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告白

 ナタリアとセドリックが舞踏会の会場である大広間に入るとちょうどカイルが壇上で挨拶を始めたところだった。


「今宵、この場に集いし諸侯、貴族、そして賓客の皆に感謝する。そなたらの存在こそが帝国の礎であり、我が治世を支える力だ。今夜の宴が、各々の心に良き余韻として残ることを願う。これをもって舞踏会の幕を閉じよう。どうか最後まで、よき夜を」


 出席者が一斉に彼に向かって礼をする。その間を抜けるようにカイルは足早にナタリアに向かって歩いてきた。


「ナタリア、無事か?」


 硬い表情でそう言うとカイルはナタリアの手を引いてずんずん歩きだした。


「へ、へいか……⁉ どうされました?」


 ナタリアが問いかけても彼は黙って歩き続ける。


「ちょ、ちょっと待って! 足がもつれて……」


 カイルの歩く速度がゆっくりになった。ようやく落ち着いて話ができる、と隣に並ぶカイルの横顔を眺める。


「あの、陛下、お加減が悪いとか……何かございましたか?」


 しかし、カイルは答えない。黙って自分の執務室に入るとカイルはナタリアと向き合った。


「君が姿を消したとセドリックから聞いて、心配でどうにかなりそうだった」


 皇帝カイルは珍しく熱のこもった目でナタリアを見つめる。視線が甘い、と思うのは気のせいだろうか?


「大丈夫ですよ。わたくし、割と逞しいので」

「いや、そういう意味じゃなくて!」


 カイルは前のめりになる。


「わざわざ危険に突っ込んでいくのはやめてくれ。もう少しで腐蝕の液体を顔に浴びるところだったと聞いたぞ? あのドレスの効果がなかったら……想像するだけで胃が痛い」

「そんな大げさな」

「大げさじゃない。正直、お蚕さまの神棚を作って毎朝拝みたいくらいだ。無事で本当に良かった……」

「信仰の方向がおかしいですわ」

「笑いごとじゃないんだぞ」


 ナタリアはくすっと笑ったが、カイルの表情はいたって真剣だ。


「そんなに心配なさらなくても」

「心配するに決まってるだろう」

「どうして?」


 首を傾げるとカイルは一瞬言葉に詰まった。視線が泳ぎ、咳払いをひとつする。


「それは……」


 間が空く。


「……君が好きだからだ」


 言い切った直後、本人が一番驚いたように目を見開いた。


「は?」


 ナタリアは瞬きを二回。


「……今、なんと?」

「聞き返さなくていい! ただ、君を守りたい、そして誰にも渡したくないと……そう思ったから……」


 顔を赤くしてぶつぶつ呟く皇帝にナタリアは思わず吹き出した。


「ふふ。陛下って意外と分かりやすいですのね」

「笑うな。その……世話係として感謝している、ということもあってだな」

「ちゃんと伝わりましたわ。ありがとうございます」


 そう言って柔らかく微笑むとカイルは照れ隠しのように視線を逸らした。


「……次からは、もう少し自分の身も大切にしてくれ」

「善処いたします、陛下」


 軽口を交わしながらも二人の距離はいつの間にか縮まっていた。


      ◇◇◇


 その後、物事は雪崩のように進んだ。アルバン公国は文字どおりひっくり返ったのである。


 まず、アルバン公、アダム、ハインリヒ伯爵夫妻、そして娘のローザ。彼らは国家転覆罪および皇帝暗殺未遂という重罪により、そろって終身刑となった。


 アルバン公夫人は希望して公宮を去り、遠隔地の離宮へと移り住んだ。彼女はアルバン公の名を口にすることすら忌み嫌い「あの汚らわしい獣」と呼ぶようになったという。


 アルバンという名が後継から消えた以上、仕方のないことだがアルバン公国は国名そのものを改める予定だと発表された。


 そして、極めつけに衝撃的な事実。


 新たなアルバン公国の公主はキール帝国皇帝カイルその人になるという。


「それはアルバン公国がキール帝国の一部となるから、ですか?」

「いや、アルバン公国は言葉も文化も違う。あくまで属国としての扱いは変わらない」

「ではキール帝国の皇帝とアルバン公国の公主は同じ人には……」

「ならない。俺がアルバンを治め、別の人間がキール帝国の皇帝になる」

「……どうして?」


 ナタリアはあまりのことにしばらく口を開けたまま固まっていた。


「君はアルバン公国を離れられないだろう?」


 カイルはさも当然という顔で言う。


「パトラ村がある。君が村を守るなら、俺はここに留まらざるを得ないじゃないか?」

「それは……そうですけど」

「だから、俺が君と離れたくないと思ったら、こうするしかないだろう?」

「……それにしたって大胆すぎますわ! それでいいんですか?」


 思わず突っ込むと、カイルは肩をすくめた。


「俺がそうしたいんだ。皇帝だからな。権限は最大限使う主義だ」


(開き直った……)


 呆れ半分で見つめながらも、ナタリアの胸は不思議と高鳴っていた。


 距離は少しずつ、だけれど確実に縮まっている。


「……まあ、悪くはありませんわね」

「今、なんて?」

「いいえ。なんでもありません」


 そう言って視線を逸らすと、カイルは満足そうに微笑んだ。


 しかし、気になることが一つある。


「陛下がアルバン公国の……まぁ名前は変わるにせよ公主になるのでしたらキール帝国はどうなるのですか?」

「ああ、それは問題ない。元々あいつが皇帝になるべきだったんだ」

「もしかして……セドリック様?」


 カイルの目が真ん丸に見開かれた。


「ナタリア……気づいていたのか?」


 彼女は控えめに頷いた。

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