妄執 ─女とお化け屋敷と と─
その女を、俺は幽霊だと空目した。
高一の夏休みだ。俺はバイトをすることになった。バイトっつっても、知り合いの手伝いなんだけどな。あぁ、もちろん給料は出たさ。バイトだし。
仕事内容は遊園地のオバケ屋敷のスタッフ。
ほれ、あそこ。こないだお前……そうそう、そこで今スマホいじってたお前だ。
お前が行きたいー! てうるさかったところ。あそこの遊園地だ。
──あそこの遊園地には、オバケ屋敷なんて無いって?
そりゃそーだ。夏休みだけの期間限定の出し物だったからな。好評だったら、今年もやっていたかも知れないけどな。
いや、好評だったぞ実際。前々からポスターやらで予告していたから、客足も良かったし。ネットでの反応も上々だった。
来年もやろうか、という話も上がってたんだぜ。バイトの身ながら、俺も嬉しく思ったさ。順風満帆。まさにそんな言葉の通りだったのさ。
……あの女が現れるまでは。
その日、俺は出口付近の担当だった。
いつも通りに血のりを浴びて、ボロボロの着物を着てな。落ち武者って設定だったから、発泡スチロールで作った鎧兜を付けて。
出口近くで安心仕切った客に背後から声をかけるんだ。こんな感じで──。
「逃がさぬ……逃がさぬ……」
お、お前らビビってるな。結構上手いだろう。このかすれ声。
客の反応も中々だったよ。厳つい顔したおっさんも涙目になってたぐらいだ。
だから、その日もいつも通りに声をかけたんだ。よく覚えている。
その女は、一人だった。
ツレ無しの女客は珍しかったのもある。それと、女の様子だ。怯えている様子が全く無かった。
確かに子供が入ることを想定して、恐怖演出は控えめだったけどな。だけど、それでも震え一つしないってのは、変だろう? 背筋も丸めることなく、胸を張って女は歩いていた。
その姿が……なんつーか、ムカついちまって。
おいおい、そんな悪人見るような目で見ないでくれよ。俺だって、我ながらガキくせぇって思ってんだからよー。
そん時の俺は血気盛んだったからな。あの女をビビらせてやろう。そう企んだんだ。
ほくそ笑みながら、待機場所から歩き出した。
背後からこっそりと──息をすることすらも慎重に──俺は歩いた。ゆっくり、ゆっくりと女に近寄る。
今でも思い出せる。あの長い黒髪を。腰元まで伸びたあの髪に、俺は日本人形を連想した。艶やかな、痛み一つ無い綺麗な黒髪だったさ。
手を伸ばせば女の肩に触れれる位置に、俺はいた。
緊張と興奮で震える唇を、舌で舐める。あの時が、バイトしてた時の中で一番神経を集中させた気がする。俺が持つ全てを込めて、あの女を震え上がらせてやろう。そんな野心を抱きながら、俺は腰に挿した模造刀を抜いた。
深呼吸を一つして、俺はいつもの台詞を口にした──つもりだった。
一瞬だった。
女の首が、ぐりんとこっちに向いた。
出口から差し込む灯りが、女の顔を後ろから照らしていた。普通の女だった。美人でも不細工でも無い。特徴らしい特徴が無い。次の日には忘れていそうな、どこにでいる普通の顔立ちだった。
それでも、俺は息を呑んだ。女の顔から、目をそらせなかった。
女の目。
──魚の目だ。
俺はそう思った。それぐらいに、女の目は見開かれていた。まぶたが無いんじゃないだろうかと心配になるぐらいに。
ぎょろりと飛び出す女の目には、強張る俺の表情が映っていた。
時間が止まる。空気が凍り付く。鼓動の音すら途絶える。──そんな表現が、あの時の俺に降りかかっていた。
笑えるだろう? お化け役が、客の女にビビらされているんだから。
でもな、お前らも実際に対面してみろ。絶対に俺と同じことを思うはずだ。
──本物が出た、てな。
時間が長く感じた。実際には数秒ぐらいなんだうけどな。
俺は女に見上げられたまま動けないでいた。
女の赤い口が、動いた。
──出ていけ。
低く、かすれた声だった。
幽霊が喋るんだったら、こんな声をしているんだろう。そう思わせる声だ。
背中に汗を流しながら、俺は硬直していた。頭の中はもうパニックよ。
やべぇ。
とにかくやべぇとしか頭に浮かばなかった。というか、やべぇって言葉が頭を埋め尽くしていた。
逃げるという選択肢も出てこなかった。……『蛇に睨まれた蛙』だ。俺は蛙だった。
蛇は──女は、もう一度言った。
「出ていけ」
恐怖が一巡しちまうと、人間っつーのは自棄になるもんだな。俺は尋ねてしまったんだ、女に。
「どうして……」
そん時の俺は自分がお化け役だってことをすっかりと失念していた。素の状態になっていたんだ。ただの男子高生として、俺は女と対峙していた。
それだけ女の存在がおぞましかったんだ。
女はぎょろりと眼球を動かして、俺を見た。
「この遊園地から、出ていけ」
背後から悲鳴が聞こえてきた。他の客のものだ。それを聞いて、ようやく俺は我に返ったよ。
女は幽霊じゃなくただの人間。ちゃんと呼吸をしてるし、足もある。
