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私は敵になりません!  作者: 奏多


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王子の運命と就職面接

今後の展開の関係で、念のためR15指定を入れさせていただきました。

 ……どうしよう。私は途方に暮れた。


 レジー……改めレジナルド王子は、私を振り向いて実に楽しそうに口の端を上げている。

 私を驚かせようと思って、わざと教えなかったのだろう。

 彼の意図は察したけれど……私は思い出したことが衝撃的すぎて、レジーのお遊びに乗って拗ねるどころではなかった。


 今、目の前で笑っているレジーが、死んでしまう。

 数日の旅の間に、友達のように思えた人が、この世から死によって消えてしまう運命にある。


 でも自分に何ができるのか。

 オープニングムービーなんてたった2分か3分の短い代物だ。

 ゲーム世界の全体図、戦いの様子を表現するために始まるエヴラール攻城戦の様子。押される兵士達の様子に破壊される門。そしてなだれ込んだ兵に対抗するよう指揮するヴェイン辺境伯とレジーが映ったかと思うと、あっという間に彼らは殺され、駆けつけようとしたアランの場面に変わってしまう。


 ほんの短い映像からは、彼を助け出せる材料を見つけられない。

 この時、アランは陽動の敵を討つため出ていったことで、攻城戦に巻き込まれず、生き残る。

 そして始まるのが、親と友人達を失ったアランが王国を取り戻すため、ひいては仇を打つための戦いだ。


 そうだ……。『友人達』の中にレジーは入っているのだ。

 レジーがここへ来ることを止められないだろうか。

 ……無理だ。国王の代理で来るのに、私の一言ぐらいで日程の変更などできようはずもない。

 そもそもレジーがやってくるのは、仕組まれたことだ。サレハルド王国にしても、ルアイン王国の奸計にはまってのことだった。


 なら、アランと一緒に城の外へ出てもらうか。

 ……王子を突撃させるだなんて、辺境伯が許可するはずもない。もしくは王子が守りの薄い状態になる好機だからと、アランともども狙われる可能性もある。

 知っていても、何も手の打ちようを思いつけないことに、私は愕然とするしかなかった。


「キアラ?」


 レジーが心配そうにこちらに向き直って声をかけてくる。


「あっ、ごめんなさい」


 気付けばその場にいた全員が、私の方を見ていた。

 注目されすぎて逃げ出したくなる。でもぼんやりとしていた私のせいだ。

 もしかしたら辺境伯夫妻に紹介しようとしたのに、あまりに長い時間反応がなかったとか、そういうことをやらかしたのか?

 焦りで額に汗が浮かびそうだったが、誰も怒った様子はなかったので長く思考に浸っていたわけではないようだ。

 良かった。今は目の前のことに集中しなければ。


「殿下、その娘は?」

「道の途中で拾いました。彼女の件で、少し話したいことがあります」


 レジーはそう言うと、中に連れていってもらいたいというように視線を城へと向ける。察したヴェイン辺境伯が先導し、私はレジーやアランと共に城の中に招き入れられた。


 通された場所は城の外縁にある城塞塔にある部屋の一つだ。三階部分まで上がってしまえば、下に声が漏れにくく、窓の向こうは空なので、扉の前だけ立ち聞きを警戒するだけでいいからだろう。

 あまり広くはない部屋に入ったのは、辺境伯夫妻とアランにレジー。私とウェントワースさんだ。


「それで、あまり聞かれたくない事情をお持ちなんですね? そのお嬢さんは」


 ヴェイン辺境伯の問いに、レジーとアランがうなずく。


「パトリシエール伯爵の養女です」


 レジーがそう言った瞬間、ヴェイン辺境伯が眉をしかめる。


「その彼女がなぜここに?」

「クレディアス子爵との結婚から逃げてきたようで。……狂言ではない証拠もあります。嫌がることを想定してか、眠らせた上で家に戻すつもりだったようで、手紙に薬が含まされていたことも確認しています。そのせいで、彼女は目覚めた後でもしばらく足が麻痺したままでした」

「嘘ではないと?」


 尋ねられたアランとレジナルド、そしてウェントワースさんまでが苦笑いし、私は恥ずかしくてうつむいた。


「……言っていい?」


 レジーが私に確認してくれる。本当は話してほしくはないが、これで信用してもらえるならと、非常に泣きそうな気分でうなずいた。


「キアラは、アランの荷馬車に潜り込んでまして。その後で薬が効いたのか、ゆすっても呼びかけても起きないほどぐっすりと眠ってました。僕らは彼女の寝言で、キアラが荷馬車に入り込んでいたことに気づいたんです」

「ね……ごと?」


 ヴェイン辺境伯の問いに、レジーは重々しくうなずいた。


「翌日の昼近くになって目覚めた彼女は、薬を盛られていたことに気づかず『運賃払うので許して下さい』と言って立ち上がろうとして、足が動かずに寝台から転落しました」


 レジーの話を聞きながら、私は羞恥心でスカートを握りしめた腕がぷるぷるしていた。

 でも今後のこともあるから、辺境伯達がどういう反応をしたのか知っておきたい。だから勇気を持ってチラッと様子をうかがったんだけど。


 ……すごく、残念な子を見るような目を向けられてました。

 警戒は解けたみたいだけど、傷つく……。


「本当か? ウェントワース」

「残念ながら。ずっと監視してましたが、間違いなく王子殿下の仰るとおりの行動をとっておりました。それにパトリシエール伯爵も彼女を探していたようで、追っ手に一度呼び止められました」


 ウェントワースさんにまで保証され、ヴェイン辺境伯はふっと疲れたように息を吐く。


「それで……このちょっとざ……お嬢さんを連れて行くことにしたのか」


 辺境伯様、今おもいきり『ちょっと残念な子』と言いそうになりましたね?

