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私は敵になりません!  作者: 奏多


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平穏な日々のための隠し事

 サレハルド側はファルジア側の提案を受け入れた。

 そのためのパフォーマンスも、もちろん実行した。


「皆さん、イサーク王からファルジア側の提案をお聞きになったと思いますが、これから私の命令にイサーク王は従わなくてはならなくなりました」


 即席拡声器として、ラッパ型に丸めた紙を持った私は、土偶型土人形(ゴーレム)の肩に座っていた。

 目の前に集合しているのは、サレハルドの兵士さん達だ。詳細を知らない人は「えっ」て顔をしているし、イサークに近しい騎士さん達なんかは半笑い状態だ。


 土人形(ゴーレム)は右手に、黙したままげっそりした顔のイサークを握っている。さっき握る時に力加減が上手くいかず、何度も悲鳴を上げさせたからだろう。


 その時サレハルド兵からも「まだ完治もしていない王に、むごい……」「容赦ない」と言われていたが、これから脅すのに都合がいいでしょうとカインさんにゴーサインもらったから大丈夫だと思いたい。


 さすが殺されかけただけあって、カインさんはイサークに厳しい。仲良くできるとは思っていないけれど、たまにちらっと殺気が覗いてる気がするので、そこは抑えてほしいところだ。


「ちなみに人質は、皆さんです」


 そう言うと、土偶型土人形(ゴーレム)の頭の上にちまっと設置した師匠が「ヒーッヒッヒ呪ってやったわい」と笑い出す。

 それに合わせて、土人形(ゴーレム)の口の部分をカタカタと動かして見せた。

 ヒッと息を飲むような声が聞こえる。

 師匠の影響は覿面で、近くにいた仲間と抱きしめ合って怯えている兵士までいた。


「ちなみに私の指示に従わないと、もれなくイサーク王はこんな感じになります」


 と言って、土人形(ゴーレム)の左手に持たせていたイサークそっくりの土人形を、さらさらの砂に変化させた。

 ざっと落ちる砂に、集合させられていたサレハルドの兵達も注目しながら硬直していた。


「皆さんにも同じ運命を辿ってもらうかもしれません。呪いを解く方法は、ファルジア軍が王都を奪還するまで協力し続けること。ちなみに私を倒そうとした場合も、こんな感じで殲滅します」


 近くに作っていた数人分のイサーク型土人形を、土人形(ゴーレム)の足で踏み潰す。

 勢い良くやったせいで、地響きがすごい。

 この行動に、戦場で踏み潰された兵士の姿を思い出した者もいたようだ。

 それを見ていたファルジア兵がなぜか、


「魔術師様の発想、怖すぎないか?」

「あの脅しは俺も怖い」


 と、早速サレハルド兵に同情心を抱き始めていたとか、私への恐怖が増したらしいと聞いて、良かったのかどうか一瞬考えてしまったけれど。


 とにかくこの脅しで、サレハルド軍の皆さんはちゃんと『魔術師に呪われてしまったようだ』とわかってもらえたようだ。

 では、と後の詳細説明をミハイル君やイサークの補佐をしていたヴァシリーさんという方に任せて、私は一度その場を離れる。

 サレハルド兵から遠ざかった場所でイサークを解放してあげると。


「ひでぇなお前。嫌がらせかよ……」


 げっそりした顔のまま文句を言われた。

 この気安い様子を見られたら、呪いの件について疑われそうだったので、兵士の皆さんから遠ざかってから解放したのだ。

 そのうちバレるかもしれないけど、呪われたという嘘を一度は信じてもらった後にしたかったのだ。


 当のイサークは、あれだけ散々やりあった後だというのに、態度を変えないでいてくれた。そうじゃなかったら多少なりと壁を感じて、私は喧嘩腰にしかイサークと話せないままだったし、気安い返し方もできなかったかもしれないと思う。

 だからこうして、軽口を叩けるのだ。

 やっぱり彼はからっとした太陽みたいな人だと、今でも思う。


「ちょっと力加減間違っただけじゃない。それに人質みたいなものなんだから、ちょっとぐったりしてた方が信憑性増すんじゃないかと思って」


 そう言ったら、ニヤッと笑われる。


「俺はお前を庇う時、ずいぶん優しくしてやったつもりなんだがな?」


 クレディアス子爵から庇った時のことを言ってるんだろう。首を噛まれたことを思い出したせいで、恥ずかしさに顔が熱くなる。


「うぐ……ある程度は感謝してるけど、ある程度以上はやりすぎだったもん」

「そりゃ、俺の方は死ぬ気だったから、もうお前にあれこれ言ってやることもできないかと思ってな……だが」


 イサークは側にあった、壁みたいな土人形(ゴーレム)の足に両手をついて、私を追い詰めた。


「あの時はな、手放すしかなかったから嫌われてもいいと思った」


 イサークがさっきまでのニヤニヤ笑いを消したから、私も魔術でやり返すのを止め、思わず真剣に向き合ってしまう。


「嫌いになった方が、お前だって俺が死んだら悲しまないだろう?」

「……じゃあ、どうして最初から優しくしたの」


 仲良くしてくれなかったら、あんなに悲しいとは思わなかった。ただジナさんのためだけを思って行動できたのに。

 イサークが困ったような顔をする。


「言っただろ。二度も告白させんのか?」


 告白と言われて、私も言葉に詰まる。

 そうだ、告白されたも同然だった。イサークの生死がかかった状態だったから、あの時はむしろショックな状況だったし、告白された甘さとか全く感じなかったせいで、やや忘れかけてた。

 どうしよう、なんか申し訳ない。私だって告白したのに放置したら、ちょっと辛いだろう。


「俺だって、嫌いな女にあれこれする趣味はない」

「……えと」


 それはやっぱり、キスとか以前の首に噛みついた件とかもまさか、含まれてる?

