侵入者
「――ジンク!!」
――少女の叫びは、まるで僕を心配するかのようだった。
どうして、そんなに悲しそうな顔をしているのだろう。
……兵士2人の反応から、恐らく彼女は侵入者。僕を狙う敵であるなら、僕の名前を知らない方が可笑しい。
それでも、今し方の様子を見る限り、彼女が悪者とは思えない。
「ジンク様! 騙されてはなりません!」
「あの少女は恐らく、ジンク様を攫おうとした集団の一人でしょう」
「何を言ってるの!! ジンクを攫おうとしたのはあなたたちの方でしょう!!」
彼女は兵士の言葉に反論した。
待って……――彼女は本当の事を言ってるのか? もし、そうなら――
「――問答無用!!」
兵士の一人が少女に切り掛かる。
「フッ――!」
対し、少女は短剣を鞘から引き抜き剣を受け止めた。
互いに攻撃を躱しながら、2合、3合と剣を交える。
戦況を見る限り、実力は拮抗しているように見えた。
「……くっ!」
しかし直後、戦況が変わった。
甲高い音が響く度、兵士は一歩、また一歩と押されていく。
剣のリーチからして、兵士が有利だと思ったが、剣技に関しては少女の方が上のようだ。
「――助太刀する!!」
仲間の劣勢に耐えかねたのか、もう一人の護衛が助けに入った。接近し、少女を斬らんと剣を振り上げるが、次の瞬間――
「ウィンド・ショット」
「――ぐぁっ!」
少女が言葉を発するとともに出てきた風(或いは空気)の塊が接近した兵士に直撃。元居た方向に返るかと思えば、左手奥の壁へと飛ばされ衝突した。
「何⁉ お前、魔法も――がっ!」
消えるかと思われた魔法が軌道を変え、もう一人の兵士を襲った。そのまま兵士は吹き飛ばされると、1人目と同じく壁に衝突する。
今し方の状況とは打って変わり、部屋に静寂が訪れた。
倒れた2人の兵士に動く様子はない。
「…………っ」
僕は突如始まった戦闘を呆然と眺めていた。……眺める事しかできなかった。
彼女の言っている事に耳を傾け、レイネを疑ってしまった。
戦闘を止めようと思ったけど、躊躇ってしまった。
「――ジンク! 大丈夫? 怪我はない?」
「止まって!」
僕はそう言い放ち後ずさりした。
「君の事が信じられない。……どうしてこんな事をしているんだ」
「どうしてって……あなたを助けるためよ。……どうして信じられないの?」
僕を見て違和感を感じたのか、彼女は言葉、表情に不安を滲ませた。
「僕は、君の事を覚えていない」
「…………!」
それを聞いた彼女は目を見開いた。
「――そんな……! ――じゃあ……私との約束も、学校での日々も、全部、何も覚えてないって言うの……?」
「……申し訳ないけど、何も覚えてないよ」
尻すぼみに声を震わせながら問うた彼女に、僕は率直に答えた。
悪者とは思えないけど、まだ確証はない。
少女は涙を滲ませた。
「どうしてっ、こんなことに……!」
悲しさ、悔しさが、言葉から感じられる。
パァァーーン!!!!
外からだろうか、突然甲高い音が響くと彼女は腕で目元を拭い、僕の方へ歩み寄る。
「申し訳ないけど、時間がないの。私と一緒にここを出ましょう」
「…………君が何者なのか分からない以上、それはできない。それに……ここの人たちは僕を攫うような人じゃない……と思う」
急ぐように、しかし神妙な面持ちで迫る彼女に、僕は距離を取りながら返した。
そんな僕を見た彼女は近づくのをやめ、悲し気な表情を見せる。
「……っどうすれば……」
少女は焦り、悲しみを乗せて呟いた。
再び沈黙が訪れる。――戦闘のものと思われる音が微かに聴こえてくる。
本来なら逃げるべきだろうけど、少女の今までの言動、様子が、今まで僕をこの部屋に留まらせていた。……――いいや、それもあるけど……なぜか彼女を信じたくなってしまう……ような気がする。
沈黙が部屋を支配してから10数秒――考えがまとまったのか彼女は口を開く。
「これをあなたに渡しておくわ。あなたと私の魔力が貯まってるの」
「これは……」
少女が言って床に置いたのは、掌程の魔石だった。
彼女は後方へ下がり、魔石から距離を取る。
僕は数メートル先の魔石に鑑定の魔法をかけた。……罠ではなさそうだ。
「魔法は使えるのね。……良かった」
少し安堵するように、彼女は言った。
確認は済んだので、僕は魔石に近づき手に取る。詳細を見るため再鑑定。
これは――
――バタン!!
「ジンク!!」
振り向くと、数人の兵士を連れたレイネが息を切らして部屋に入っていた。
僕は咄嗟に魔石をポケットに突っ込む。
視線を少女のいた方へ戻すと、彼女はいなかった。
「クロード、ノルア……!」
レイネは目を剥き驚いていた。
庭での会話から察するに、僕を護衛していた2人は恐らくアルグラント家の精鋭――レイネが驚くのも当然だ。
「今すぐ2人に回復魔法をかけて。後の者は警戒を怠らずに」
「はっ!!」
魔法使いと思しき兵に指示を出すと、レイネは焦るように近づいてきた。
「大丈夫!? 何かされてない!?」
「……うん。大丈夫」
――僕はレイネに、魔石の事を告げなかった。
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