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戦場に落ちる光は 4

 周囲を騎士達に囲まれていたけれど、グロウルさん達が近くの兵を指揮する騎士に声をかけてさらに厚く守る。そこにエヴラールの兵を連れたカインさんも合流してきて、70人近い規模になった。


 私はレジーの馬に乗せられた。

 師匠を動かしたせいで脈拍が早くなっているのに、走ったらどうなるのかと思っていたからありがたい。

 けれど、レジーに後ろからぎゅっと抱え込まれて、別な意味で脈拍がまずい。


「れ、レジー」


 普通に相乗りするなら、ここまでは必要ない。

 内心で慌てながら、そんな風にされてもレジーから離れがたい自分に変な焦りを感じていると、レジーがささやいた。


「キアラ、いつでも君のしたいようにさせてあげたいけど、彼はかなりの頑固者だから。無理し過ぎないようにして欲しい」

「う、うん? 私も死にたいわけじゃないから……」


 よくわからないけど、私を心配してのことらしい。

 うなずいたところで、岸と湖が見える場所まで来た。


「ここなら届くと思う」


 というかこれ以上近づけない。

 数百メートル先では、ルアインの援軍の兵が上陸してきているし、気づいたサレハルドの兵もそれを守るために移動してきているし……って、もう来た!?


「待てファルジアの王子!」


 騎兵だけを連れてこちらに突っ込んでくるのは、サレハルドの緑のマントを身に着けた集団。なぜかイサークまでこっちに来てる。

 サレハルド側も100騎いるかいないかだが、騎兵はあちらの方が多い。

 近づいて来ると、先頭集団にいるイサークの声がよく聞こえる。


「この嘘つきめ! 俺と決着をつけて終わりにするって言っただろ!」


 それに対して、レジーはしれっと答える。


「希望は聞いたとは言ったけど、その通りにしてあげるとは言っていないよ?」

「この屁理屈魔王!!」


 頭をかきむしらんばかりのイサークの叫びに妙な納得を感じながらも、でもだめ、まず先にやることがある。


「グロウル、任せた」


 それをわかっているレジーが、イサーク達を押し留める役割をグロウルさんに任せた。

 一番前面に出たのは、リーラを連れたジナさんとギルシュさんだ。


「邪魔をするな! わかっているだろう! ジナイーダ様も!」


 リーラの吹雪に足を止められた騎士が叫ぶ。


「わっかんないわー。わたしは今ファルジアの雇われ傭兵だし?」

「アタシはオカマだし?」


 騎士さんの怒りの形相を見ながら、笑顔でお断りする二人がすごい。

 その二人を避けようとする者達は、グロウルさんやカインさん達が作る壁に阻まれて、睨み合いの状態になる。


「今のうちに」


 私と一緒に馬を降りたレジーが、剣を抜いて左手に持ち、切っ先を空に向ける。

 その肩に手を置いた。


「レジー、湖の大きな船を狙って。なるべく拡散するように……少し多めにするから、負担が重いかも」

「かまわないよ。それでこの一戦が終われるなら」


 うなずいてくれるレジーに、私はいつもより多めに魔力を流す。

 血の流れが、私の手からレジーの腕へと繋がるような感覚の後、血の気が引く感覚に襲われる。

 めまいをこらえた私の視界に、光がひらめいた。


 一瞬で空へ駆け登った紫電の帯が、ほぼ同時に七つに枝分かれしながら湖へと落ちる。

 閃光に視界が焼かれそうになるのと共に、雷鳴が轟音となって体に響く。

 思わず目をきつく閉じて、でも確認しなくちゃいけないからすぐに湖の様子を見るため目を開いた。


 島に寄り沿うように湖上に停泊していた船は五つあったけれど、二つほどは前部が破壊されて煙が上がっていた。

 陸へ急いでいた小船にも落下し、壊れた船の残骸と人が浮いている。

 魔力で作りだした雷だったせいなのか、紫電の残滓が拡散しきれずに、今だにパチパチと湖面で火花を散らしている。

 ……予想していたことだけど、足が震えそうになる。


 目の当たりにしたサレハルドの騎兵達も、イサークも、呆然とその光景に目が釘づけになっている。エヴラールの兵士でさえ、目をそらせなくなっていた。

 今のうちだ。


「レジー大丈夫?」


 やや息苦しそうなレジーに尋ねると、彼は微笑みすら浮かべてみせた。


「サーラが手伝ってくれたからね」


 言われて見れば、先ほどルナールが甘噛みしていたレジーの右手を、今度はサーラが甘噛みしていた。くっつくんじゃなくて二匹ともそうするって……レジーの手、おいしいの?

 でもレジーの体がふらついている様子はない。

 私は寒気がしてきているのを悟られないよう、そっとレジーの肩から手を離した。

 そんな私の側には、ルナールが来てくれる。くっついて熱を収めてくれるのは嬉しいけれど、


「え、ルナール戦闘は……」


 気づいて見れば、サレハルド側も剣を持っている腕を降ろしていた。

 イサークもそうしていて、立ち止まった彼らに対して、ファルジア側の人もジナさん達も攻撃の手を止めている。


「これで、君達の戦う理由が無くなってしまったね、サレハルドの王」


 レジーが呼びかけると、イサークは心底嫌そうな表情をする。


「お前まで魔術師になってるとは思わなかったな、ファルジアの王子。最初からそうして、こっちが降伏する理由を作るつもりだったのか?」

「ある程度はこうなることも考えていたよ。それに手の内を全て晒すわけがないだろう?」

「俺を殺すって言ったってのにな」


 イサークはそんな約束をレジーとしていたらしい。だからレジーはイサークの元へ一度は向かったし、イサークも自分が殺されることで、サレハルドが降伏する理由を作り出すつもりだったんだろう。


「ちっ、しゃあねぇ。おいファルジアの王子。降伏だ」


 イサークは仕方なさそうにため息をついて、続けた。


「じゃあ、取り決め通りに頼むわ」


 あっさりとそう言って――イサークは自分に剣を向けて突きたてようとした。


「…………!」


 誰もが息を飲んだ。

 ジナさんが止めようとしたけど、遠い。

 近くにいたギルシュさんが走って手を伸ばす。それでも剣の向かう先をそらしただけだった。


「イサーク!」


 思わず駆け出す。

 待って。どうして!?

 ルアインの援軍もレジーのおかげでせた。不利になったサレハルドが降伏したっておかしくない状況になったのに。

 サレハルドの騎兵達はイサークがそうするとわかっていたのかどうか。一人だけが倒れるイサークを抱えて地面に横たえさせ、他の人々は馬から降りて、剣を鞘に納めた。


 ショックで座り込んだジナさんの横を走り抜け、私はイサークの側にたどりつく。

 誰も私を止めなかった。

 たぶん、これで何もかもが終わったと思うからだろう。

 レジーと他数人が、ゆっくりと私の後ろから追いかけてくるだけだ。

 サレハルドの騎士が一人、誰かに連絡をさせるために騎兵を走らせた。サレハルドの全軍に降伏を知らせるためだろうか。イサークが死んだから、と。


 いや、まだ死んではいない。

 イサークは側にいた騎士に、小声で何かを伝言していたのだ。

※明日、続き更新します

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