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鬼喰い  作者: 勝又健太
第二章 本村"日守村"
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第二章(3)

 年齢は30代前半くらいであろうか、身長は180cmをゆうに超え、均整のとれた体つきで、浅黒く日焼けした顔に無精髭をたくわえた、いかにも体育会系出身のタフガイといった風情の男であった。

 迷彩服を着込んでいることからも、おそらく自衛隊出身者の一人なのであろう。


「あ、松田さん、こんにちは!」


「おうすばる、よく来たな。なゆたも元気そうでなによりだ。で、そこの君が、分村で騒動を起こしたという例の男か?」


「む、どういう風に伝わっておるのかは知らんが、わしが騒動を起こしたわけではないぞ。むしろ巻き込まれた側じゃ」


 天一郎は不平そうな顔をして言った。どこに行っても騒動の発端になるのは大抵自分であるという自覚はあったが、今回の場合は完全に貧乏くじであった。


「そうか。東の門番達が先に知らせに来たので待っていたが、俺たちも詳しい状況があまり分かっていないのでな。申し遅れたが、この村の保安隊長をしている松田という。まだ若いのに、ずいぶんと強いそうだな?」


「まあ、そこそこじゃの。試してみられるか?」


 天一郎はにやりと笑った。おだてられると誰よりも調子に乗りやすく、すぐに自分の腕を披露しようとするこの男に、「強い」等の褒め言葉は禁句である。


「はっはっは。いずれお手合わせ願いたいところだが、勤務中なのでな。まずは取り調べを受けてもらわねばならん。村長直々というのは滅多にないことだが、事件が事件だからな」


「承知した。特にやましいところはないからの。なんでも聞いてくれればよい。それと、用心棒の口があったらご紹介願いたいが、募集中かの?」


「ああ、それも村長に直接交渉してくれればいい。用心棒や戦闘教官の仕事は一年を通して募集中だから、君の腕次第で口はいくらでもあるだろう」


「戦闘教官?」


「村民に野盗との戦い方を教える教官だ。どの村でもそうだと思うが、この村も野盗との戦いはずっと続いているからな」


「なるほど、やりがいのありそうな仕事じゃな」


 このとき、二人のやりとりを聞いていたなゆたの表情に一瞬暗鬱な影が差したが、天一郎は気が付かなかった。


「それと、取り調べの後でなにかめしを食わせてもらえんかの。分村で一戦交えた後じゃし、腹ぺこなのじゃ」


「食糧の配給時間は決められているが、滞在許可が出て仕事が決まれば乾燥食糧くらいはもらえるだろう。そこら辺も自分で交渉してくれ。俺は保安以外の権限は無いのでな」


「了解した。そうしよう。ところで、もう一つ聞いておいてよいか?」


「なんだ?」


 さっさと取り調べに入りたい松田は、天一郎の質問攻めに少々うんざり気味という感じで聞き返した。


「なぜ、おぬしのような立派な保安官がおりながら、あのような危険な現場にこの2人だけをよこしたのじゃ?いくら弓が使えるといってもまだ子供じゃろうに」


 触れられたくない点に触れられてしまったか、松田の表情がさっと曇った。


「……俺は本村の保安隊長だ。分村は管轄外なのでな。あちらで事件が起こったとしても、本村での業務が優先だ」


「ふむ、縄張り主義か。人様の村の方針に文句をつけるつもりはないが、大の大人がおりながら、女子供に率先して危険な仕事をやらせるというのは、あまり感心せんな」


「いいのよ!わたし達の仕事なんだから。村のこと何も知らないくせに、余計なこと言わないで!」


 なゆたが怒りの表情で激しく言い放った。天一郎の言葉は、どうやらこの村のさらなる暗部に触れてしまったようである。


「なぜおまえが怒るのじゃ?まあよい、確かになにも知らん部外者じゃからの」


「……君が疑問を感じるのは自由だが、この村にはこの村なりの事情やルールがある。それを尊重できんようなら、滞在を許可することは出来ないぞ」


 松田は苦々しい表情で言った。来た早々に村の恥部をほじくり返そうとする男に会ったのは初めてであった。


「分かっておる。ルールを破るつもりはない。事情を知らんよそ者のたわ言と思って、大目に見てくれい」


「まあいいだろう。今回は不問にするが、誰にでも聞かれたくないことや知られたくない過去はある。君はまだ若いから分からないかもしれないが、他人が土足で踏み込んではいけない領域というのはあるんだぞ」


「了解した。以後気を付けよう」


 天一郎はいかにも反省したような表情でそう言ったが、分村からの彼の行動をずっと見てきたなゆたには、この男が今後も発言に気を付けるつもりなど全くないことは一目瞭然であった。


 分村で怪人から救ってもらった恩や、あの怪人がまた襲ってきた場合のことを考えれば、天一郎が本村に滞在することは心強かったが、この男がこの後どんな騒動を巻き起こすのか、想像するだけでなゆたは深い溜息が出てくるのであった。

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