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魔術師と学術師  作者: 3期


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6/8

試験(3)

私の前に並んでいた生徒たちが次々と試験を受ける。

下級魔術師Ⅱの障壁でわずかに手こずる人はいたが、今のところ全員そこまではクリアしている。それより上のレベルに上がり、ようやくランク分けが行なわれるといったところだ。


あの人は下級魔術師Ⅱ

あの人は下級魔術師Ⅰ


30人ぐらい試験を受けた頃だろうか。中級魔術師Ⅲの障壁を崩した者は未だにいない。それだけ、下級魔術師と中級魔術師で差があるということか。


「ではぁ、次の人は……レイデンス・フィード・アンセル」


ティア教員がその名を呼ぶと、場の空気が一気に静まり返った。全員がいっせいに前を見つめる。


フィード・アンセル。


魔術師を目指す者なら、必ずこの名前を聞くことになる。


魔術協会を創立した大魔導師(だいまどうし)の血筋であり、この世界を統一している四大魔導師(よんだいまどうし)の一角を担う、言わばエリート中のエリート。

その子孫がこの学園に入学しているとは聞いていたが、私は未だにその人物をお目にかかったことはない。


果たしてどんな魔術を扱うのだろうか。


魔力は血筋で大きく変わる。より強力な魔力を扱うには、その身に流れる血や遺伝が重要になってくる。


だからこそ、下級魔術師の血筋は底辺と呼ばれ、上級魔術師は選ばれた存在しかなれないと言われている。


そして上級魔術師の中でもさらに上に君臨する存在のフィード・アンセル一族。


みんなが注目するのも納得だ。


「フィード・アンセル……フィード・アンセル。いないんですかぁ?」


しかしティア教員呼び掛けに応じて出てくる人は居らず。


「……しかたないですねぇ。この試験を休んでしまうと、後日追試になってしまうんですけど……」


結果、レイデンス・フィード・アンセルは姿を見せず、試験は次の人へと流れてしまった。


嘆息がどこからか流れてきた。私もその気持ちは分かる。自分と同い歳の人間であって、それで天才と凡人はどれだけ差が開いているのか確認したかったのだ。



―――――――――――――――


――――――――――


――――――



障壁に入ったヒビが蜘蛛の巣のようにゆっくりと広がり、そして粉々に砕け散った。


「中級魔術師Ⅱ……ですね」


ついに中級魔術師が出た。それもランクⅡ。

歓声が上がる。果たしてどんな人物がそれをなし得たのだろう。


ヘレンは上体を傾けてその人物を覗こうとした。しかし他の生徒と比べて一回り小さな体では、思うようにその人物を見ることができなかった。


「まぁ、でも名前の通った一族だしなぁ」

「結局、遺伝が魔力量を決めるってことだろ。おれらみたいな中堅貴族じゃ太刀打ちできねぇよ」

「それにあのお嬢様、幼い頃から魔術について教育されてたみたいだし。魔術師になるべきして生まれたみたいな存在なんだろ」


ガヤを聞き、その人物がどこかの貴族のご令嬢ということは理解できた。


ぐっと胸を圧迫されたような息苦しさに襲われる。

ここにいる生徒たちはある程度名の通った家の出身が多い。


魔力が使えることは、自分が高貴な存在であるという証明にもなるのだ。


だからこそ魔力量の差がそのまま身分の序列になり、ひいては差別や迫害へと繋がっていく。


私は下級魔術師の父と母の間に生まれた娘。受け継がれた魔力なんてたかが知れてる。


ぎゅっと、唇を強く結ぶ。


それでも、私は私の使命を果たすんだ。



―――――――――――――――――


―――――――――――


――――――




「では次は……アルマ・スタンル」


そろそろ私の番が近づいてきた頃、先程まで魔術式を書いていた少年が前に出た。


背丈も私とあまり変わらず、ぼさぼさの黒髪が目元を隠していて、いかにもひ弱そうな見た目だ。


「スタンル……ってあれだろ? 学術師の家系の」

「あー、何か聞いたことあると思ったら」


私の後ろにいる男子生徒達が会話を始める。

別に気になっていたわけではないが、あの魔術式を書ける人物が何者なのか興味はあった。


「なんで"ここ"にいるんだ? 普通だったら魔術科じゃなくて学術科に行くもんじゃねぇの?」

「それは……魔力が多少使えるのなら、学術師なんかより魔術師を選ぶもんなんじゃないの。学術師なんて魔力が使えないのに魔術師からおこぼれをもらって生きてるようなものだし」

