表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
275/278

番外編6:王妃は遠征に行きたいんです! 2

 デルフィオンに到着すると、エメラインさんと男爵のアーネストさんが出迎えてくれた。


「お久しぶりです王妃様」


 エメラインさんは以前とは様子が違った。なんだかいつもより女性らしいような。

 いや、エメラインさんの場合、別に女性らしくないわけじゃない。ただ、令嬢らしいものを着ていても、その下に鎖帷子を着ていて、ちょっと端から見えているようというか……。


 婚約の話を聞いた後から、少しは女性らしくしなければならないと思ったのだろうか?

 まさか、エメラインさんもずっと奥の方でちょっとだけ顔を出している、エイダさんの影響を受けて淑女らしくしているのだろうか?


 そう、エイダさんがいた。

 さすがに堂々と表には出られないけれど、ルシールさんの家庭教師として、様子を見守るために使用人の中に紛れているようだ。


 聞いていた通り、厳格そうな女教師然とした様子になっている。

 表情もぴしっとして、以前とは雰囲気も様変わりしていた。前は少し、すさんだ雰囲気もあったので今の方が安定していそうに見えていいのだけど。


 男爵一家との挨拶が終わると、私は一度休憩のため部屋に案内される。

 その後、夕食前にお茶をということでエメラインさんとルシールさん、そしてエイダさんがやって来てくれた。


「お久しぶりでございます、王妃様」


 可愛らしいピンクのドレスを着たルシールさんが、綺麗なお辞儀をしてみせる。

 その後ろに使用人然として立っているエイダさんは、自分が教育したお嬢様の成果に、満足げだ。目に喜びが感じられる。


 ああ、本当にこういうことが楽しいんだなと感じられて、私はほっとする。

 そうしてエメラインさんとルシールさんにテーブルについてもらって、人払いをしたところでエイダさんにも座ってもらうことにする。

 でもこの一年近くの間にすっかりと家庭教師役が根付いたエイダさんは、同席することを固辞した。


「いえ、私はもう貴族令嬢ではありませんし。王妃様と同席するなど、あってはならないことです」


 けれどエメラインさんが「その王妃様のご命令だから」と言ってエイダさんを座らせてくれる。

 良かった良かった。


 まず最初に、レジーの母である茨姫をご紹介。

 聞いてはいたみたいだけど、ルシールさんが「こちらが噂の!」と言い、それ以上の言葉を止めたエイダさんも、目をかっぴらいて茨姫を見ていた。


「ああ……相変わらずとんでもない」


 額に手を当てたエイダさんに、その茨姫が言った。


「……私もこうなるとは思わなかったわ」


 それからエイダさんの暮らしぶり聞いた。彼女は想像以上にデルフィオンに馴染んでいたようだった。

 最初こそ戸惑っていたらしい。

 でも家庭教師役をすることになった時は、見本を見たことがあるからこそ、自分のすべきことがわかって安心したという。


 熱心な教師になったエイダさんの様子に、周囲も感化され、なんとなくお行儀よくなっていったというのが面白い。

 と、そこでやや恥ずかし気に視線をさまよわせたエイダさんが、エメラインさんを促した。


「エメライン様、わたしのことよりもっと他に重要なお話があったのでは?」


「ああそうだったわ」


 エメラインさんがぽんと手を打ち合わせる。


「恋人らしくってどうしたらいいのか、改めて考えるとよくわからなくて。キアラさんに、陛下とどんなことをしていたかうかがおうと思っていたんです」


「……は? なぜ私に?」


 エメラインさんが恋愛について聞くのは、まぁわかる。

 驚くことに、アランと婚約することにしたエメラインさん。だけどものすごい理性的な理由で二人は合意し、婚約をすると決めたのだ。


 それを聞いたベアトリス様が、いくらなんでももう少し恋人らしいことをしてから、と言い出した。

 さすが恋愛結婚したベアトリス様だ。


 それならばと、二人は手を繋いだりするように心掛けていたはずだったけど……。

 主に照れていたのはアランで、エメラインさんは平然としていたのは、まぁ仕方ないとして。


 でも今さら恋愛について?

 え、アランとそういう話とかしないの?

