イニオン砦救出作戦 4
今回ちょい短いです。救出作戦は5までの予定です。
ここから、私は次の行動に移る。
「じゃ、カインさん城壁まで行きましょう」
「……わかりました」
促せば、カインさんはやや苦い表情をしながらも、うなずいてくれる。
身の安全のことを考えれば賛成し難い状況だけど、協力すると決めた以上は拒否できないと思っているのだろう。
土人形は崩さずに、そのままオブジェとして置いておいた。少しの間は、これに視線が集中して、私達のことから気がそれるだろう。
その間に、私とカインさんは城壁の傍まで行き、馬を降りた。
カインさんは馬だけ自陣へ戻す。
その間に私は、砦の壁に穴を開けた。
イニオン砦の中に、潜入するためだ。
ここを攻撃するにあたって、一番危惧されるのは人質の安否だ。いざとなったら盾に使う可能性もある。一番身分が高い人質のために、身分の低い人質である分家の女の子が、見せしめに殺される可能性だってあった。
逃げられるともっと困る。
もちろんレジーの方でも、そちらへ差し向ける人員は用意してる。
けれど彼らが人質の居場所に到達するまでは、城門で押し返そうとするルアイン兵を倒して、さらに途中で妨害してくるだろう他の兵を倒さなければならない。
通常の攻城戦から考えると、かなりの短時間で砦攻略を行っているとはいえ、城門を突破されたらすぐに人質を移動させようとしたりするはず。
だから急いで、キアラは彼女達の居場所をつきとめ、石の壁を築いて匿いたかったのだ。
よってこの潜入を決行することにした。
ただ二人きりでの行動なので、あまり敵兵に姿をさらしたくない。そのため城壁に穴はあけたものの、壁の向こうまで通じるものにはしなかった。
厚い壁の内部を進むのだ。
時々のぞき穴を作って、中の状況を見て移動する。
通路を作りながら少しずつ進んでいると、三度目に覗き穴を作ってみたところで、見える範囲には人影がほとんどいない場所に出た。
城門から離れた場所から入り込んだのは、正解だったようだ。あちらに人が集中しているのだろう。
「土の巨人は動かないぞ!」
「もう魔術師の力が尽きたんだ! なんとか押し返せ!」
そんな声が聞こえてくる。
移動するには調度いいので、カインさんにも外の様子を見てもらい、判断を仰ぐ。
「どうですか?」
「この距離なら、走ればなんとかなるでしょう。一応向かい側に見える内砦の主塔や、壁上にいる見張りには気付かれるでしょうが、見張りが叫ぶ前に入ってしまえば、似たような手段で移動したら十分に逃げられると思います。こちらがどの辺りに居るのか、相手には補足できなくなるでしょう」
イニオン砦は、外側の城壁の内側に、また砦を作ったような形をしている。
そのため、大抵の砦は主塔も何もかも壁にくっついて作られてるのが常だけれど、ここの主塔や建造物は内側の砦にある。
ということは人質を閉じ込める牢もそっちにあるのだ。
なので内砦に忍び込まなければならない。
「行きましょう」
カインさんの指示するタイミングで、私は目の前の壁を通り抜けられる分だけ砂にして崩し、出口を作る。
手を引かれながら走った私は、緊張で周囲の物音を拾うどころじゃなかった。
戦場は慣れてきたけれど、潜入なんて初めてだ。
しかも土人形に乗っているというイニシアティブ無し。けっこう恐ろしい。あげくの上に味方が周囲に居ないのだ。
大勢味方がいたらいたで、忍べないので困るのだが心細い。
無我夢中で足を動かし、なんとか転ばずに内砦の壁に張りついた瞬間に、壁に穴を開けた――が。
「壁うっすい?」
穴を開けてみたら、砦壁内に通路があったらしく、そこへ入り口を開けただけになってしまった。
その上、すぐ横には一人の兵士がいた。
通路だから採光口から光が入っても、薄暗い場所だけど、あなたの着ているのが黒いマントってことは、ルアインの方ですね? なんて尋ねる必要すらない。
だから敵だとわかっているのに、驚き過ぎて私は硬直した。
そんな私を、カインさんが抱えて走り出した。
「キアラさん、正気に戻って下さい!」
「わ、わ、わ、うわぁぁぁぁっ」
今頃小声で叫びながら、私はカインさんに連れていかれ、急いでそこから逃走した。
けれど突然の遭遇に驚いたルアイン兵も、私同様にしばらく硬直してくれていた。
ややあって追いかけてきたけれど距離がある……って、他の方向からも来た!
慌てて中庭に向かって入り口を開けて砦壁の中から外へ出る。
出てもそこは、挟み撃ちされない場所というだけだ。
砦ってことは構造的に壁の向こうは中庭みたいになっているからして、内側で働ている兵がいるわけで。
案の定、遠くに固まって内門を固めようとしていた人達の何人かが、こちらに気づいてしまった。
しかも明らかにうろついているわけのない女と、青いマントを羽織ったカインさんを見て、すぐに敵認定したのだろう。こっちに向かって来る!
「ひぃいぃぃ!」
またしても腕を引っ張られるがままだけど、必死に足を動かした。
「キアラさん、早くこの辺りで!」
カインさんに急かされるままになんとか入り口を作成。
今度はどこかの部屋に入ったみたいだ。
急いで穴をふさぎ、さらにカインさんに従って走って、次の部屋、次の部屋へと移動して……ようやく行きついた所には、兵士の姿はなかった。
出入り口にした場所をふさいで、ほっとその場に座り込んでしまう。
静かな場所だったから、私の呼吸音がやけに耳につく。
そこは、礼拝堂だった。
石畳の床が広がるのは、ほんの二十人くらいしか膝をついて座ることができない面積しかない。静かに司祭や修道士の説法を聞くための椅子などもない。
狭いけれど天井が高く作られ、人に運命を知らせる夢を与えるという運命の女神の像が祭壇に飾られているだけだ。
「ここが礼拝堂……てことは」
元はデルフィオン男爵家が管理していた砦だ。
内部構造については、アーネストさんから図を描いてもらっていた。
紙を広げて、カインさんと場所を確認し、次に移動する方向を決めた。




