表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は敵になりません!  作者: 奏多


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/278

メイナール市傭兵団討伐 2

 カインさんとアランが私の前に出る。二人の手は既に剣を抜き放っていた。ほぼ同時に背後の兵士達も警戒して立ち上がった。

 けれどその氷狐は怯える様子もなく、むしろ早く縄を解けと、隣に立っていた斥候の兵士に背中を押し付ける。

 ぐりぐりとなすりつけられて、なんだか……羨ましいなそれ。

 斥候兵の方も懐っこいのかわからないこの氷狐の態度に、どうしようと目線をアランに向けた。

 アランが困惑した様子で言う。


「とりあえず……ほどいてやったらどうだ?」

「そうだよね、荷物を降ろしたいだけかもしれないし……」


 同意すると、カインさんがしっかりと「キアラさんがしちゃだめですよ」と釘を刺された。……どうして触りたいと思ったことがばれたんだろう。

 とにかく兵士さんは、噛みついてくるわけでもなく、むしろすり寄ってくるようなしぐさの氷狐から、おっかなびっくり子供を降ろした。


 氷狐は「はーつかれた」と言わんばかりにその場でお座りして、後ろ足でしゃかしゃかと肩の辺りを掻き始めた。確かに普通の狐よりやや大きい体をしているとはいえ、子供を背中に乗せて歩くには、狐の足はほっそりしすぎてて華奢に見える。


「すごく人慣れした氷狐だな」

「そうなんですよ。最初から敵意は無いというように、きゅーと鳴いて可愛くて……それでどうしようかと」


 アランの感想に、兵士がでれでれしたように答えていた。

 なにそれきゅーと私も鳴かれてみたい。触りたい、抱きしめたい。

 あの毛のふかふかっぷりを堪能したくてうずうずしていたが、カインさんが私の肩に手を置いて、注意を促すように言う。


「しかし氷狐は魔獣です。知能も人間並にあるはず。それがただ懐いてくるだけならまだしも、子供を乗せていたのだから……使役している者がいたはずです」


 そこで兵士も私もはっと息を飲んだ。

 確かに。この氷狐を大人しくさせ、子供を乗せさせ、紐でしばりつけた人がいるはずだ。そこまでできるのは、氷狐という魔獣を使役できる、魔獣使いのはず……。


「ん……リーラぁ? リーラどこ……」

 そこでようやく、兵士が抱き上げていた子供が起きた。柔らかな亜麻色の髪の子供が兵士の腕の中で、小さくみじろぐ。

 きゃーぅと氷狐が鳴くと目を開けたようだが、眼前に見知らぬおじさんの顔があったからだろう、子供は「ひゃあっ!」と悲鳴を上げて驚いた。


「わわっ、落ちる落ちる! 落ち着きなさい!」

「りりり、リーラっ、リーラはっ!?」


 可哀想な兵士はそれでも子供をなだめようとしたが、子供の方は混乱したのか氷狐のものらしき名前を連呼する。

 それももう一度氷狐が鳴き、子供は「リーラ!」と叫んでそっちへ行きたいと手を伸ばしてじたばたとする。

 兵士がやれやれといったように氷狐の前に子供を降ろしてやると、子供は暗い中でもよくわかるほど笑顔になり、ぱっと氷狐に抱き付いた。


「うう、リーラぁ。おばちゃんどうなったの? お家は? 火が……」

 次第に何かを思い出したのか、子供は涙声になっていく。


 こちらは大人しく子供のなされるままになっている氷狐の姿に驚いていた。普通の魔獣が、飼い犬みたいに大人しくしていることなどめったにない。せいぜい調教した人間相手ぐらいだ。けれどこの子にそんなことは不可能だろう。

