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デルフィオン領 アレジア戦4

 ルアインとの戦いは、一時休戦となった。

 夕暮れの中、お互いにかがり火を焚いて先方の様子を伺いながら警戒し続けている状態だ。


 アランによると、交戦して川を挟んで睨み合いになるのは二度目だったそうだ。


「初回は、ガタガタ言っている暇はないからってことで、ルアインを押し返すことで意思統一ができたんだけどな。休戦中にそもそもはデルフィオンが……って話が出たせいで、二回目はあのザマだ」


 エヴラール他の兵は、初回はだますために大人しくしていただけかもしれない。今度はルアインと打ち合わせてこちらを裏切るんじゃないかと思ってしまったらしい。


 デルフィオン側は肩身が狭くて萎縮してしまった。

 デルフィオン男爵もアランに臣下の礼までとってへりくだって見せたのだが治まらなかった。


 そうして戦況が押されてくると、不信感が深まってしまい、やや泥沼状態だったようだ。

 アランとエニステル伯爵は、戦列をもう少し下げることまで検討していたが、この川よりも良い場所があまりない。


 悩んだところで、私がその空気を気にもせず吹き飛ばした形になった。

 デルフィオンが勢いよく敵に突っ込む姿に、兵達もようやく懸念を振り切って、とりあえず目の前の敵を倒すことに専念したようだ。


「それでお前はどうなんだ?」

 アランに尋ねられて万歳してみせた。


「治りました。次の戦いには参加します」


 そう申告したら、横にいたカインさんはやや考えてから「わかりました」とうなずいてくれた。

 アランは「いいのかよ……」という目でカインさんを見てから、私に言った。


「敵に魔術師がいたせいでお前が倒れたと聞いたが、そっちの対策はできるのか?」

「物理的に近づかなければいいから、遠距離攻撃を試す予定」


「……土人形の腕がもげるやつか?」

 領境戦で目撃したロケットパンチのことを思い出したのだろう。


「だいたいそんな感じで」

「それならまぁ……。一応味方に飛ばしたり、混戦状態になったら控えろよ。後ろで土人形だけ出して待機してるだけでも、十分威圧できるんだからな」


「うん了解」

 私も味方を潰したいわけではない。私のコントロールが及ばない状態になったらあきらめよう。


 アランは何かと忙しい身なので、私が戦に手を出すのか出さないのかを確認すると、早々に他の将軍たちの所へと立ち去った。

 むしろ片眉を跳ね上げて不満そうな顔をしていたのは、エメラインさんだ。


「本当に……体調の方は万全なの?」

「熱も下がったし大丈夫!」


 ほらほらと元気に飛び跳ねたら、エメラインさんに額に触れられる。

 平熱だというのを確認すると『解せぬ』と言いたげな表情ながら、私が大丈夫だというのを認めざるをえなかったようだ。


「魔術師の特殊な症状と言われてしまっては……わたしのような者にはなんとも判断できないことが、落ち着きませんね」


 エメラインさんは解明できないことがどうも引っかかるらしい。でも私もよくわからないので、説明しようもない。

 そしてエメラインさんは、カインさんに尋ねた。


「騎士様の目から見ても、大事ないという判断なのですか?」

「キアラさんが大丈夫と言うのなら、そうなんですよ」

 カインさんの答えに、ますます理解しがたそうな渋い表情をした。


「……なんだか騎士様の場合、彼女が大丈夫だと言えば、死の淵に足をつっこんでも止めなさそうに見えますわね」

「魔術師のことは、我々にはわかりませんからね。キアラさんとホレス師の判断に従うしかありませんので」


 私にとっては「そりゃそうだ」という回答だったが、エメラインさん的にはしっくりこなかったようだ。けれど彼女にもやることがある。


「伯父をシメてきます」

 そう言って、デルフィオン勢がいる場所へと歩いて行ってしまった。


 夜が近づいたので、戦線の後方にはいくつか天幕が張られ始めている。けれどほとんどの兵士は、交代でルアイン側と睨み合いをしなければならない。

 眠るのも後ろに下がった場所で、適当にということになるだろう。


 私は後で、自分で土の家を作成するつもりでいる。

 ……まだ少し、体の中で息づくように活性化している魔力が落ち着いてから、になるが。

 それを話すと、カインさんが言った。


「無理をしなくても、あなたとエメライン嬢を押しこめる場所はアラン様が手配してくれているでしょう。芳しくない戦況の中では、うら若い女性を放置することはできませんからね」