 それに恋愛のことなら、周囲に女性は色々いるのに。なんて思ったら。


「父に聞くのは、アラン様が恥ずかしいからやめてくれと懇願してきまして。他の女性達は、結婚してからゆっくりでも……と言いますし」


 続けてエイダさんが、しかめっ面で答えた。


「私も交際の経験は薄いので。最初に結婚しようとしていた相手は、政略でしたし。次のヒキガエルには使用人扱いされていましたし……。恋愛をということなら、とても要求に応えられません」


 そうしてまっすぐ私を見て言った。


「ですから、交際を始めた後の男女の付き合い方については、少し明るくないのです。なので経験者に聞くべきだと助言いたしました」


「ちょっ……エイダさん!?」


 だからって私に振らなくても! と思ったけれど、エイダさんは至極当然といわんばかりの表情をくずさない。

 エイダさん、デルフィオンでものすごく進化しすぎじゃないでしょうか?


 ルシールさんとエメラインさんは、話してくれるだろうと思って、期待のまなざしで見つめてくる。

 何を話せばいいの!?

 まさかレジーにされたあれこれとか、お願いされてしたこととか?

 とてもじゃないけど口に出せない! と思った私。


 その時、見逃してあげるからと体調のことをエメラインさんに聞かれた。

 けれど特に不調も何もなかったのでそう答えて、私は部屋を出たのだけど。


「……まだのよう?」

「予兆も見逃すまいと、ぴりぴりしすぎたのではありませんか?」


 エメラインさんとエイダさんの言葉に、


「兆候はないけど万が一ってことがあるでしょう? それを心配していたのよ。連れて行った先で動けなくなったら、何か月も王都に戻って来られなくなるかもしれないから」


 ルシールさんが抱きしめた茨姫が、そうこぼすと、全員が「ああ……」と一斉に納得のため息を漏らす。


「もし今、初期で全く気づかない頃あいだとすると、ルアインに行ってからになりますよ? 自覚できるようになるのって」


 エメラインさんの言葉に、茨姫がため息をついた。


「そうなのよねぇ。でも、医師もまだ確定できる状態じゃないと言う以上、止められる材料が全くなくて」


「ヒッヒッヒ。あいつは痛い目をみたってあきらめんぞ」


 私には聞こえなかったけれど、師匠も加わってこそこそ話していた。一体なに。


 そんな彼女達には、夕食後に再び掴まってしまう。


「大丈夫、もうあんな聞き方はしません」


 不安がる私にエメラインさんがそう言い、ルシールさんが「普通におしゃべりがしたいです」とものすごく可愛いことを申し出てくれる。

 そこでメロメロになりかけた私に、止めをさしたのはエイダさんだ。


「お嬢様方お二人につき合ってくださるのなら、命じられれば参加いたします」


 エイダさんが一緒じゃなきゃいや、とゴネてみようとしたのにあっさり封じられ、私は夜の女子会へと連れ去られた。

 ……けっきょく、言葉巧みなエメラインさんの誘導で、なんとなくレジーとのお付き合いの詳細は白状させられたのだけど。


 それでもみんなと話せるのは楽しかった。

 ルシールさんも今日は特例。

 夜中近くまで、お茶とお菓子をつまんで談笑していたのだけど。

 かなり夜が更けたところで、レジーに撤収させられた。


「みんなと会えて、嬉しくて大興奮しているのはわかるけどね、旅はまだ続くんだから、そろそろ眠っておくべきだよ。眠れないなら、そうできるようにしてあげようね」


「レジー、あの……」


 もう私、けっこう眠かったのだけど、レジーは抱き上げて寝台まで私を連れて行ってしまう。


 ……なんていうか、お友達の館でそういうのは恥ずかしい、と思うのだけど。

 けれどレジーはもちろん、そんなことは聞いてくれなかったし、私はおしゃべりで疲れていたこともあって、すぐに泥のように眠ることになってしまった。


 ……翌朝、かなり遅く起きてしまった。

 レジーは特に疲労を感じていないみたいで、私より早く起きて活動していて、それがますます悔しい。


 召使いさん達には、仲睦まじいことですねと微笑まれた。むしろその甘さが、エメラインお嬢様にもあったらとか言い出す始末。

 こっぱずかしい……。

 そう思っていたのだけど、後でなぜかレジーがアランとカインさんに囲まれていた。


「お前……」

「陛下……」

「今回のことは……私が悪かった」


 レジーがあっさり謝っている。どうしたんだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