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私は敵になりません!  作者: 奏多


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クロンファード砦攻略戦 1

「なんで僕なんだよ」

「レジーに言ったら止められそうだから、次の最高権力者ポストのアランに許可をとろうと思って」

「ああ……」


 私の言葉に、アランは納得せざるをえなかったようだ。

 あと、この人をうなずかせないと私が何も行動できないんで、カインさんも話に巻き込む。


 そうして二人に私の思いつきを話せば、アランは考慮する価値があるという表情になり、カインさんは「ちょっとそれは……」と難色を示した。

 けれど戦端が開かれてから突入とか、その前に普通に奇襲をかけるより、私も絶対安全だからと言えば、カインさんも渋々うなずいてくれる。

 一応試せとアランに言われて、小規模実験を行ったが、わりとすんなりできたことで、アランは認めてくれた。


 そして忘れちゃいけないグロウルさん。レジーを押さえておくためにも、ぜひとも彼と護衛騎士の協力は必要だ。

 カインさんに呼び出してもらい、私の計画の詳細を話して、実行時に私を止めに来ないよう要請した。

 グロウルさんはややしばらく難しい顔をしてはいた。


「悪くない案ですが、おそらく気づきますよ……殿下は、勘が良すぎますから」

「だからこそです。気付いても賛成多数で決まった後じゃ、レジーだって覆せなくなるはずです。そして実行時には、グロウルさんに止めてもらえたら障害はほぼなくなります」

「意外に策士ですな……」

 つぶやいたグロウルは、三秒ほど視線を明後日の方向に彷徨わせてから、私の案に同意してくれた。


 そして翌日。

 砦の様子を探るべく偵察を出すとともに、私は作戦会議にカインさんと共に出席する。


 大きな天幕の中、設置された机と椅子に、次々と人が座っていく。

 まずはエヴラール辺境伯領側から、アランとカインさんに代わって彼を護衛する隊長になっていたチェスターさん。

 そして先代が負傷のためエヴラールに残ることになったので、騎士隊長に昇格した30代のデクスターさんと、辺境伯家の守備隊長だったゲイルさん。

 エヴラール城の防衛に関しては副隊長に任せて、戦争経験が多いゲイルさんが派遣されることになったのだとか。


 更にレインスター子爵の叔父エダムさん。頭髪が白髪交じりのおじ様だ。

 エダムさんより若い、デクスターさんとそう年が変わらないだろうリメリック侯爵の弟、ジェロームさん。彼ら二人も騎士を連れてきている。

 最後にグロウルさんを連れた、まだ金髪状態のレジーが着席した。

 そして会議が始まり、レジー達によって作戦が話される前に私は立ち上がった。


「クロンファード砦を落とすにあたって、魔術師である私から提案があります」

 まっさきに応じたのは、素知らぬふりをしたアランだ。


「あの土人形を動かすというのは、作戦としてこちらも含めているが、それ以外に案があるということか?」

「そうです」

 うなずくと、魔術師というものにとても期待をしているエダムさんとジェロームさん、協力領地組の表情がやや楽し気なものになる。


「ぜひ教えてもらいたいものですな。これから長く連戦することになる以上、兵の損失は抑えられる方が良いのですから」

 年長のエダムさんに、経験値が一番高いだろうエヴラール守備隊長ゲイルさんがうなずく。


「それならばなおさらです。有利な立場を保つためにも、有効です。敵の士気はかなり下がるでしょう。脱走による兵の減少も見込めるはずです」

「一体何をなさるので?」

 どんな策だろうと身を乗り出すデクスターさんを見て私は言った。


「砦を意味のないものにします。端的に言うと、土人形で砦の壁を壊すところまでします」

「確かに壁を壊すことは可能でしょうな」

 とうなずくのは、城壁を一部損壊されてしまったリメリック侯爵家のジェロームさん。その節はすみませんでした。


「でも、キアラ殿は共に移動することになるのでは?」

 穏やかに発言したレジーは、けれど嘘は許さないという目で私を見る。

 私はまっすぐに見返した。


「移動はしません。遠隔操作を会得できましたので」

 もちろん、皆それならば問題ないと意見の一致を見た。

 旗振り役はアランだ。レジーとしても、私が戦場に突入するわけではないとなれば、反対しにくかったようだ。

 そうして無事に、土人形の突入による撹乱、砦破壊を組みこんで、攻略するための作戦行動が練られたのだった。


 作戦が決まった後、軍は一度二つに分けていた兵を合流させ、それから北上したのちに街道を西へと進む。

 途中、私は午前中の休憩で、カインさんと少し離れた場所で再度実験を行う。

 師匠よりも大きいくらいの土人形が、とてとてと走る姿に私は口の端が上がった。よしよし可愛いなぁ。


「ウヒヒヒヒ。上手くいっておるようじゃな」

「うん、大分いいよ師匠。なんで最初からこうしなかったんだろってくらい」

 思いつかない時って、なんか壁があってその先に進めない状態なんじゃないかってぐらい、近い部屋にたどり着けないような感じで、その案に気付かないんだよね。でも気付いてしまったら、こんなに効率のいいものもない。