「確かにな。それは言えてる」


魔術師には階級があり、1番下は下級魔術師Ⅲだと言われているが、実はさらにその下と揶揄される存在があって、それが学術師なのだ。

学術師はつまるところ、魔力の使い方について研究したり、新しい詠唱や魔術回路を発見して魔術師に貢献する。言わば裏方のような存在だ。

そして学術師は魔力のない魔術師と言われ、魔力量が存在価値を決めるこの世界においてもっとも序列の低い立場に位置付けされている。


そんな学術師の中でも名を上げた人物がいる。レイル・スタンルという人物だ。この世界の基礎となる魔術式を作り上げた人物で、この人がいなければ魔術師のレベルはずっと変わらなかったと言われている。


しかし、近年では学術師なんて必要ないという声が上がるぐらい魔力の知識は世間に浸透していった。

こうなってしまうと学術師は魔術師の落ちこぼれとして見られてしまう。残念だがこれが事実なのだ。


なるほど、スタンルの子孫だったのか。

ただの学術師の家系だったら変に目立つこともなかったのに、過去に名を馳せたスタンルの子孫だったら嫌に目立ってしまう。

そしてアルマ・スタンルもここにいるということは学術師の家系から抜け出して魔術師になりたいということなのだろう。


その気持ちは分からなくもない。私も差別される側の存在だったから。


「では、始めます〜」


ティア教員の掛け声とともに時計の針が動き始める。

与えられた時間は1分。彼は果たしてどんな魔術を使うのだろうか。


「使徒の理1∞≨円環する魂を72の柱に授ける」


聞いた事もない詠唱が大広間に響く。

彼の持つ焦茶色の杖が煙を吐き出す。


異様な光景だった。


吹き出した煙は瞬きの間で人1人隠すぐらいに広がっていた。

彼の姿は煙の中に消えてしまったが詠唱は未だに続いている。


魔術が発動するような兆しは今のところない。いや、もしかしたら、この煙自体が魔術なのかもしれない。だとしたら、これは何をしようとしているのだろう。


残り30秒を切る。煙の中にいるアルマ・スタンルがついに杖を振り下ろした。


今まで吐き出していた煙が槍のような形成をして、そして障壁へ向けて一直線に突き進んだ。


しかしその槍は障壁を壊すことなく、当たったそばから煙となって上へ昇っていってしまった。


「あれ……おかしいな……魔術式は完璧のはずなのに、魔力量のコントロールかな……」


まるで霧が晴れたように姿を表したアルマ・スタンルは小首を傾げながら自分の持つ杖を観察する。


そしてその杖は役割を果たしたようにヒビが入りはじめ、ぽっきりと折れてしまった。


「あ〜、これ結構高かったのに……」


アルマ・スタンルは肩を落とす。


まだ時間は残っている。あと20秒。あれだけの魔術式を書ける人間なら魔力を媒介する道具がなくても魔法を放つことぐらいできるだろう。せめて下級魔術師Ⅱの障壁ぐらいだったら。


「魔力が枯渇しました。辞退します」


アルマ・スタンルは白旗を上げた。


「では、障壁を壊せなかったということで下級魔術師Ⅲ未満ということになってしまいますがよろしいでしょうか〜」


「ええ、それで問題ありません」


いやに諦めが良い。まるで最初から魔術師なんて目指してなかったような……。


周りからくすくすと笑い声が起こる。


この試験が始まって初の下級魔術師Ⅲ未満が出たことに対する嘲笑だろうか。


自分より下の人を見て安心する人もいる。とりわけ実力主義の魔術師の世界だったらそういう人が多い。


……なんか、すごく嫌な気分だ。


もしかしたら、私もこうやって笑われるのかもしれない。


そして、下級魔術師の子孫だからと哀れに思われて……。


心臓の鼓動が早くなる。汗が吹き出し始める。呼吸が浅くなり、目の前が眩む。


「……すー……はぁ」


息を整える。


大丈夫……大丈夫だから。

胸に手を当て、何度も言いかせる。


そんなヘレナの姿を気にする者なんてここにはいない。


ただ一人を除いて。


先程試験を辞退したアルマ・スタンルは彼女の様子を気にしていた。


彼は嘲笑されることには慣れていた。だから自分を見て笑っている人よりも、ヘレナが目立って見えていたのだ。


「気には……なるな……。あの杖、いったいどれだけ使い込んだら、あんな綺麗にボロボロになるんだろう」


アルマ・スタンルは彼女の持つ杖、そして彼女がどのような魔法を放つのか俄然興味が湧いたようだった。


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