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魔術師と学術師  作者: 3期


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8/8

不安

魔術学園の生徒は併設されている寮で生活する決まりがある。

主な理由として、魔力を持った存在を野放しにしてしまうと事件に巻き込まれたり、あるいは自らが犯罪に手を染める可能性があるため、人間性を育む一環として生徒の生活を管理している。


私もお金に余裕がある訳では無い。なので宿屋を借りるよりも無料で住まわれてくれる寮があった方がありがたいのだ。


さらに一人一部屋用意されているので、生徒のプライベートも守られている。


家具や部屋の作り自体は古めかしいが、私がこの学園に来る前に過ごしてきた場所と似ていて、少し安心してしまう。


部屋に戻ってくるたびに、誰もいないの部屋に向かって


「ただいま」


と、言ってしまう。


あの日、両親を失った私を養子として迎え入れてくれた人がいる。


もしかしたら今日も私の帰りを出迎えてくれるんじゃないかと、そんな気がして。


結局は何も返ってこず、扉がバタンと閉まる音だけが部屋に響く。


「はぁ……」


溜息をひとつ着き、まずはローブを脱ぐ。素材自体は軽いのだが、それでもずっと羽織っていると肩が窮屈に感じてくる。


身軽になった体で洗面台へ行き、顔を洗う。


冷たい水がぼーっとした頭を冷やしてくれる。


それでもまだ思考が回らない。


ふらふらとした足取りでベッドへ向かう。

ブラウスのボタンを外し、スカートのチャックを下ろす。


下着姿になったヘレナは、力が抜けたようにベッドに倒れ込んだ。


「……くそっ」


どうせ私は下級魔術師の娘で……どんなに頑張って上級魔術師には届かなかったんだ。

毎日欠かさず魔法を唱えた。知識だって人一倍身につけた。足りない魔力は努力で補った。


出来ることは全部やったんだ……。


だからこそ、これ以上を目指すことが出来ないという現実にぶつかり立ち直ることが出来なかった。


――私が今までやってきたことって、全部無駄だったのかな。


頭の中の熱を逃がすように、頬を伝う涙は熱かった。


また泣いてしまった。私って、こんな弱かったっけ。


ヘレナは布団の上でうずくまり、ただ静かに涙を流した。


――――――――――――――


――――――――


―――――



ひとしきり泣いた後、便箋と荷物が届いてたことに気がついた。

窓に備え付けられたポストに調教されたフクロウが届けるという仕組みらしい。いったいいつの間に届いたのだろうか。


窓の外はずいぶんと暗くなっていた。茜色の空は青黒いグラデーションの先に消えていく。


窓を開けると肌寒い風が吹き抜けた。そういえば下着のままだったのを思い出し慌てて服を着る。そうして届けられた便箋と荷物を受け取った。


便箋には今日の試験の結果とランク分けされた生徒の名前、さらに今後の予定などが書かれていた。



見るまでもなく分かる。私は下級魔術師Ⅲからのスタートだ。


一方で荷物の方には黒1色のローブが入っていた。

誰がどのランクなのか分かりやすくするために、ローブも色も分けているのだ。

下級魔術師Ⅲは黒一色のローブ。

下級魔術師Ⅱは黒色を基調とした布に縁が銀色になっているローブ。

下級魔術師Ⅰも黒色を基調としてして、さらに縁が金色になっている。


このように一色→銀縁→金縁とランクが上がる度に変わってくる。


中級魔術師は濃い青色。上級魔術師は燃えるような赤い色。

しかし、上級魔術師Ⅰに関してはこの学園のシンボルマークが刺繍されたローブが与えられる。それはこの学園を背負う生徒に相応しいと認められた証拠になる。


さて便箋に方に戻り、ランク分けされた生徒の名前を見ていく。下級魔術師Ⅲは他のランクと比較しても生徒の人数は少ない。10人足らずといったところだ。


その中に見覚えのある……というか思い出したくもない生徒の名前が書いてあった。


「……アルマ・スタンル」


学術師上がりの家系で、確かに彼の唱えた詠唱も発動した魔法も見たことがなかった。

そこには少しだけ惹かれるものがあった。


――しかし。



「僕と……付き合ってください!!!」



声までフラッシュバックしてしまった。


そう、私が廊下に飛び出した後の出来事だ。


あの時は試験で失敗したことで頭がいっぱいだったから良く考えられなかった。


そして冷静になった今考え直してもよく分からない。


……………………告白?


でもなぜ? 急に? 初対面の人……それも私相手に?

思い返せば思い返すほど謎が増すばかり。


他にも何か言っていた気がする。確か――



――――――


―――――――――――


――――――――――――――――


「君とだったら……きっと完成すると思うんだ…… 」

それはまるで自分に言い聞かせるように小さな声だった。


「君の魔法を見た時、確信したよ。僕の人生を全て賭けてもいい。僕と一緒に……」


あぁ、そうだ。この言葉を聞いてから頭が一気に混乱したんだ。


「ちょ、ちょっと待って、人生を賭けるって何……? ていうかそもそも私まだ……」



「あ、そうか。ごめんなさい! つい気持ちが先走っちゃって……でも。……うん、この気持ちはどうしても伝えたくて」

目の前の少年……もといアルマ・スタンルは改めてヘレナを見つめた。


「ヘレナ・アトレーナ。僕は君の魔法に一目惚れしたんだ。僕と一緒に――」


一目惚れ、人生を賭ける……え、何? 結婚してくれってこと!?


――頭が真っ白になった。



と、とりあえず、返事をしなければ。えーと、確かお父様がこういう時よく口にしていた詠唱があったはず……。


「えーっと……い、いったん、持ち帰らせていただきます」



――――――


――――――――――――


―――――――――――――――――



カップから立ち上る湯気を何となしに見つめる。

お気に入りのハーブティーを入れて気持ちを落ち着かせようと思ったのだが。

レモングラスの新緑を思わせる華やかな香りとミントの鼻を抜ける爽快な香り。

お気に入りのブレンドを嗜む。しかし気持ちは晴れることはない。それどころか苛立ちが増すばかり。


試験でランクが上がらなかったことも。そしてその後に告白されるというタイミングの悪さも。


考えないといけないことが多くて精神的に追い詰められそうだ。


「……はぁ」


もういいや……。


寝よう。


今考えたって結果が出ることはない。こういうのは時間が解決してくれる部分も多い。


また明日。考えよう。


部屋の中に1つ灯るランタンを消して、ベッドに潜り込んだ。


……おやすみ。



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