その日私達は出会った
「・・・・・」が非常に多い
王歴4278年 349の日
雪が降っていた。
大通りから遠く離れた路地裏。
そのレンガ造りの街並みに音は無く降りしきる雪が無ければその景色はまるで額縁におさまった絵画の様だった。
「くそっ!見失った!」
「ガキ一人になに手こずってんだ!」
「探せ!まだ近くに居るはずだ!」
しかしこの世界は絵画ではない。
世界の美しさだけを眺め続けるわけにはいかないのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
大通りからいくつもある中の一つの路地に駆け込みなんとか自分を追っている兵士達をやり過ごすことが出来たみたい。
私は周囲を確認し追っ手が来ていないことが分かると壁に背を付け座り込んだ。
降り続けている雪が溶けた雫が頬を伝う。
「寒い・・・」
膝を抱え顔をうずめた。
かれこれ15日前から兵士に見つかっては追われる日々を送っている。
ちゃんとした食べ物もずっと食べてない。
もう体力は限界だった。
「なんで・・私、何も悪い事してないのに」
なんでかなんて良く分かってる。
全ては私が「欠落者」としてこの世に生まれてしまったから。
生まれながらにして罪を背負わされたから。
「もう・・・嫌だ。お父さんに会いたいよ・・・」
私を最後まで守ってくれたお父さん。
今はただ大好きな父親の腕の中で眠りたい。
「このあたりかな〜?」
「っ!?」
すぐ近くで声が聞こえた。
私は弾かれた様に走り出す。
目指すべき場所なんて何処にも無い。
けど今はここじゃない遠くへ走らなきゃいけない。
人のざわめきが聞こえてきた。
このまま走れはまた大通りに出られる。
そしたら人混みに紛れて追っ手を撒けるかもしれない。
希望が見えたと思った時だった。
「あ〜い、ざーんねーん!ゲームオーバー♪」
突然脇道から伸びてきた足に引っかかり私は転倒した。
すると同時に右足首に激痛が走る。
「がっ、あぁぁぁぁぁぁああああ‼︎‼︎‼︎‼︎」
「まったく、また逃げられたら面倒なんだよな〜」
足首を踏まれただけだけど、まともな食生活すら送れていない私の骨は脆い。
折れてはいないだろうけどひびぐらいは入っているかもしれない。
立ち上がろうともがいても足に力が入らなかった。
「いや〜しかし複雑な路地裏を右へ左へとご苦労様だったねぇ〜。疲れただろ〜?」
男はニヤニヤしながら私を覗き込んでくる。
「うぅ・・・なんで、先回り出来た」
わざわざ追っ手を振り切るために路地裏を使ったというのに。
「あは〜、そいつは俺の「異能」さ。触れた相手のおおよその居場所を200四方程度なら察知できる。効果は30分と持たないがな」
そう言い男は手のひらを軽く振った。
「だが欠落者狩りにはもってこいだろ?」
体の力が抜けた。
つまりさっきまで必死で逃げていた私の居場所はずっと筒抜けだったんだ。
地面にへたり込む。
立ち上がる気力はもう残っていなかった。
「おーおー、観念したか?欠落者強制収監方により貴様を王立中央刑務所に強制送還する。」
兵士の手が伸びてくる。
思い出すのはお父さんの事。
お父さんは道端に捨てられていたまだ赤ちゃんだった私を拾って育ててくれた。
異能者の夫婦から欠落者が産まれるとその赤ん坊は捨てられるのが当たり前らしい。
だけどお父さんは他人の私を本当の娘の様に接してくれた。
15日前だってお父さんが庇ってくれなかったらあの時点で捕まっていたと思う。
そしてお父さんは言っていた。
「王政府は欠落者を国の汚物としか見ていない。奴等に捕まったら二度と人間扱いされることは無いだろう。だから逃げろ。逃げ延びて生きろ」
私だって刑務所で一生を過ごすなんて嫌だ。
でも・・・もうどうしようもない。
腕を掴まれた。
もう逃げられない。
そして・・・
目が合った。
路地裏の突き当たりに茶色の紙袋を抱えた黒髪の青年と。
私は無意識に叫んでいた。
・・・・たすけて。と
初めに聞こえたのは兵士の呻き声。
二つ目に聞こえたのが激突音。
そして最後に聞こえたのが紙袋が地面に落ちたた音だった。
「っが!?、な、にが」
兵士の男の声で我に返る。
私はとっさに振り返った。
そして驚愕した。
青年が兵士の顔面を掴み地面に押さえつけていた。
いや、正確には兵士の後頭部を地面に叩きつけたのだ。
兵士はピクリとも動かない。
彼は今の一瞬で王国軍の兵士の意識を刈り取ったんだ。
しかし流石軍人と言うべきか目にうつらない程の速さで叩きつけられたというのに兵士は気を失っているだけの様だった。
それは兵士の頑丈さ故か、それとも青年の技量故なのか。
私はその光景を地面にへたり込みながら見ていることしかできなかった。
青年は兵士の顔を一瞥すると不意に立ち上がりこちらに歩み寄ってくる。
・・・と思ったら私の横を素通りし紙袋から散らばった果物やパンを黙々と拾い始めた。
「はぁ〜・・・」
青年は地面に落ちてしまったリンゴを見て溜息をつくとようやく私の方を向いた。
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙が訪れる。
私はまだ少し混乱していて何を言えばいいか分からなかった。
対して目の前の青年はジッと私の目を見てくる。
数十秒後、流石に落ち着きを取り戻した私はまずはお礼を言わなくてはいけないと思い青年に声をかけようとした。
「あ・・あの、ありg「立てないのか?」
「・・・はい」
遮られた。
何も私のセリフと被せてこなくてもいいじゃないとも思ったが立ち上がれないのは事実なので返事をする。
すると何を思ったのか彼は私の目の前で背を向けると腰を落とした。
「乗れ・・・」
・・・いや、12歳にもなっておんぶはちょっと恥ずかしいかな〜・・・って!?
モジモジしていると彼は強引に私をおぶり、そのまま歩き出した。
「ちょ、ちょっと!どこ行くんですか!?」
「足・・手当が必要だろ」
どうやら足を治療できる場所にわざわざ連れて行ってくれるようだ。
この人には感謝しても仕切れない。
でも一つ疑問が。
「欠落者を診てくれる診療所なんてあるんですか?」
「怪我の手当てぐらい出来る」
「それって・・・」
まぁ、でも当たり前なんだ。
欠落者を診てくれる医者なんか滅多にいない。
今はこの青年に・・・あっ
「まだ名前聞いていませんでした。私はフィオルっていいます」
「・・・・・アレン・・・アレン・グレイヒッツ」
アレンさんはそれだけ言うと黙ってしまった。
寡黙な人なのかなと考えていると今度はアレンさんの方から声をかけてきた。
「・・・お前」
「えっ?」
「俺と前に何処かて会ったか?」
アレンさんの横顔から見える黒色の瞳はとても優しい光を放っていた。
「い、いえ・・そんなことは無いと・・・」
「そうか・・・」
雪はいつの間にか止んでいた。
小説って難しい