ああきっとお化け役を脅かすつもりなんで来た悪趣味なヤツなんだろう 。運悪く俺がこの女のターゲットになっちまったんだろう。
俺はそう納得した。
だが、それでも客は客だ。余計な真似はしないで、仕事に徹した方がいいだろう。
「逃がさぬ……」
言ってから俺はしまったと思った。別に女は逃げてるわけじゃあないのに、「逃がさぬ」なんておかしいよな。むしろ立ち向かって来てるんだから。
別の台詞のが良かったのだろうか──なんて考えていたら、女の口が動いた。
「この遊園地から、出ていけ」
「ハァ?」
「アンタたちは、この遊園地に敬意を払ってない」
訳が分からなかった。言葉に詰まる俺を無視して、女は喋り続ける。
女の言い分はこうだった。
──この遊園地は自分が小さい頃から通っていた。大切な思い出がたくさんある。
──それなのに、こんな低俗でくだらなくて汚らしいお化け屋敷なんてものを設置するなんておかしい。
──お前たちはこの遊園地を汚している。今すぐに出ていけ。
あぁ、お前らの言いたいことは分かる。俺もそん時、そう言いたかった。
嫌ならわざわざ入って来なけりゃいいのにな。
言っとくが外観はあからさまにおどろおどろしい物にはしてない。お化けの模型なんて飾っては無かった。学祭みたいな幽霊役が呼び込みなんてことも勿論するものか。
遊園地だからな。怖がる子供が出ないように配慮はした。
怖いもの嫌いな人を怯えさせないよう、それはそれは細心の注意をされてたんだぜ?
だから女の言葉はただの言いがかりでしか無かった。女は俺が黙り込んでいる間も繰り返し言うわけよ。「出ていけ」、「お前たちは目障りだ」ってな。
んで、俺も若返ったからなぁ。腹、立てちまったんだよ。……いやだってなぁ。最初にも言ったけど、そのお化け屋敷設営には俺の知人が関わってたんだ。オープンするまでの間、その人がどれだけ骨を折っていたのかよく知っていたし、他のスタッフの苦労だって聞いていた。
お前なんかに何が分かるんだって、頭に血が昇っちまったんだ。
「なんで俺らが出ていかなきゃいけねぇんだよ」
「お前たちに敬意が無いからよ」
「なんだよ、それ……」
「この遊園地に対する敬意が無い」
何を言ってるんだ、コイツ。そう言いたげだな、お前ら。俺だってそうだった。
俺──いや、アトラクションのスタッフたちは、ただお客さんを楽しませようとしているだけだ。それも敬意って言えば敬意だろうと、俺は思う。
だが女は言うわけよ。俺たち──お化け屋敷に関わった人間はこの遊園地に対して敬意が無いってな。
「お前たちはこの遊園地を、自分たちの妄想の道具に使ってるのよ」
妄想の、自分たちが考えた怖いお化けを、他人に見せびらかすためにこの遊園地を利用している。だから、出ていけ。そう言っていた。
もうワケが分からないだろう?
そんな乱暴な言い分、まかり通るのがおかしいだろう?
この頃になると、俺はあることを疑い始めていた。
──この女は、ひょっとして触ったらいけない類の人種なんじゃないか、てな。
そうだとしたら女の言動に納得が出来るからだ。だったら話は早い。適当にあしらってお帰り頂けば良いんだからな。
色々と反論したいことはあったんだが、こらえたさ。ここで騒ぎを起こした方が、後々面倒になる。それぐらいは理解していた。
ひとまず俺は退散することにした。話し相手がいなけりゃ、この女は出て行くだろう。そう思ったからだ。
俺が引き返そうとした──その時だった。女の手が、俺の右手首を掴んだ。
ビビった。
あぁ、ビビったさ。まさか手を出してくるなんざ、思いもよらなかったからな。
──出ていけ。
俺の背後から女の声がかけられた。まるで氷水を引っ掛けられたように、俺の背筋は震えた。
振り向けなかった。
歩き出せなかった。
立ったままで金縛りにあっちまったようだった。
女の手は冷たい──というわけじゃなかった。じっとりと汗ばんだ触感を持った、人肌の温もりがあったよ。
それが、普段なら何とも思わないその温もりが、俺は気持ち悪く思えた。女に触られた部分が腐り落ちてしまうんじゃないのかって、本気で心配になった。
「出ていけ。この遊園地から。出ていけ」
女の背丈は当時の俺よりも頭一つ分低かった。だけど、その声はまるで耳元で直で囁かれているような気がした。
出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ……。
延々と同じ言葉が繰り返された。
「止めろよ……」
頭がおかしくなりそうだった。
出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ──。
「止めてくれ……」
こんな所から、早く逃げ去りたかった。
出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ──出ていけ!