 まぁ、あなたもエメライン嬢も、一筋縄でいかない人ですけれど。とカインさんは付け加えた。


「どちらにせよ、あなたが命をかけるのはここじゃないはずです。次の戦いでも、虚勢を張る時間が終わったら、すぐに連れ戻しますよ」

「……十分です。ありがとうカインさん」


 カインさんがいてくれるから、戦える。

 私一人の言葉ではアランも信じてくれなかっただろうけど、カインさんがわかったと言ってくれたから、大丈夫だと思ってくれたはずだ。


「次はいつになると思いますか?」


 今はルアインも魔術師を警戒して引いた。少なくない損害があったことも影響しているだろう。

 これで諦めてくれたらいいけれど、睨み合いをするということは……もう一度戦うつもりなのだと思う。


「明日、レジナルド殿下が来る前でしょう。砦にいるはずのあなたが駆け付けたことを考えたら、早々に到着するかもしれないと予想して午前中には動くのではないでしょうか」

 そんなカインさんの予想は当たることになる。


 翌日、陽が高くなった午前中のうちにルアインが動いた。

 けれど矢を射てくるばかりで、逆に川から攻め入ってくることがない。

 むしろこちらが打って出ると引くので、アラン達は兵を突出させないよう戻すのに忙しくしていた。


 私も突出した兵を助けたいけれど、遠隔攻撃でピンポイントに狙うのは難しい。誤差のあたりで確実に味方を巻き込みそうだ。

 意図せず、アランが言った通りに土人形を兵の後方に出して待機することになってしまう。

 けれどそれもあまり宜しくない。


「これ、そのうち私が影響受けてるってバレますよね……」

「しばらくは、何らかの作戦があるから沈黙していると捉えるかもしれんが、この一戦が引き分けるまで何もしなければ……まぁバレるじゃろ」


 師匠が私に同意した。

 後方待機ばかりが続いてしまうとクレディアス子爵の影響下に入りたくないから、後ろでまごまごしているようにしか見えないだろう。

 かといって戦いに参加しないわけにもいかない。それこそ子爵を恐れる理由があると思われてしまう。


 できれば子爵のせいで魔術が使えないと思われたくない。

 知られてしまったら、ますます子爵が私を追い詰める手を使うだろう。それでますます私が戦場で役立たずなことになってしまうのが耐えられない。

 できれば効くか効かないかわからない、と先方が思っているうちに決着をつけてしまいたいんだけど。


「後ろから回る……っていっても、後方に移動されたら何もできなくなるし、私単体でのこのこ行ったら捕まるし。横撃すると見せかけて、物を投げて遠距離攻撃? てか、師の魔力って私の魔力を使ったものでも影響するんですか?」

 私の質問に師匠は苦悩の唸りを上げる。


「とりあえず炎や水や風などは、師の前で立ち消える」

「本当に師弟関係があると、攻撃できないんですね……」


「やってみたので実証済みじゃ。イッヒヒヒ」

 立ち消えるとは思わなかった。そしてやったんですか師匠。


「でも、派生したものはどうなんです? 火元は作っても、延焼した部分は術者の力じゃないですよね?」


「そういう手を使った例はあるだろうが……そもそも魔術師というのはな、個々人でばらばらに生きているもんで、交流を持つということもほとんどないんじゃ」

「みんなコミュ障?」


「それも師弟関係で縛られるのが、遠因じゃろ。逃れようと思えば遠ざかって一人で暮らすのが一番じゃ。関係性が悪化したときのことを考えて、師弟になったら負い出す師匠もおるだろうしな」


 安全性を求めた結果だったらしい。おかげで魔術師についての情報がさらに流出しにくくなったということか。


「どこかに師をあらゆる手を使って殺そうとした、気概のある人の記録はないんですかね?」


「時々お前は本当に物騒な……お前が第一人者になるしかなかろ」

 言われて私は考える。

 そしてカインさんに言った。


「少し横に移動します。それから……ちょっと試します」

次でアレジア戦ひと段落します。

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