 しかしカインさんが苦々しい声で言う。


「最初からこんなことをするなら、全力で止めてましたよ……」

「でもきっと、最初っからこれを使ってたら、魔術ってそういうものだと思ったんじゃないですか? 剣で戦えば怪我をしかねないけれど、でも戦争ってそういうものだからと、皆止めないでしょう」

 それと同じことを思うんじゃないかと言えば、カインさんは眉間に縦しわができる。


「どうしてこういう時だけ、あなたは饒舌になるんでしょうね。今からでも殿下に加担して、あなたを戦闘が終わるまで、どこかに閉じ込めておきたいくらいですよ」

 ため息をつきながら、カインさんが私に近づいて手を持ちあげ、手首をやわらかくつかむ。

 え、もう閉じ込める方向に転換するのかと思ったが、カインさんはそれ以上は何もしなかった。


「それでも今回は、敵地を少数で駆け抜けるわけじゃありませんから、多少はマシですが」

「でもカインさん。この方法でも、やっぱり私は戦場のまっただ中に立つことになると思う。レジーは守らなくちゃいけない。私を守らせちゃいけないから、レジーよりは前に立つつもりでいます。だから面倒ばかりかけて申し訳ないんですけど、護衛よろしくお願いします」

 手首に触れていた手を、私の方から握って願う。


 もう私はレジーに守られる存在でいてはいけない。頼り過ぎちゃいけないのだ。隣に並ぶ仲間なら、保護されるがままにしていてはいけない。

 だからレジーに相談しなかった。

 あの人は、先回りして私のために全てを整えすぎてしまうから。

 私はレジーが射られた事件以来、彼を保護者として見てはいけないんだと、きつく自分を戒めようと思ったのだ。

 もうすぐこの世界で成人を迎える年頃なのに、いつまでも親を恋しがっていちゃいけない。助言を求めるだけで、あとは自分で立てるようにすべきだろう。


 反抗期……みたいなものなのだろうか。

 けれど私は親から離れたり、倒したりして自立を手に入れるのではなく、私は親の立場の人達が私同様にか弱いことを知ったからこそ、守るべきだと考えただけ。

 そう。レジーだって私より一つ上の、前世ならまだ未成年で庇護されるべき人間だ。


 ただ私は身体能力的にはゴミレベルだ。

 誰かに物理的に防御してもらえないと、魔術を使っている間にどこからか飛んできた矢に刺されたり、突撃してきた人に斬り殺されてしまう。だからカインさんには、協力してほしいんだけど。

 カインさんはじっと私を見下ろしていた。


「キアラさん、アラン様とエヴラール城で言い合いをした時のことを覚えていますか?」

「え? はい……」

 転生の話をして、アランに信じてもらえなかった時のことだ。


「私は、何があっても……自分で立って進もうとする姿を見て、あなたを手伝おうと思った。そのことを、ずっと忘れていたように思います。あまりにあなたが小さくて、か弱いから、すぐに見誤ってしまう。でもあなたは、ただ守られるだけの存在じゃない」


 じっと見つめられてそんなことを口にされて、私は恥ずかしくて顔を伏せたくなる。赤くなってるんじゃないだろうか。

 まるで物語の中で、尊敬の気持ちを告白するかのようなカインさんの言葉が、むずがゆくてしかたなかったのだが。


「あなたは、懐かれたせいで見離せなくなった暴れ馬みたいなものです」

「……え?」

 あばれうま?

 カインさんの続けて言った言葉に、むずがゆさは吹っ飛んだ。

 しかも懐いたから見離せなくなったとか、どうなの? ちょっと私がダメ人間っぽくないですか? いやダメじゃないとは言えないけど……。


「この戦いが終わるまでは、行きたい場所へ行かせてあげましょう。それが手伝うと決めた私のやるべきことでしょうから」

 えっと……とりあえず、今回は協力してくれるってことだと思う。

 次はわからないけどね。


「良かったな、弟子よ」

 つぶやいた師匠に、私は無言でうなずく。

 とにかく認めてくれる。それが何より重要だ。


 その日の昼、エヴラール軍はクロンファード砦間近に到着した。

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