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私は敵になりません!  作者: 奏多


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デルフィオン領 アレジア戦1

 三日後、ルアインの軍が動いたと報告が来た。

 しかし駐留していた砦から、デルフィオン男爵の城に戻ったわけではなかった。


 先に一軍が砦を離れたらしい。

 周辺を警戒するには多すぎる兵は、デルフィオン男爵の兵だったようだ。

 彼らはバラバラに砦を出て、一路、イニオン砦に向かっていたアラン率いる軍を追いかけてきた。


 最初はアラン達も警戒したという。

 なにせ敵として一度は剣を交えた相手だ。ルアインに何か脅されて、やみくもに戦いを仕掛けて来たという可能性を考えたらしい。


 けれども単身デルフィオン男爵が進み出て、元帥代理とはいえ辺境伯子息のアランの前に跪いて合流を請い願ったのだ。

 辺境伯家古参の騎兵隊長やジェローム将軍、そして生き字引みたいなエニステル伯爵との合議によって、男爵の兵を迎え入れることに決めたという。


 早馬の内容だと経緯は詳しく分からないが、イニオン砦をレジーが落とし、人質になっていたエメライン達が解放されたことで従うのをやめたのだという。

 これにはレジーが眉をひそめていた。

 ルアインのデルフィオン軍の人々には、おそらく人質の居場所など明かされていなかったはずだ。アーネストさんでさえ、二つの選択肢を考えていたぐらいなのだから。

 そのため、人質が解放されたことを知らせるために、私にエメラインさんを同行させようとしていたのだ。

 ただ、ルアイン側から何らかの形で情報が漏れたのだと考えることもできる。


 問題はデルフィオン男爵達を、ルアインとサレハルドの軍が追ってきたことだ。

 アラン達は砦へ合流するのを諦め、砦から徒歩で一日かかる場所で、迎え撃つことにしたようだ。


 アレジア川、と聞いて私はハッとする。

 ゲームでアランがルアイン軍と戦った場所だ。

 アーネストさんを仲間にしたアランがルアイン軍を急襲。

 途中でアーネストさんとの会話で説得されたデルフィオン男爵が、ルアイン軍を裏切って攻撃し……最後にはデルフィオン男爵は、ルアイン軍の兵を多く道連れにする形で亡くなってしまうことになる。


 けれどゲームとは違って、人質も取り返した。だからイニオン砦の方で戦うことになるかとばかり思い込んでいたのだ。


 確かに人質が救われ、ファルジアの軍がそこにいてルアインに勝つみこみがあるなら、男爵だって早々に離反するだろう。

 しかしレジーとしても、予想より早い、と感じているようだ。

 彼やアラン達の予想でいけば、イニオン砦まで進軍してきた上で、デルフィオン男爵が裏切ると考えていたようなので。


「すぐ近くに仲間がいる状態で裏切った方が、安全だし、ルアインを倒すつもりなら内外で呼応して動いた方が効果的だからね」

 しかしデルフィオン男爵は、早々に離反する道を選んでしまった。


「誰かにそそのかされたかな……」などと不安になるようなことをつぶやいている。


 男爵に離反をそそのかすとか、ルアインとは別の勢力が茶々を入れてるってこと? それともルアイン内部で何か派閥争いとか、そういうことが起こっているのだろうか。

 あんまり複雑になりすぎると、私の頭では追いきれなくなるので勘弁してほしいところだ。


「正直なところ、砦で迎え撃つより厄介だろうね。しかもデルフィオンを受け入れた直後では、軍の動きもガタガタだろう」


 早馬で報告を聞いたレジーは、そう評した。どうもデルフィオン男爵の兵が三千ほど加わっても、アラン達の分が悪いようだ。

 よくわかっていない私に、カインさんがこっそり説明してくれた。


「一度は戦った相手ですから。実はルアインの策で仲間のふりをしているだけかもしれない、と思ってしまうものです。いつ裏切るかわからない相手と隣り合っては、戦うのは不安ですからね」