 不思議すぎて私はアランやカインさんと顔を見合わせてしまう。


 一方、子供の言葉を聞いた氷狐は、何かを探すように私達を見回した後、こちらをじっと見た後で子供に私の方を向くように鼻先でつついて促す。


「リーラ、このお姉ちゃん達に言えばいいの?」

 子供が氷狐の意図に気がついたかのようにそう口にした。すると氷狐は、私を見つめたまま、犬が喉から出したような甲高い声でキャンと鳴く。

 ――この子の話を聞いてくれと言うように。

 それを子供も察したのだろう。恐る恐るながらも、私達に向かって話した。


「あの、おばちゃんやお父さんたちを助けて! メイナールが、他の傭兵の人たちのせいで燃えて無くなっちゃいそうなんだ!」

「え、燃えて……って、傭兵が火をつけたの?」

 うなずくと同時に、斥候の兵士がまた一人戻ってきた。


「大変です! メイナール市が火事に! 傭兵どもが火を放ったようです!」

 子供の話が裏付けられた。

 聞いたアランはすぐに出発を呼びかけながら、兵士に尋ねた。


「火はどこから出火している?」

「中央の市長の館と思しき場所、あと北の広場の辺りが数か所」

「……こちらの動きに気付いたのかもしれませんね。消火で手間取らせている間に、逃げおおせるつもりでしょう」

 カインさんの言葉にアランがうなずく。


「三手に分ける。本隊は予定通り市長の館の方へ。逃げる途中の傭兵たちを叩く。退路を断つため、騎馬の100騎は僕と一緒に西側の門へ。他は東側から侵入。傭兵団を叩く者が300、残り100が」

「……それなら、中の人のことは気にしなくてもいいね」


 私はぽつりとつぶやく。

 放火を確認し、斥候の兵士が戻ってくるまでにもそこそこの時間がかかっている。傭兵以外の中にいた人は……助かる可能性が低い。逗留していた傭兵が中に居た人を助ける確率は低いだろうから。


「市長の館を一気に消火したら、市内を回りたい。土で消火できるはずだから」

 手を上げて言えば、アランがうなずいた。


「カイン、キアラのことは任せた」

 アラン達が騎乗し、その間にも兵士達が移動を始める。私はカインさんに手を引かれ、騎乗した彼の前に乗せられた。


 氷狐は子供のことをまだ傍にいた斥候の兵士に押し付けるように押し出し、自分は私が乗った馬の傍に来た。

 おう、馬がちょっと怯えてる。

 この氷狐は何をしたいのだろうと戸惑っていると、ふさっとした太い尻尾を揺らし、馬を歩かせ始めた私達について歩きだす。元々の飼い主のところへ戻るのだろうか。子供の方はそのままにしておくわけにもいかず、先ほどの斥候兵が連れてくるようだ。


 私達は林を抜け、開けた土地に作られたメイナール市へと道を進む。

 徒歩の兵を置いて突出するわけにはいかないので、一気に進むことはできない。けれど距離はそれほど離れていないので、すぐに市壁の内側に入ることができた。

 背丈の二倍ほどの高さがある市壁に作られた門は、既に開かれていた。この混乱の間に逃げだそうとしたらしい、一般の人達が逃げだしていたからだ。

 そして見えたのは、建物の屋根の向こうに上がる煙だ。その火元が空を明るくしているため、はっきりと見える。


 夜なのに明るくなった市内を、私達は進む。

 石畳の道は、市外へと出ていく人がほとんどだ。傭兵たちは、逆らわなければそれでいいのか、わざわざ追いかけて虐殺するということはないようだ。おかげで、今まで目立つことを避けて潜んでいたのだろう人々が、手持ちの荷物と家族を連れて、必死に走っていく。


 逆流するように中央を目指した私達は、市長の館の前へたどりついた。

 館は左側のほとんどが炎に包まれていた。中から逃げてくる人はいない。……そして運のいいことに、まだ傭兵たちは館を出たばかりだった。


「カインさんもっと近づいて、私が投げたら止まってください!」

「剣の届く範囲までは行きませんよ」

 私の要望に応えて、カインさんが馬を走らせる。その腕に支えられながら、私は振り返った傭兵たちに向かって、銅貨を2・3個投げつける。

 石の上を、硬貨が跳ねる硬質の音が響いた。


 カインさんが馬を止めてくれたところで、私は馬から飛び降りて石畳に触れる。

 石と土で繋がってさえいれば、私の力は使えるのだ。

 距離を取って止まった私達に気付いた傭兵たちが、攻撃しようと反転してきた。

 けど、私の方が早い。

 走りだした彼らは、私の作った石壁にぶつかり、隆起した石畳に転がり悲鳴を上げた。


「魔術師だ!」

「あの小娘が魔術師だ!」

 起き上った傭兵が私を指さし、転ばなかったもっと後ろにいた傭兵たちが猛然と走ってくる。


 自分が標的にされ、体格差のある人間が駆け寄ってくるという状況は結構怖い。けれどここで怯んでいては何もできない。それにカインさんがいてくれる。

 カインさんは後方から追いついた兵に馬を預けて降り立ち、私の前に立つ。その間に私はすべきことを実行した。


 石畳の石一つ一つが、みょーんと伸びていく。

 長細い人の姿になった大人ほどの大きさの石人形10体を作りだす。石人形達は私の指示を受けて、整列して傭兵たちに向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