ぽんぷ
本日、雨天。
湿った教室内は暖房と知恵熱で若干ぬるい。
窓際に座る私はただ左半身が寒いだけだ。後ろの席に座る貴方も寒いのでしょうか。
私は頬杖をついて、窓の外を見つめる。独特の水音は窓ガラスに遮断されている。
うっすらとガラスに水滴がへばりついて、掌を近づけると冷気を感じた。
深々と冷え込んでいくようだ。私の足先から、手先から、耳から。
ブレザーのポケットが小さく震えた。携帯をこっそりと取り出して見ると、後ろの席の貴方。
[寒いの?]
[うん。寒いです]
黒板とチョークが擦れる音。現代文はあまり好きじゃない。私の目線は教科書ではなくて、無音の雨と短い文章。
背中を小さく叩かれて振り向くと耳元であげるよ、と彼はつぶやいた。
数時間使われたカイロを渡される。いいのと聞くと、うんと言って黒板へ顔を向ける彼。
それとは反対に私は窓へ顔を向ける。左手に握ったカイロには、酸化だけではない温かさが残っていた。
[早く授業終わらないかな。]
[そうだね。]
身体のポンプが先ほどより早く動き出したので、体温が上がったのだろうか。少し暖かくなった。
無防備な下半身は相変わらず、深々と冷やされていく。
[雨だね]
[鈴木君、雨嫌い?]
[雨、好きだよ]
[ふうん]
手が悴んでいるようだった。うまくボタンを押せなくて、苛立つ。
雨は私の心を無にするようだった。貴方へ返信するのも忘れてしまう。
気づけば教科書はもう2ページも進んでいた。板書はたまに写しておかないと遅れてしまう。
鈴木君…。鈴木君。鈴木君…。鈴木君のことを考えた。
君と出会わなければ、授業を真面目に受けられたのになんて。