 ちょっとしたケンカならまだしも、殺しただの殺されただのという深刻な溝がある相手では、隣にいるだけで警戒してしまうことだろう。

 私がカインさんに教えてもらっている間に、レジーはアズール侯爵やアーネストさんと打ち合わせ、おおよそのことを決めたようだ。


「砦はアズール侯爵に預ける。デルフィオンの軍に関しては、アーネスト殿の軍を連れて行った方が収まると思うよ」

 アズール侯爵とアーネストさんが、レジーの決定を一礼して受け入れる。


「出発を急がせます」

 アーネストさんが立ち上がり、同時にグロウルさんも自分達が率いている兵に、出発準備をさせるために立ち去った。


「しかし急いでも一日……。その間に深刻なことになっていなければ宜しいのですが」

「アラン達に任せておいても、滅多なことはないと思うよ。ただきつい消耗戦にならなければいいけど」


 やや暗い表情のアーネストさんに答えるレジーも、心配しているのだろう。

 指揮をするアラン達が動じなくても、前線で戦う兵士達はそうではない。言葉を尽くしてみても、信じてくれないことなどいくらでもあるだろう。

 何より魔術師くずれを出されては、動揺してしまっている兵達も上手く対処できないだろう。

 だから私は申し出た。


「私が先に行きます。単独で馬を走らせたら、一日もかかりませんから」


 その分だけアラン達の負担が減る。敵も魔術師がいないなら、と油断しているかもしれないが、その分だけ早く着けばルアインを威圧できる。

 私の申し出をレジーが検討したのは、ほんの数秒のことだった。それから私ではなく、カインさんに視線を向ける。


 たぶんそちらの方が、時間が長かったのではないだろうか。

 なんとなくカインさんの方を振り向けない私は、自分を見ないレジーに、心の奥がざわつく。

 まるで、私の保護者をカインさんと決めてしまったかのようで。


 でも不安に思う私がおかしいのだと思う。だって年上のカインさんが保護者代わりとして扱われるのは、当然のことだ。

 なのにどうして……見離されたような気持ちになるんだろう。


 許可を得たので、報告を聞くため呼ばれた主塔から出る。

 けれど自分の部屋へ向かう足どりもなんだか鈍い。

 旅の準備を整えるのは、慣れていたためにぼんやりしていても手が動く。

 マントを羽織り、靴ひもを確かめて、腰に吊るす以外の必要最低限の荷物だけを一つの袋にまとめて手に持つ。


 それ以外の物は、緊急時なので置いて行く。砦を放棄することがあれば、レジーの侍従コリン君が持ちだしてくれるか、その余裕もなければ破棄されることになる。


 準備をする間は小さくなっていた不安が、ひと段落するとまた首をもたげてくる。

 でも、もたもたしていられない。

 こんな気持ちは気のせい、戦いに行くのに余計なことばかり考えてちゃいけないと自分に言い聞かせて部屋を出て、主塔を出て、けれど中庭を横切って進み、門をくぐろうとしたところで、つい振り返ってしまった。


 顔を見られるとは思っていないけれど、なんとなく主塔を見上げて、窓には誰もいないことに落胆しながら、視線を降ろした時。

 主塔から出て、グロウルさん達と別な場所へ向かおうと歩いているレジーを見つけてしまった。


「レジー」


 小さな声で呼んでしまう。

 心の声が漏れてしまったことに驚いた私は、でもささやき声みたいなものだったから、遠くにいるレジーはきっと気付かないだろうと思ったのに。


 彼は足を止めて振り返った。

 そうして私と目が合ったことに、珍しく動揺したように小さく口を開いて、それから小さく微笑んだ。


 それだけで、TVの砂嵐の画面みたいにざらざらとしていた心の奥が、凪いでなめらかになっていくのを感じる。

 見守ってくれるようなまなざしに、心がしゃんとした。

 大丈夫、ちゃんとできると思えたから、私は小さく手を振ってようやく歩きだせた。


「まだまだ子供だの……」

 数歩も行かないところで、師匠が何かをつぶやいた。


「どうかした?」

「いやいや何でもないぞい。イッヒヒヒヒ。わしゃ面白いがの、振り回される方はたまったものではないだろうが……それも分かって受け入れているんだろうからな、言うだけ野暮というものじゃて」


