番外編2:土偶センパイと後輩ハニワ 2
その後、アラン達率いる軍が王宮にたどり着くのに数時間。
夜にはなんとか、ファルジア軍が王宮を占拠することができた。
キアラはそのままの部屋で安静にさせることにした。
でも隠れ潜んでいるかもしれないルアイン兵を炙り出すまでと、翌日一杯まではカイン達がそのまま交代で警護し、そこにジナ達が加わることに決定する。
レジーは、さすがに忙しくて顔を出すことができないようだった。
王都奪還の宣言。
ルアイン軍の処分も、王妃にくみして戦い、捕えられた貴族達の処分も早々に決定しなければならない。
けれど次の日の夜には、時間を開けることができたようだ。
部屋に入って来たレジーに、カインが驚いたように言う。
「もう大丈夫なのですか?」
「後始末の仕方については、既に協議しているからね。相手の要求をつっぱねれば、決定しなくちゃいけないことは、少し抑えられるから」
そうして、キアラの側に近づく。
カインが椅子を譲ったので、レジーはそこに落ち着いた。
「まだ眠っているんだね」
「もう二日ほどは目を覚まさないかもしれない、と……茨姫様が。水分は、時々ジナが飲ませてくれてます」
「そうか……」
レジーは枕元に戻っていた、私に視線を向ける。
「少し、お話をしても?」
「……そうね」
私がうなずくと、カインは中にいた騎士や兵士とともに外に出て、レジーと私を二人きりにしてくれた。
ホレスも連れ出してくれたのよね、カイン。気が利く子だわ。
レジーは私を持って、ソファーに移動する。
命がけで戦ったあげく、寝る以外はひたすら戦後処理にあたっていたので、とても疲れていたんだろう。
ソファーに埋もれるように座った。
「ようやく、あなたが死なずに戦争が終わったわね……」
しみじみとそんな言葉が出て来る。
「ずっと、見守ってくれていたのですか?」
尋ねられて、うなずく。
「長い、長い間よ。たぶん貴方が想像するより」
だからかしら。救えたと思ったらもう、安心して死ねるとほっとしながら思えたのは。
「聞かせてくれますか? あれからどうしていたのかを」
レジーに請われて、私はキアラにしたような話を彼にも聞かせた。
先々代の王に、魔術師への生贄にされたこと。
魔術師にはなったものの、魔力に耐えきれずに死にそうになった時に、クレディアスの娘エフィアの申し出があって、彼女の体をもらったこと。
同時にエフィアから引き継いだ魔術で、クレディアス達の元から逃げ出して。
けれど戦争が始まってすぐにレジーが死んで。
過去に戻って助けようとしても、どうしても助けられなかったこと。
せめて仇をとりたいと思っても、国は滅びそうになって。その時に、戦の途中で出会ったキアラのことを思い出したのだ。
それからキアラの過去に戻って、彼女の前世の記憶を取り戻させたこと。
後は、今のレジーも知っている状況のままだ。
何度か危機はあったけれど、ここまでたどり着けたことも。
「キアラの記憶は……母上のせいだったんですか」
「そうね。私が何もしなければ、あの子はあんな破天荒な人にはならなかったでしょう」
思わず笑ってしまう。
最初に出会った頃のキアラは、ただ搾取され、流される女性だった。
それが自ら戦いに走って、予想外の魔術の使い方をし出したり、とんでもない利用法を編みだしたり。それどころか敵の同盟国の王とも誼を結んで、沢山の人の運命を変えてしまった。
レジーも同じことを考えたようだ。
「彼女が動いたことで、運命が変わってしまった人も多いでしょう。サレハルドが今回の戦に加わったことも、その一つ。他にも、魔術師くずれにされた者達などは、死ぬはずではなかった人間もいたことでしょう」
その言葉にうなずく。
「でもその責めを負うのは私よ。全ては、私があの子の記憶を無理に取り戻させたところから始まったんだもの」
そうでなければ、キアラはただ泣きながら流される子のままだった。
「だから、最後に死んでもいいと思ったんですか?」
レジーに言われて、私は首を横に振る。
「根本的には、その辺りが私の魔力の限界だと思っていたのよ。今回で上手く行かなくても、もう私には過去に戻る魔術を使えなくなっていたほどだから。そう時間をおかずに、ある日砂になって死んでいたでしょう」