 思い出したら、ぐわっと恥ずかしさが喉元までせり上がってきて叫びそうになった。ちょっ、どう返せばいいのこれ!?

 絶叫したら周囲の人が集まってきて、よけいに公開処刑な状態になる気がするいやだ。

 私がイサークに感じてたのは、仲の良い明るいお友達に対するようなもので、でもなんかここで普通にお断りしたら、余計にマズイことになりそうな気がするんだけど。

 脳内でじたばた騒いだ末、私は受け流すことにした。


「あ、あれこれって濁されると、なんだか変な方向に聞こえて嫌なんだけどっ」

「そうか? あれだけのことされておいて、今更だろ?」

「今更って、ちょっ、人聞きの悪いこと言わないで!? そこまでのことされてないはず!」


 そう言うと、イサークはにやっと笑う。


「あそこまで俺にさせておいて、つれないな」


 そうして私の髪を一房指に絡めて、口づけを落とした。


「……ななななっ!?」

「死ぬつもりだったから言わなかったが、これからは遠慮しないことにした」


 何をと言う暇もなく、イサークの右手が、頬から顎にかけてを包み込むように触れて来る。


「俺と一緒に来ないか?」

「……サレハルドに?」


 来いっていうほど、本気なの?

 と思わず尋ねてしまったところで、さっと視界を遮るように伸ばされた腕があった。

 次いで横に引き寄せられ、後ろに庇われた。


「うちの魔術師を勧誘するのは、止めて頂きたいですね。サレハルドの国王陛下」


 カインさんだ。

 カインさんは土人形(ゴーレム)に乗っていなかったから、私がイサークとごたごたしてるのを見て、走って来てくれたんだろう。


「お目付け役が来たか。じゃあまたな」


 イサークはごねたりせず、そこであっさりと立ち去ってしまう。

 ……こちらが拍子抜けするくらいに。

 でも、助かった。この話はあまり長引かせるのは良くない……。あんまりカインさん達に知られたくないんだよ……。

 と思ったら、わりとばっちり聞かれていたようだ。


「彼に、何をあれこれされたんですか?」

「う……」


 こちらを振り向いたカインさんが、腕組みをして私をじっと見ている。

 どうしよう。これは兄として聞いてくれてるのか。それともデルフィオンで垣間見せたみたいに、そこから逸脱した立場のカインさんが尋ねているのか。

 どっちかで対応が変わるんだけど、ええっと。


「い、言えない……」


 黙秘することにした。

 ただでさえイサークを嫌ってるカインさんのことだから、色々バレたら血の雨が降りそうだ。そうだレジーにも知られないようにしなくては。

 噛みつかれたのは、確かにクレディアス子爵を避けるためだったし。次にキスをしたのは、私が自分の気持ちに気づかないから、自覚させようとしてだってわかってるから。


 イサークは、決定的に私を傷つけるようなことはしてない。ただ女子として、無理やりキスしたことだけは怒っていい。

 でも、それは私だけの権利だ。

 カインさんやレジーがそのことで、イサークとぎくしゃくされるのも困る。これから共同で戦って行くのに支障が出ないようにしたい。

 だから黙秘する。絶対言わないと決意を込めて見返すと、カインさんがため息をついた。


「隠し事をする、悪い子になったんですね、キアラさんは」


 一応、カインさんは兄の立場で対応するつもりだったようだ。ちょっと、ほっとする。

 イサークに続いてカインさんまで恋愛的な意味で迫って来たら、どうしていいかわからなくなるから。答えてもいないのに、レジーに頼るのは間違ってるし。


「悪い子でもいいです。秘密にしたいことだって、あるんです」


 そう言ったら、カインさんがぽんと私の肩に手を乗せ、耳元に顔を近づけてささやいた。


「だいたい想像はつきますよ。あの男に、クレディアス子爵以上のことをされたのでしょう?」


 ぎく、と肩が動きそうになった。

 だめだ私、耐えろ! とお腹に力を入れて身動きしないようにした。


「サレハルド側に捕らわれた後、あなたの行動が今までと少し変わりましたからね。でも、襲われた恐怖からだけでもなかったと感じていましたが、やはりあの男のせいでしたか」


 心の中に、冷汗が流れるような気分……。

 ちょっとカインさん。どこまでお見通しなんですか。


「ななななな、何にもありませんよ!?」


 黙秘すると決めた以上、私は否定するしかない。

 するとカインさんが私から一歩離れ、肩から下ろした手を差し出してくる。


「ええ、わかっています。とりあえずは彼を受け入れる気がキアラさんに無いとわかりましたので、今はそれでいいとしましょう。とりあえず、皆の元に戻りましょう」


 どうやら質問の時間は終わったようだ。

 うなずいた私は、土人形(ゴーレム)を解体して師匠を回収し、差し出されたカインさんの手を握った。

 そうして歩き始めてしばらくして、ぽつりとカインさんが何かつぶやいた。


「でも、貴方はもう選んでしまったんですね」


 でもあまりに小さな声だったので、何を言ったのかはわからなかったのだった。

活動報告にお遊びのSSを掲載しました。よろしければどうぞー。

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