第二章(4)
「じゃあ中に入る前に、刀は預からせてもらおう。規則でな、役場内には関係者以外は武器を持ち込むことは出来んのだ」
「よく刀を取り上げられる日じゃの……まあよい。治安上当然じゃな」
天一郎は渋々ながらも鬼狩丸を松田に預けた。"眠っている"ことは確認済みのようである。
「ずいぶん重たい刀だな。荷物は持っていて構わんが、念のため中身はもう一度点検させてもらおう」
松田は、ほとんど物が入っていない天一郎のズタ袋を慎重に点検した後、天一郎のボディチェックも入念に行った。
入村する際にも神経質すぎるほどの検査を受けたが、ここら辺の用心深さはさすが軍隊仕込みである。
「それでは中に入ってくれ。村長は知らせを聞いてもう来ている」
「村長殿も、元自衛官か?」
「そうだ。"大異変"のとき、俺がいた部隊の班長だった」
天一郎たちは役場の中に通された。入口横の保安室やいくつかの会議室を過ぎて、最も奥まったところに「村長室」という表札の掲げられている部屋があった。
「村長、例の男を連れて来ました。なゆたとすばるも一緒です」
元自衛隊員らしく上下関係はきっちりしているようだが、軍隊調の雰囲気ではなかった。
"大異変"の際に自衛隊という組織そのものが壊滅し、彼らの階級を裏付ける制度も意味を失ったため、お互いの暗黙の同意の元にゆるやかな階級社会が形成されている、という現状なのであろう。
「入れ」
松田がドアを開けると、事務机の上に積まれた書類に目を通していた男が、丁度こちらに視線を移して立ち上がるところであった。
「村長の田岐神だ。君が噂の男だな。驚いたぞ、報告は受けていたがこんなに若いとは。格好もなかなか個性的だな」
厳しい眼差しの男ではあったが、決して威圧的ではなかった。
身長は松田と比べれば低く、170cmほどであったが、かなりがっしりとした体つきで、白いものが混じってきている髪を短く刈り込み、迷彩服ではなくYシャツを着込んでいた。
年齢は40代前半位か、いかにも現場叩き上げといった雰囲気の、修羅場をくぐってきた胆力と生命力を感じさせる男であった。
「どういう噂になっておるのか少々心配じゃがな。よろしくお願い申す」
「うむ。それではそこの椅子に座ってくれ。すぐに取り調べに入らせてもらおう。このあとも予定が詰まっているものでな。なゆたとすばるはそっちの椅子に座れ。松田、調書の記入はおまえが担当しろ」
「了解です」
村長は合理的な精神の持ち主らしく、三人にきびきびと命令した。名前の呼び方からして、なゆたとすばるは村長の昔からの顔なじみのようである。
姉弟二人は天一郎の隣の椅子に座り、松田は村の手製と思われる鉛筆と調書を持ち、村長の横に立った。
「それではまず、名前から教えてもらおうか」
「天一郎じゃ。鬼伏天一郎と申す」
「鬼伏?どこかで聞いた名だな……」
「ふふふ。まあ一応旧家じゃからな。どこかで耳にされたことはあるかもしれんの」
天一郎は、自尊心の塊のようなこの男にしては珍しく多少謙遜したように言ったが、元自衛官である村長や松田が自分の名前を知らなかったことにプライドを傷つけられ内心では憤慨していた。
取調べ中という状況でなければ、"武闘に携わる者が鬼伏の名を知らぬとは笑止千万"と、悪態の一つもついていたであろうが、とりあえず飯を食うまではと考え、なんとか堪えたのであった。
「なるほど。昔ながらの剣士の一家ということか。我々は銃器関係が専門でそっち方面は疎くてな。では次だが、年齢と出身は?」
「年齢は17じゃ。出身は山形。"大異変"のときは東京におったがの」
「そうか、東京は特に被害が酷かったと聞いているが、よく生き残ったな」
「たまたまじゃな。運が良かったとしか言いようがない。ここら辺りはどうだったのじゃ?」
「東京ほどではなかったかもしれないが、ひどいものだったよ。我々のいた駐屯地は特にな。他の地区にいた自衛官も何人かこの村に移住してきたが、彼らのいた基地や駐屯地はどこも、まるで地面から這い出てきた大蛇がのたうち回ったかのように徹底的に破壊され、地割れに呑み込まれていったそうだ」
「……」
「自衛隊だけではなく、米軍基地や、発電所、工業地帯、港、空港、それら国の重要拠点が根こそぎ、それこそ狙われたかのように徹底的に破壊され、地中深くに消えていった。"大異変"とはよく言ったものだが、あれがただの地震だったと考えるには、異様な点が多すぎると思わんか?」
「……確かにそんな気もするが、わしのような無学の輩には、よく分からんの」
「おおすまんすまん。"大異変"の話になるとどうしても興奮してしまってな。それでは次だが、旅の途中でこの村に立ち寄ったと聞いているが、旅の目的は?」




