騒動の謎
就活を優先するため、暫くの間、連載を控えます。ご了承ください。
騒動から一夜が明け、僕は記憶を失って最初に目覚めた部屋(自分専用と言って良いかも知れない)でレイネと朝食を迎えていた。
「――こちら、海鮮オムレツ、ミートスパゲッティ、キャベツとごぼうの胡麻和え、カスタードケーキでございます」
メニューを告げた執事は失礼します、と一礼すると退出した。
今日の食事もすごく美味しそうだ……――
「…………」
「――ジンク、どうしたの? 何か考えてるように見えたけど」
「……そう、かな? まぁ、ここの料理に圧倒されたのはあるかな」
嘘ではないけど、料理のことより昨日の一件が頭から離れずにいた。
「フフッ――圧倒って……うちの料理人を褒めてくれるのは嬉しいけど、ちょっと大袈裟じゃない?」
意外な答えが返ったからか、彼女は笑っていた。
「別に大袈裟じゃないよ。お洒落な感じとか……何だか高級な感じがするし」
「お洒落……高級……確かにそうかも知れないけど、伯爵家ならこれくらい普通よ」
言うと彼女は、どこか納得いかない様子で顎に手を当てる。
「知識に対する感覚も覚えてるなら、貴族の常識は自然と受け入れられると思ったのだけど……感覚は曖昧になってるのかも知れないわね」
「もしかして、僕は貴族だったの?」
「ええ。あなたも伯爵家よ。あなたはウィルダ伯爵家の長男よ」
伯爵家か……正直、自分が貴族として暮らしているところなど想像できない。むしろ、平民だったという方が納得できる。
……恐らく、貴族は一握りの人だけだから、そう思わなかっただけだろう。
ふと、気になっていた事を思い出したのでレイネに問う。
「そう言えば、記憶を失う前の僕はどんな人だったの?」
僕の問いが唐突だったからか、レイネは虚を突かれたように一瞬固まった。
そして、レイネの頬が朱色に染まる。
「そうね……ジンクは――…………」
「えっと……無理に話さなくても――」
「無理じゃないわ! 別に恥ずかしくて話せない訳じゃないんだからっ」
早口で答えると、そのままの調子で続ける。
「ジンクは人一倍優しくて勉強もできて凄い人なの。私に勉強を教えてくれてたし料理も得意だったわ。優秀なのになぜか抜けててそう言うところも可愛くて……とにかく優しくて努力家で格好良い人だったわ!」
ひとしきり言い切るとレイネは顔を伏せた。
「そ、そうなんだ」
記憶を失う前のジンクは、そんなに良い人だったんだ……だけど――
レイネは本当の事を言っているのだろうか?
『ジンク様! 騙されてはなりません!』
『あの少女は恐らく、ジンク様を攫おうとした集団の一人でしょう』
『何を言ってるの!! ジンクを攫おうとしたのはあなたたちの方でしょう!!』
僕を攫ったのはそちらだと、銀髪の少女は反論していた。
レイネには良くしてもらってるし、悪い人には見えない。また、あの少女も悪い人には見えない。だけど、記憶を失った僕にとって、どちらも昨日初めて会った少女だ。親睦を深めている分、レイネの方が安心できるけど、だからと言って彼女を完全に信じるべきではない――罪悪感を抱きながら、そう考えた。
「――もしかして、昨日の襲撃が気になるの?」
的を射た質問に、不意に手を止める。
「ああ……実はそうなんだ。まさか少女が部屋に入っているとは思わなかったよ。あの子、凄く強かったし」
「そうね。この結界に入り込める程の手練れが敵にいるとは思いもしなかったわ。……付与した条件に穴があったのかしら?」
「…………悪意を持たずに入った、とか?」
「敵に限ってそれはないわよ。攫おうとしている時点で悪意を持っているもの」
「――もしも、僕を丁重に扱う前提なら?」
僕の問いに、レイネは目を剥いた。
「確かに……盲点だったわ。それなら結界に入れても不思議じゃない」
彼女はそう言うと、慌てたように頭を下げる。
「ごめんなさい! 私がもっと、厳しい条件を付けられていたら、あなたを危険な目に合わせずに済んだのに」
「え……いや、レイネは悪くないよ。敵が悪意を持ってない可能性なんて、普通考えないし――」
――普通、考えない?
あの少女は悪い人には見えなかった。そして、少女が悪意を持っていない事で結界の中に入れたとすると……――彼女は何のために侵入したんだ?
「本当にごめんなさい。次はもっと守りを固めるから」
レイネも悪い人には見えないんだけど……――
あの一件から、レイネへの疑念が芽生えた。
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