第7号 朝日とのはじまり7
ステップ13 先生と練習試合
真司くん入団試合ー
朝日の練習試合には、必ず中学生が混じっている。
同年代、同世代、小学生という枠だけで収まってほしくないからだ。
大きな目標も悪くない。
プロ野球選手になる。
メジャーリーグで活躍したい。
あの選手みたくなりたい。
決して悪いことではない。
ただ、過程を大事にしてほしい、もっと考えてほしい‥そう朝日は思っている。
今の自分の立ち位置を知ってほしいわけである。
それが全てでも、限界でもないということを‥。
野球だけではなく、色々感じ成長してほしいわけだ。
九条、一ノ瀬、弥生の3人は、朝日の教え子たちだ。
練習試合があれば、すぐ駆けつける。
九条光は、ピッチャーとして活躍しているが、4番を打つほど打撃力もある。
一ノ瀬航は、内野手として活躍している。
弥生琴乃は、外野手としてプレイ。
3人は、練習試合だからと手加減などしない。
それは、朝日の教えであり、自分自信または、間多理団のためでもある。
そして、将来のためでもある。
3人は、朝日と会った時は今ほどの選手ではなかった。
間多理団に入ると、まず、朝日との面談、そして練習をする。
そのあと入団試合がある訳だが、細かいところは、入る人によって違うものの、大まかな流れは同じだ。
朝日によって、必ずしもすぐ変革し成果を表すわけではない。
それでも、朝日のサポートは、選手たちにとっては頼りがいがあり、道標となる。
どの道を行くにしても、身近な目標や手本は必要になる。
その一つが、中学生が一緒にプレイする‥なのだ。
力の差を目の当たりにして、意気消沈するかもしれない。
だとしても、必要なことだと、朝日は考えている。
九条、一ノ瀬、弥生の3人も、それを乗り越え今があるわけだが‥。
それでも、一番は楽しんでほしい‥それが切なる願いである。
真司くん入団試合前ー
「先生、お久しぶりです」九条が挨拶する。
「お久しぶりね光くん。どう?」
「楽しくやってます!」
「その顔なら大丈夫そうね!今日も悪いわね」
「いえ、僕らもコレで成長しましたから!」ニコリと笑う九条。
「あ、光に先越されたか‥お久しぶりです!先生!」そういい現れたのは一ノ瀬航である。
「お久しぶり!航くん。航くんも大丈夫そうね!」
「ええ、楽しくて仕方がないくらいです!」と、笑い出す一ノ瀬。
ちなみに、九条の方が一ノ瀬より身長は高い。
「お久しぶりです先生!また2人が迷惑かけてます?」と、現れたのは弥生琴乃だ。
「お久しぶりね!ことの!毎度の事だから気にしてないわ!‥それよりことの‥可愛くなったんじゃない?」
朝日の言葉に、2人が改めて弥生をみる。
何度か練習試合で会ってはいるものの、会う度に綺麗になっていく弥生。
2人は頬がほんのり紅くなる。
モジモジする2人。
そんな2人をみて、朝日は野球以外はダメね‥と心の内で思っていた。
九条と一ノ瀬は、自分たちの部活が忙しくても、朝日のお願いは聞く。
弥生は、あの2人は先生のことが好きなんだと確信していた。
真司くん入団試合ー
九条に打席が周る。
葵がホームランを打って、相手の投手が交代する。
(高杉くん相変わらずか‥)
次のピッチャーがマウンドに向かう。
「弥生か⁉︎」
ライトから弥生が小走りでマウンドに来る。
その姿をみて朝日は思った。
「ことの、あなたはすごいわ」
ストライク!
ストライク!!
ストライク!!!
バッター空振り三振!
あの九条が、三球三振で終わった。
「おいおい、弥生ちゃん、やりすぎでは‥」一ノ瀬がそういうのも無理もない。
葵のホームランの後、九条も続くホームランがシナリオだったはず。
しかし、弥生の壁が立ち開かる。
「七花さん、あのストレート‥」千香子も驚きを隠せない。
「ええ、諦めてなかったみたいね‥」
朝日は、弥生にまず、体を作ってから‥と教えた。
当時の弥生は、その体からは想像もできないほどの球を投げていた。
誰もが投手でエースになるだろうと思っていた。
しかし、朝日だけは違った。
「弥生さんの体が壊れちゃう‥」
朝日は、そんな選手たちをたくさん見てきた。
活躍し、次のステップに行き、怪我をして引退。
なぜ、注意しない、教えないのだろうか?と。
よく、今が、今じゃなければダメなんです‥と言って、体に無理をさせ、選手たちの将来を潰すことになるのに‥。
朝日は、そういう観点からも、高校野球は好きではない。
1人のピッチャーが連投し、勝ち上がる図式に嫌気が差す。
そんな朝日だが、団では、選手に無理はさせないし、させたくない。
弥生は、朝日の指導に従い外野手になり、フォームから体作りまで指示に従った。
同じピッチャーの九条に「弥生さん、投手やめるの?」と聞かれ「うん!そうだよ!」と、明るくこたえる。
弥生も、朝日が大好きで全幅の信頼を寄せている。
弥生と九条の対決をみて、間多理団の選手たちは、フリーズしていた。
弥生の球のスピード。
九条のバットスイング。
選手たちには衝撃的だったろうし、心踊ったことだろう。
あの日、弥生は先生に体を作ってからと言われて今日まで、一度も朝日を恨んだりしたことはない。
マウンドに立つ弥生。
朝日の方をチラッとみる。
「先生には、わたしたちと違う世界がみえてるから‥」