「止めてくれよッ!」
俺の叫び声が、辺り一面に響いた。
「おい、しっかりしろ!」
気が付けば、俺は頭を抱えてしゃがみ込んでいた。声をかけてくれたのは、他のスタッフだった。彼に肩を揺さぶられて、俺は正気に返った。
眼球が熱かった。まるで火の中を覗き込んだみたいに。
俺とその人の周囲を取り囲むように、大勢の人間がいた。見知った顔のスタッフたち、見知らぬ顔の客たち。みんな心配そうな眼差しで俺を眺めていた。
「大丈夫か?」
「アイツは……? あの女は何処に」
ぐるりと人垣を見渡しても、あの不気味な女の姿は無かった。
消えた。
そう思った。逃げたんじゃない。煙のようにかき消えたんだ、と俺は本気で思った。
俺はすぐさま、あの女の話をしようと思ったさ。だけど、それよりも先に傍についてくれていたスタッフに無理やり立たされた。
「お前は、もう裏に戻れ」
「で、でも……」
「いいから。分かっているから」
色々と腑に落ちなかった。
だが、俺は素直に引き下がった。お客に迷惑がかかるのが困るのもあったが、それよりも彼の「分かっているから」という言葉が俺のケツを叩いたからだ。
その人とバックヤードに戻ると、俺は事情を説明した。女のことを。
最後まで彼は黙って聞いていてくれた。俺の話が終わると、彼は躊躇うような表情をしながらこう言った。
「実はな……お前だけじゃないんだ」
お化け屋敷がオープンする──そう宣伝を打った時、遊園地に電話が入ったという。
──あのお化け屋敷を取り壊せ。
低い女の声だったらしい。すぐさま、その声の主があの女のものだと俺は直感した。
スタッフは説明を続けた。
「悪戯かと思って無視しようと、上に指示されたのだが……」
彼は自分のデスクから紙の束を取り出した。それは、封書だった。札束ぐらいの分厚さがあった。
目の前に置かれたそれに、俺は嫌な予感がしたんだ。禍々しい。そんな言葉が浮かんだ。
触ったら、祟りでもくらいそうな……それぐらいに気味悪く思えた。
スタッフはそんな俺の姿が遠慮しているものと取ったのか、自ら封筒を開いて見せた。中から出てきたのは、真新しい一枚の便箋だった。
──おバけ屋しきヲ、中止シろ!
脅迫状だった。新聞の切り抜きで作られていた。
絶句する俺の前に、どんどんと便箋が広げられてゆく。
──中止
──止メろ
──反対
──出て行け
バラバラだった。手書き、ワープロ、印字……様々な書き方で便箋には文字が綴られていた。書いてある内容は全て同じなのにな。
「脅迫、じゃないですかコレ……」
背筋に薄ら寒いものを感じながら、俺は言った。
「警察に通報しないんですか?」
「したさ。だがな、ダメだ」
実害が出てないということで渋られたらしい。何だそれって思うよな。
不満を持ちながら、俺は机の上に広げられた封筒を見て、絶句した。
正確には封筒の消印を見て、だ。
消印には、その手紙が投函された所在地が印されているだろう? ……そうだよ。
全て、別々の場所から送られていた。
市内外は勿論、県外からもだ。一つとして同じ場所は存在しなかった。
あの女のじっとりとした視線を思い出して、俺は改めて背筋を震わした。
その時になって、女に掴まれた右手首にじくじくとした痛みがあることに気付いた。見てみれば、そこは爪が食い込んだ痕がついていた。乾きかけた血が皮膚に張り付いていた。
「今日の騒ぎもあるから、とりあえず通報はしておくつもりだ。上も文句は言わないだろう」
警察の言う『実害』が出たわけだから、これで動いてくれるだろう。運悪く俺がその被害者になったわけだが。
それでもこれで終わりだと安堵出来た。相手は人間だ。幽霊じゃない。
警察が後は何とかしてくれるはずだ。
俺はそう信じた──いや、信じ込もうとした。
…………警察は駄目だった。
一応は動いてはくれた。営業妨害って罪状でな。
「もうイヤです!」
そう言ってバイトの女の子が止めた。俺があの女と遭遇した次の日だった。
昨日の今日だと言うことで、俺の持ち場は変わっていた。で、代わりにその子が出口付近の担当になったんだ。
さすがに連日は来ないだろう。昨日はちょっとした騒ぎになったんだから。俺らはそう思っていた。
