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私は敵になりません!  作者: 奏多


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魔術師になる方法

「石に耐えられない?」


 この老人、気味悪い笑い方をするしバカにした言い方もするけど、質問には意外と素直に答えてくれる。

 ……良い人なんだろうか。捕まったから投げやりになってるのかな?

 よくわからないけど、しゃべってくれるのは有り難い。


「契約の石は万物の創生に繋がる力が凝縮されておる。それを自分の身体に取り込むことで、魔術師は森羅万象を操るのだ、ヒヒッ」

「へー」

 なるほど、この世界の魔術ってそういう原理になっているのか。ゲームでは普通に技として魔法の名前が書いてあって、それを押したら、はい魔法発動ーって感じだったのだ。

 ただ使える魔法は最初からほぼ決まっていて、使う回数で術のレベルが上がって強くなるとか、キャラのレベルが上がって威力が増すとかいう感じだったのだ。


「そのように巨大な力の固まり……言うならば、太陽を飲み込むようなものだ。それに耐えられる者だけが魔術師になる。それでも単体でそれを成せる者など皆無フヒヒッ。だから魔術師は、師と一つの石を分け合うのじゃ、イヒッイヒッ……げほげほっ」

 変な笑い方をしすぎたせいか、咳き込んだ魔術師を見下ろしながら、私は思考する。


「分け合うって、割るの?」

「さよう。片方の小さな石を師が、大きなカケラを弟子が取り込む。同じ石であるからして、弟子が飲み込まれないよう干渉することができるのだヒヒヒ。師の方は既にそうやって大きなカケラを取り込んでおるからの。今更小さなカケラの力でどうこうされぬのさフッヒヒ」

 ようするに、既に体の中で炎を燃やせるようになってる師匠は、今更燃料を投下されたって平気。だけど初めて火を飲みこむ弟子は、そのままだとやけどしかねない。だから既に耐性がある師匠が片割れを飲みこむことによって、弟子側の炎をやけどしないように抑えることができる、ということだろうか。


 魔術師が師弟関係を作る真相を知って、私は納得した。

 なるほど。弟子が死なないように、師とビスケットのように石を分け合わなくてはならないのだ。しかも単独で魔術師になれる可能性はほとんどない。

 となれば、方法は一つしかない。


「……では、あなたに師になってもらうよう頼むこともできるんですか?」

「フヒ?」

 ストレートに頼むのが意外だったようだ。倒れていた老魔術師が目をまたたく。


「キアラさん! いくらなんでもこの男は危険です!」

 カインさんにも止められる。でも時間がないのだ。できれば今すぐ魔術師になりたいのなら、この老人に頼むしかないではないか。

 しかし当の老魔術師も、ニヤニヤしながら私を止めた。


「そうだの。そこの騎士の言う通りじゃな。無駄に死にたくないのなら辞めておくことじゃ。師弟関係となれば縛りが発生……いや、縛ることができるからの。イヒヒ」

「縛る?」

「弟子の魔術に干渉できるからこそ弟子は生き残る確率を高められる。だがそれはひっくり返せば、弟子の中に取り込んだ石の力を暴走させることもできるということだ。生死を握られる覚悟があるのかね? イヒヒ」

「生死!?」

 魔術師になれたとしても、生殺与奪まで握られてしまうとは。


 予想外だったけれども、ある意味納得できることではあった。ゲームのキアラも、魔術師になったのなら師がいたはずだ。負け戦になっても後に引けず、逃げられなかったのは、師にあたる人間に強要されたのではないだろうか。

 逃げても殺される。逃げなくても殺される。どちらかを選択することに苦悩した末に、最後の戦場で逃げないことを選んだのだとしたら。


「そうか、生死……」

「ま、他人に人生や目的までねじまげられたくないのなら、魔術師になるのは辞めるこったな……イッヒヒヒ」

「それは、使う魔術も」

「制限されるであろうなフヒヒ。過去には師を殺すため建物の破壊を目論んだが、あっさりと妨害されたこともあったとかいうなイッヒヒヒ。愚かなことよ」


「…………」

 それじゃ、魔術師になっても師を選ばなければどうしようもない。

 けれど私が知っている魔術師は、他には茨姫しかない。けれど魔術師になる方法を尋ねて、曖昧な言葉で濁した彼女が、弟子にしてくれる可能性は低いだろう。


 いや、それよりも茨姫には気になることがある。話せないことがあるようだったとレジーが言ってたのだ。なら、彼女にも師がいて、そのせいで何らかの束縛がかかってるとしたら?