おかげで、最後の戦いがどうなるかはわからなかった。
でも私はキアラに賭けた。
ここまで来たのだから、きっと彼女ならレジーを救ってくれるって信じた。
結果、王妃は倒すことができた。
「だから、キアラが王妃ともども死のうとした時に、ここだって思ったわ。私はキアラに無理をさせてきた。流されて死ぬよりもいいかもしれないけれど、どうせなら、ずっとあなたと一緒にいさせてあげたいと思ったのよ。
だって、これだけ運命を変えてもキアラとあなたは、結局一緒にいたがるんですもの」
クレディアス子爵の妻となっていても、レジーはキアラを選んだ。
あの時も、それなりにあれこれとあっても、取り引きをしてでもレジーがキアラを離さなずに、王妃達を排除して彼女を側に置き続けようとしたのを知っている。
そしてキアラも。
状況が違っても惹かれ合ってしまうなら、引き離して……レジーが嘆くのを見るのは嫌だわ。私だって、夫を亡くした時には絶望的な気持ちになったもの。
そして私の言葉を聞いたレジーは、珍しく照れたように視線をそらした。
「やっぱり……母上に直接そう言われるのは、なんだか気恥ずかしいものですね」
「むしろ、私相手でも恥ずかしがらなかったら、本気で貴方の心理面を心配するところだったわ……」
しみじみと言えば、レジーが吹き出した。
「でも、こうして話すことができて良かった。私は……幼い頃は、あの状況から逃げ出したくて母上が居なくなったのかもしれない、と少し疑っていたんです。でも違ったとわかって、ずっと助けようとしてくれていたことを知って……本当に、感謝しているんです」
う……そんなこと言われると、もう人じゃなくなったのに、泣きそう。
涙なんて気の利いたものは出てこないから、なんだか苦しいだけで辛いわ。
「こんな姿になっても、存在し続けても悪くはなかった、わね」
あの時はどうしてくれるのよキアラ!
と思ったけれど、子供に話ができたと喜ばれたら、感謝するしかないじゃない。
するとレジーが微笑んだ。
「姿は以前も、既に母上の元々の姿ではありませんでしたから。それにキアラとお揃いだなと思うと、ちょっとこの形もいいなと思いますよ、母上」
テーブルに置いていた私を、レジーが指先でつつく。
「お揃い……」
我が子が喜んでいても、あのホレスととキアラとお揃いと言われて、これは喜んでいいのだろうか。
「私は、キアラとお父さん代わりのホレスさんとの関係を、ちょっとうらやましいとは思っていたんです」
「レジー」
あんなけったいな人形とたわむれるキアラを、羨ましいと思うだなんて。
自分ではどうしようもなかったとはいえ、不憫な想いをさせてしまったことに、また涙が出そうな気持ちになる。人形になってから、急に心の涙腺がゆるくなったみたい。
なんて考えていたのだけど。
「時々、そんなホレスさんに嫉妬して意地悪もしましたが」
「…………」
ああ、やっぱりうちの子は一筋縄ではいかない大人になってしまったらしい。
「そんなところ、ちょっとあなたのお父さんに似たのね」
「父上に?」
「あなたが生まれる前は、あの人の近衛騎士と仲良く話しているだけで、妙に嫉妬されたりして」
そんな父親の姿を見たことがなかったからだろう。レジーは心底驚いた表情になる。
「父上が……」
「貴方をお祖父さまに取られてからは、そんなふわふわしたこともしなくなってしまったけれど……そっくりね」
私が笑うと、レジーも笑った。
あまり親子としての思い出も、父親の記憶も残してあげられないままだった。
だからもう少しの間、キアラの魔力を拝借しながら、この子が聞きたい時に昔話を聞かせるぐらいはしなくては。
レジーと話しながら、そんなことを考えていて……いつの間にか、このけったいな姿についても、諦めとともに受け入れていたのだった。
翌日、人形にされたことへの恨み言を言わなくなった私にホレスが気づき、
「ケッケッケ。お前もようやく諦めがついたか。時間がかかったのぅ」
と言われて非常に悔しい思いをしたけれど。