 いえ、いいんですよ。それで済むなら。

 こっぱずかしい話を広められたあげくに、でも敵に違いないとか言われたら、我慢をした甲斐がないってものですし。


 ちなみに辺境伯の後ろにいた夫人は、口を引き結んではいるけれど、端がぷるぷるしている。笑うの堪えてますよねそれ。まぁいいんですよ。嫌われるよりツボにヒットしてくれた方が、今後の人間関係も円滑になりそうというものです。

 前世の時はここまで考えなかったんだけどね。今世はほら、多少自分の残念さにも悟りを開かないと生きていらんなかったから。

 ていうかレジーといい、王族って笑い上戸なの? そうなの?

 やさぐれている間に、アランがいい話として締めてくれていた。


「人助けというか。僕達の年下の女の子が……っていうのは寝覚めが悪くて。養女で伯爵に情はないといいますし、平民扱いにしてくれてかまわないと言うので、うちで雇えないかと思いまして」

「雇う……か」


 ヴェイン辺境伯が考え込むような表情になる。


「しかし本当に平民扱いで、耐えられるのかい?」

「はい大丈夫です! 準爵士だった実家で、継母に使用人扱いされてましたから、芋の皮むきとか掃除も余裕です」


 なるべく元気に言ってみたが、アラン一家とウェントワースさんが可哀想にといわんばかりの表情になっていた。悲劇の映画を見た後の観客に似ている。


 ごめん、悲惨ぽいよね。そんな気持ちにさせるような話を、私もしたくはなかったんだよ。

 アランの家は、なんというか普通に貴族らしい愛情とか絆がある家っぽかったからさ、なおさら胸を痛めると思ったんだ。

 だけど嘘をついても仕方ないし、安全と敵役にならない保証を得たいなら、やっぱりここに置いてもらった方がいい。

 それに、レジーやアランを守ろうと思うのなら、この城にいなくてはならない。


 そして何か、できることを見つけなければ。

 可能性があるとしたら、敵として魔術を使ってたんだから、味方の魔術師に早々にクラスチェンジすることだろうか。来る攻城戦でも役に立つだろう。

 問題はどうしたら魔術師になれるかだけど、魔術について調べるには、やっぱり権力者の側っていう方がいいんじゃないかな。

 すると辺境伯夫人が私に尋ねてきた。


「貴方……剣はお使いになれるの?」


 非力な14歳の女の子が就職面接で、剣技の有無を問われるなんて思いもしませんでした。

 さすが国境の守備隊に紛れて走り回るというお方である。さっき背後にいた侍女さん達も、間違いなく選考基準が戦闘能力ぽかったし。

 とりあえず私に剣を振り回すのは無理なので、首を横に振った。


「護身術などは心得はおあり?」

「養父だった伯爵が、王宮に勤めさせようとしてたみたいで、ナイフぐらいの刃物は持てるようにさせられましたが、それだけで……」

「なるほどね」


 辺境伯夫人はうんとうなずき、ヴェイン辺境伯の肩に触れていった。


「私のところで、この子を引き取ろうと思いますわ、あなた」

「侍女にするのかい? 奥さん」

「ええ。結婚前から私の側にいたロナは今お休みさせてますでしょ。他の子達は基本的に私の外の活動についてこられる人ばかりを選んだので、一人ぐらいは貴族として礼儀作法を学んだ子を側に置こうとは思ってましたのよ」


 ベアトリス夫人の話を聞いて、アランが明るい表情になる。レジーは微笑んだままだ。

 ……そういえばレジーだけ、さっきの不幸話でも『うわぁ』みたいな顔をしなかったな。普通に聞いてくれるのって、なんだかほっとする。


「雇って頂けるんですね?」


 アランの確認に、ヴェイン辺境伯は「ああ、うちの奥さんがうんと言ったからね」と肯定する。


「確かにうちの奥さんは活発な人だけど、内向きの事に長けている女性が少ないと思っていたんだ。宜しく頼むよ、キアラさん」


 ヴェイン辺境伯の言葉に、私はほっとして「宜しくお願いします」と頭を下げたのだが。


「でも、ここは国境の守備の要。いつ何時どういった状況になるかわかりませんから、逃げ足だけは鍛えてもらうわ」


 辺境伯夫人の言葉に、私は凍りつきそうになる。

 運動苦手なんですが……まずは侍女として、足が早くなるようがんばらなきゃならないようです。


 ……その合間に、魔術師になる方法って調べる余裕はあるのかな?

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