 変な笑い声以降は、まだも口の中でもごもごと言うような声だったので、聞き取れない。

 でも師匠が独り言を口にして、自分でウケて笑うのはいつものことだ。


 内側の砦を出たところで、私はカインさんと、エメラインさんに合流した。

 その他にも万が一の護衛のために、レジーの騎士であるサイラスさん率いる騎兵達20人ほどが、同行してくれる。


 道中は、特に危険なことはなかった。

 私は久々に自分で馬を走らせた。

 長い距離を一気に詰めるためにも、カインさんと二人乗りしてばかりはいられないのだ。馬の体力を削りすぎてしまうから。

 でも休憩時にはへろへろになってしまう。なにせ最近はカインさん任せにしてばかりで、一人で乗っているだけで緊張するのだ。

 おかげでカインさんに心配させてしまった。


「やっぱり同乗するべきではありませんか? 戦場近くまでは、キアラさんが乗っていた馬を使って、戦場の手前で乗る馬を交換するなら、馬が疲労しすぎることもないでしょう」


 ちょっとだけ、それもいいかなと私は思いかける。でも、早さのことを考えるなら、このままの方がいいだろう。

 そう思ったのに、


「無理しないで下さい」

 カインさんが私の前髪を指先で救い上げるように、額を撫でた。

 優しい手つきで、でもくすぐったくて身をよじりたくなる感覚に戸惑う。


「疲労のあまりに、必要な時に行動できなくなっては、本末転倒ですよ」

 わかっているのだけど、うなずくのが難しい。だって二人乗りをしても、疲れることには変わらないと思うのだ。

 するとカインさんが、私の手首を掴んで歩き出す。


「え、ちょっ……?」

「今回は貴方の返事を待つのは止めます。ここからなら十分二人で乗っても問題ないですし、どうせ現地では馬を使わないでしょう?」


 そう言って、自分の馬の傍までやってきて私の腰を掴んで担いでしまう。

 なんとそのままカインさんは馬に乗り、さっさと私を前に座らせた。


 座ってから気付いたが、サイラスさん達が微妙にこちらに生暖かい視線を向けている。

 そうなるのも無理からぬことだと自覚できるだけに、私は居心地が悪くて仕方ない。けれどカインさんはそんなことを斟酌してくれなかった。


「行きましょう。彼女の馬をお願いします」


 カインさんに頼まれたサイラスさんが、騎兵の一人に私の馬を自分の馬に繋がせる。

 出発後、次の休憩時には確かにさっきよりも体が楽だったことを実感して、意地を張る形になってしまったな、と私は少し落ち込んだ。

 けれどそこに追い打ちをかけてきたのは、エメラインさんだった。


「さすがね、キアラさん。こんなところもわたしの予想以上だったなんて……」


 水を飲んで木に持たれて座る私の横で、エメラインさんがしみじみと言う。

 予想って一体何の予想だろう。


「これから私、デルフィオンのためにも軍事に強い人を夫に迎えたいのよ。戦が終われば、領地の建て直しのためにもすぐ結婚しなければならなくなるだろうし。それなら、殿下の騎士は生きが良いし、能力的にも問題ないからちょうど良いと思うの。殿下に配慮を求めるにも有利そうだし。だけど、そういった方を落とすにはどうするべきか、ご教授いただきたいわ」

「え、おと……おとす!?」


 なんとエメラインさん。夫候補として騎士のみなさんに目を付けたらしい。

 しかも超打算的で、エメラインさんらしい……。

 や、確かにレジーの騎士なら、お婿入りするのに不都合のない人ばかりだろうし、レジーもお祝いに箔つけてくれるだろう。

 実践経験豊富だから、今後のデルフィオンが無事に解放された後も、今後何かの戦役に従軍することがあっても、役に立つ知識を持っているだろうけど。

 なぜそれを私に聞くのか、エメラインさん。


「カインさんという騎士とあなたのなれそめを聞きたいわ。そこから自分で分析するから、任せて」


 いや何を任せろというのか。前向きすぎだよエメラインさん! ていうかなれそめって、そんなのないよ!?

 そんなこんなで混乱していた私は、次も気付けばカインさんに捕まって、彼の馬に連行された。


 そして……戦場が見えてきた。

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