 弟子など取ってくれない。もしくは弟子にできないだろう。

 他に方法はないか。悩む私に、カインさんが怖ろしい提案をしてきた。


「魔術師になった後で、私がこの老人を殺すというのは?」

「いやカインさん。殺されるとわかってたら魔術師にさせてくれないでしょ」

 効率だけ考えた血も涙もない発言に、私も思わずカインさんを止めた。


「魔術師をあなどるでない。そうなれば命をかけてお前達をみんな消滅させてくれるわ」

 宣言した一瞬だけ、老魔術師の目が鋭くなる。多分本気だ。


 とにかく、詰んだ。それだけはわかった。

 扉が閉ざされたような気がして、気が抜けてしまったその時。


「危ない!」

 カインさんが私を突き飛ばし、自分も転がるように老魔術師から逃げる。

 目の前を半透明の触手がよぎる。――クラゲだ!

 刺されたら、海のクラゲ以上にまずいことになる。慌てて私も老魔術師から遠ざかった。


 その間に、クラゲの他にも人が現れていた。

 口元を布で覆った、旅人風の男が数人。彼らは老魔術師を担ぎ上げると、カインさんを牽制しながら逃げて行く。


 魔術師は稀少。だから助け出したのだろう。

 担がれた老魔術師は男の背に揺られながら、じっと私を見つめていた。観察するような目で。


 カインさんはすぐさま方針を変更した。追いかけるそぶりを見せ、旅人風の男の一人と切り結ぶ。そのまま魔術師の方には目もくれず、目の前の男に猛攻をしかけて足止めし、そのまま切り伏せた。

 右腕から血が舞い、男の持っていた剣が落ちる。

 左手も血とともにだらりと垂れ下がり、剣の腹で頭を横殴りされた男はその場に昏倒した。

 怖いけれど、鮮やかな手並みだった。


「キアラさん、これで敵の動向がいくらかわかるのではないですか?」

 元々そのつもりで、敵を一人捕獲したようだ。さすが年の功というか、判断が素晴らしい。


「ありがとうございます。たぶんこれで、また魔術師を捕獲するのも楽になります……よね」

 けれど捕獲したところで、私を魔術師にしてくれるかわからない。

 その気持ちが、言葉の歯切れを悪くさせた。


 私とカインさんは、捕まえた男を縛り上げて連れて行くことにした。魔術師になるのが難しいなら、なんとしても情報を吐かせて、別な対策をとる必要がある。


 そうして城に帰った私は、騒然とする城内の様子に驚いた。

 皆が駆け回り、特に召し使いのおばさん達が居館や兵舎へひっきりなしに出入りしているし、明らかに急な増員を呼びかけられたのか、私服姿の上からエプロンをした女性達もいる。

 驚く私達に、通りすがりの衛兵が教えてくれた。


「あ、侍女さんに騎士様! 今日か明日には王子様が到着されるそうですよ!」

「え?」

「なんでもサレハルドと急遽交渉を行うことになったとか。それで、伯爵様が騎士様と侍女さんを探しておりましたよ」

 満面の笑みで教えてくれた衛兵が、次の瞬間にはぎょっとした顔になる。


「侍女さん!?」

「キアラさん!」

 カインさんが捕虜にした男を放り出して受け止めてくれなかったら、私はその場に倒れていたかもしれない。

 レジーを救う手段を手に入れる前に、彼が来てしまうのだから。

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