だが、女は来たんだ。昨日と同じように一人で。
…………いや、気付かなかった。そう、気付かなかったっんだ。
あれだけ女の顔が脳裏に刻み込まれたはずなのに、女が来ていたことに俺は気付かなかったんだ。
今にして思えば、あの女はグループ連れに紛れ込んで侵入していたんじゃないかと推測出来るんだが、当時の俺は──俺たちは分からなかった。
突然現れて、突然消える。
まさに幽霊さながらで女は出没した。それも連日。出口付近のお化け役の前で。
受付のヤツは女の出禁を命じられていたが、無駄だった。どんなにチェックを厳しくしても、女は現れた。
参ってしまったバイトは次々と止めていった。ついには嫌な口コミまで広がっちまったよ。
──あのお化け屋敷は、本物がいる。
ネットを媒介にして一気に伝わったんだろうな。家族連れは勿論普通の客すら寄り付かなくなった。物好きなヤツだけが、見に来るだけになっちまった。
その頃には俺もバイトを止めていた。スタッフの人数も減り、また元の持ち場に戻されそうだったからな。……あの女にまた睨まれるのは御免だった。
──その女幽霊を見たら、呪われる。
そんな噂が、とても真実味を帯びているような気すらしていたんだ。
それからしばらくもしない内に、お化け屋敷は撤去されることが決まった。予定していた終了日よりも、ずっと早い日にな。
※ ※
「たぶん、遊園地自体の客足の方にも響いちまったんだろうな。もともとファミリー層を意識してたみたいだし」
そう言って、先輩はタバコを口に含んだ。だけど、話している間にタバコは殆ど灰になっていた。渋い顔をして、先輩は携帯灰皿にタバコを押し付ける。
先輩が新しいタバコを取り出したところで、私は聞いてみた。
「それで、その女の人って捕まったんですか?」
「ああん?」
サングラス越しに睨み付けられた。聞いてねぇのかコイツ、みたいな顔をされてしまった。
「言っただろう、警察は駄目だったってな」
「じゃあ、野放しってワケっすか?」
ピアス塗れの男子後輩が尋ねた。口調はいつもと同じ馴れ馴れしいものだけれど、声が震えていた。
先輩は頷く。
「マジっすか……」
「それが原因かも知れねーが、以来あの遊園地にはお化け屋敷関係のアトラクションは設置されてねぇ。障らぬ神になんとやらっつーことだろ」
──神っつーか、悪霊が正しいんだろうけどな。
自嘲するような表情で、先輩はそう吐き捨てた。
私たちは何も言えなかった。部室の中に気まずい沈黙が溢れる。音があるとすれば、窓の外から届く鈴虫の鳴き声と点けっぱなしのホラーDVDの悲鳴だけだった。
右手首にはめられたらリストバンドを眺めながら、先輩は口を開いた。
「しばらくはお化け関係は駄目になった。けどな、やっぱり離れられないワケだ。なんだかんだ言ったって、俺はホラー物が好きだかんな」
それはよく知っている。ウチの部で所有しているDVDの大半は先輩の私物だ。
「でも、お化け屋敷ってのは今も駄目だ。何度か足を運ばうと試したが……駄目だった」
その理由は言われなくても分かる気がする。
私たちが何も言わないままでいると、先輩はタバコの煙を吐き出した。蛍光灯の光に当てられ、くねった白煙が天井に広がる。
「で、どうすんだ? 我がホラー映画愛好会の学祭の出し物は」
今回の集まりの議題内容を先輩は口にした。
「お前らが『お化け屋敷』で良いって言うんなら、俺はそれでいいが」
私は答えない。黙って顔を俯ける。手の中にあるスマホの画面を見つめる。そこには出し物用に調べていた女幽霊の画像が浮かび上がっている。その女の口が動いた気がした。
──出ていけ。
みんな沈黙していた。視線を泳がせ、気まずい表情で汗を流している。
書記役として教室の黒板に立っている女の先輩も、困ったようにそこに書かれた文字を眺めている。
──B級ホラーお化け屋敷。
件の女が現れるはずは無い。こんな田舎の大学になんて。そんなことは分かりきっている。
だけど、私は──私たちの心はもう決まりかけていた。
お化け屋敷は止めよう。
誰もそう発言はしなかったけれど、書記役の先輩は黒板の文字を消し去った。
【了】