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鬼喰い  作者: 勝又健太
第二章 本村"日守村"
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第二章(7)

 予想外の話の展開に、さしもの天一郎も意表を突かれたか、ぽかんと口を開けたまま絶句してしまった。


「その怪人を見たと言っているのは、君とこの二人だけだ。この姉弟とは長い付き合いだから疑いたくはないが、一村の長としては全ての可能性を考慮しなければならん」


「なるほどな。わしとこの二人が共犯者ということか。確かにやつを目撃したと言っているのはわしらだけじゃし、口裏を合わせている可能性もあり得るの。だが、だとしたら動機はなんじゃ?」


 絶句したのも一瞬、"つまらん取り調べがやっと面白くなってきた"とでもいうような薄い笑みを浮かべて、天一郎は聞き返した。


「動機か。確かにこの二人には、分村の者を皆殺しにするような動機はない。だが、君に脅されて嘘を強要され、ここまで案内させられたということは考えられる」


「ふむ。だとしたら、入口で松田殿に刀を預けるのはおかしいと思うがの。剣士が丸腰で何ができる?」


「嘘がばれないと過信していたか、もしくは君が実際には剣士ではなく、素手の格闘に自信を持っているということも考えられる」


 全ての可能性を考慮しなければならないのが自らの義務だと村長は言ったが、確かにその言葉通りの用心深さであった。

 立場が彼をこういう風に変えたのか、元々そういう性格だったのか、それは他者からは分かりかねることであったが、いずれにしてもこの時代における組織の長として欠かざるべき資質の持ち主であると言えた。


「なるほど。まあ確かに柔術も多少嗜んではおるがの。しかしそうなると、その素手の格闘術だけで、わしから少し離れたところに座っているこの弓の名手の二人を、"逆らったら殺すぞ"と脅しているということになるぞ?」


「……」


「それに、わしがどんなに素手の闘いに自信があったとしても、松田殿が太もものところに装備しておられる物騒なものに、丸腰で勝てると思ったりはせんじゃろう」


 保安官である松田のレッグホルスターに装備されていたのは、かつて自衛隊が制式拳銃として採用していた9mm拳銃、P220であった。

 銃器の製造が完全にストップし、また部品の調達も非常に困難になったこの時代においては、正常に動作する拳銃の存在は希少であったが、それ故にその脅威は過去と比較しても絶大であり、天一郎の言う通り、丸腰でそれに立ち向かおうと考えるものなどいるはずもなかった。


「まあ、それは確かにそうですね。村長……」


 天一郎から思いがけず持ち上げられる形となった松田は、こそばゆさを隠そうとするかのように、眉をしかめつつ村長と顔を見合わせた。


「ふうむ……」


 村長はまだ考えを決めかねているようであったが、確かに、もしなゆたとすばるの姉弟が脅されているならば、こういった話の展開になった時点で彼や松田に助けを求めていたはずである。

 しかし二人には一向にそういった気配はなく、特にすばるは天一郎のことを強く信頼している様子であった。

 そのことを考慮すれば、天一郎と二人の話が真実である可能性が高いということになるが、たとえそうであったとしても、分村に現れたという怪人の風体やその闘いぶりは、現実の話であるとはとても信じ難かったのである。


「まあ、百歩譲ってわしが分村の事件の犯人じゃとして、次にこの日守村の住人を全滅させようと思っていたならば、小細工はせんよ」


「どうするというのだ?」


「正面から、全員斬って捨てる」


「馬鹿な……不可能だ」


「そう思うか?」


 天一郎はにっこりと笑い、そしてその笑みを見た村長の顔からは一瞬で血の気がひいた。


 村長だけでなく、松田も、そしてなゆたもすばるも、悠然と笑みを浮かべたこの小生意気な17歳が、戯言やハッタリでそう言っているわけではないと、本能的に感じとったのである。

 この男は、そう決めたなら本当にやる ーー しかもその意志を現実化するだけの力を持っている ーー 童子のように無邪気に微笑むこの17歳の放つ鬼気に、さしもの百戦錬磨の村長も、心臓を鷲掴みにされるような息苦しさを味わわさせられていた。


「……見過ごせない不穏当な発言だな。君は明らかに危険人物だ」


 村長はやっとのことで声を絞り出して言った。

 確かに、これから村に滞在させてもらおうという、いわばお願いする側の立場の人間がする発言ではなかった。


「わしもそう思う。で、どうする?」


「もうやめて!そんなつもりであなたをここに連れてきたわけじゃないわ!」


 今まで事の成り行きを見守っていたなゆたが、ついに我慢しきれずに叫んだ。


「村長もやめて!その怪人の話は本当だし、この人に脅されてここまで案内してきたわけじゃないわ!嘘をつくんだったら、そんな現実離れした話じゃなくて、もっと上手な嘘をつくわよ!」


「まさに、その通りじゃ」


 我が意を得たりと言わんばかりに、天一郎は大げさにうなずいた。ここまで話がこじれても、いやこじれたから余計にそうであったか、この男はあくまでも愉しげな様子なのであった。

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