓練が可能な演習場はこの地から100km以上離れているはずであった。
存在するはずのない戦車が、通常訓練目的でもなく、演習のためでもなく、この駐屯地に配備されていた理由はなにか?
「"大異変"直前の数ヶ月ほど、政府や自衛隊、それに警察周辺で色々とおかしな動きがあったと爺さまから聞いたことがあるが、それと関係しておるのかのう?」
鞘に収めた鬼狩丸を肩に担ぎ、天一郎は空を仰いだ。夕刻が近づき、日は随分と傾いている。
「いかんいかん。余計なことを考えている場合ではなかったな。とりあえず日が暮れる前にはカタをつけんと。仕事を終えた帰り道、地割れに落ちて一巻の終わりというのは勘弁じゃ」
天一郎はあれこれと思索にふけるのをやめて、司令棟に辿り着くことと、そこにいる可能性の高い怪人との再戦を第一目的に設定し直した。
村長から仕事を依頼された際に「調査はわしの専門ではない」と固辞したこの男であるが、幼い頃によく読んだ探偵小説の影響か、謎を前にするとついつい生来の"推理好き"が顔をもたげてしまうのである。
「戦車殿が色々と荒らしてくれたが、司令棟までのルートはなんとか無事じゃの」
10式戦車の砲弾や自爆の衝撃で、さらに地盤がゆるくなったであろう道のりを、天一郎は苦笑を浮かべながら再び一歩一歩慎重に歩き始めた。
先ほどの戦闘の際には足元を気にする素振りなど全く見せずに走り回っていたこの男であるが、平時にはそれなりの思慮はあるらしい。
「心配なのは司令棟に入ってからじゃな。一つ一つ部屋を調べていってはそれこそ日が暮れてしまう。向こうから出てきてくれればいいのじゃが……」
"向こうから出てきてくれ" ーー 切なる願いが聞き届けられたか、このとき、新たな刺客が再び地の底から放たれた。
天一郎を抹殺すべく、かつて地上最強の名をほしいままにした悪魔の兵器が、"地獄の業火"をその身にまとって ーー




