第29号 新崎
ステップ36 試合に勝っても‥
3回を終わってスコアは0-6
間多理団が場を支配していた。
夏による得点の後、葵、ニノとヒットで出塁したが、モッチーの当たりが良すぎてライナーをキャッチされ、まさかのトリプルプレーでアウトに。
そして、4回表が来る。
間多理団のピッチャーは、高杉。
真司くんの好投を目の当たりにして、気持ちも昂る。
高杉は、真司くんと違い球は軽い。
キレで勝負するタイプだ。
そして、彼も変わった。
打たせてとる‥になっていた。
丘のの強力打線に通じるかはわからない。
高杉は淡々と投げる。
1番打者には際どい所をつくもフォアボール。
2番打者には、送りバントを許すもワンアウト。
3番打者には、ライトフライ。
ランナー動けず2塁のまま。
そして4番を迎える。
新崎だ。
ファールになって新崎は笑みを浮かべた。
(球は軽いが、コースもいい、キレもある‥面白い!)
高杉もアレから成長したということだろう。
三振三振にこだわっていた子が、打たせてとることに今楽しみを感じているからだ。
インハイの球が新崎を襲う。
バスンッ!!
新崎が空振りした。
(ん?伸びた?)
カウントはツーストライク。
3球目は‥
インロー。
徹底したインコース攻めだ。
その球を捉える新崎。
ファール!
(タイミングが早かったかな)
新崎はヘルメットを直す。
キャッチャー千香子は、インコースに構える。
新崎もそれに備える。
高杉の球は、新崎の予想とは違いアウトハイに向かう。
(なに⁈)新崎は驚きながらもバットを振る。
会心の当たりではないが、一、二塁間を抜ける。
ランナー1、3塁となった。
一塁上で新崎は思っていた。
(あのピッチャーも面白いな‥)
そして、キャッチャーをみる。
(凄いな‥インコースにギリギリまで構えてたのに‥アウトローを‥)
新崎はヘルメットの下で嬉しくて笑っていた。
高杉も、4.5.6.回を無事投げ終わる。
許したヒットは新崎のみ。
無失点に抑えた。
「高杉くんも変わったわね」
まどかが呟く。
ちなみに、間多理団の4.5.6.7回の攻撃時は、なんと、あの新崎が投げたのだ。
最近はピッチャーよりバッターに専念していたらしい。
スタンドの偉そうな人たちがざわつく。
まどかからみれば、投げて打つなんて当たり前にみえる。
(大人が勝手に型にはめるからだよ)
スタンドをみるまどかの視線は冷たい。
新崎の球は速く、当てるだけでも苦労した。
それでもヒットは出るものの、打線が続くことはなかった。
(あの子たちには、いい練習になったかな‥)
結果は、間多理団の6-0で勝ち。
あの丘のの強力打線に完封は見事だった。
ちなみに、間多理団の7回のピッチャーは、ひまりだった。
ひまりは三者三振に抑えてゲームを終了した。
それぞれの思いが交差するグラウンド。
スタンドの偉そうな大人たちは、丘のが負けたことより、新崎ばかりに注意が行く。
試合の勝ち負けより新崎。
偉そうな大人たちには、将来大金を運んでくるピースにしか見えてないのだろう。
うちのチームに入れば
いやうちのチームだ
いやいや、うちだ
新崎も中学生で酷な環境にいる。
若干哀れな思いで見ていたまどか。
七花がよく言っていたことを思い出す。
うちにはスター選手はいらない‥
あれは、こういうことも含まれているのかも‥と、まどかは思った。
そんなまどかの所に新崎がくる。
「門倉監督代行、試合ありがとうございました!」
帽子をとり、頭を下げてそう言った。
「こちらこそ、ありがとございました」そういい頭を下げるまどか。
新崎も少し驚いていた。
「わざわざ来るということは何かあるのかな?」
まどかも七花に似てきたのだろうか。
「さすが、門倉監督代行です!」
「ちょっとごめんね、その監督代行はやめてもらえるかな?」
「は、はい‥失礼しました!」
また頭を下げる新崎。
スタンドにいた偉そうな大人たちが驚いている。
まどかは視線を感じていた。
(まずいわね‥)
「と、とにかく監督代行はやめてほしいのと、頭を上げてね!」
「はい!」
丘のの選手たちが新崎をみつめる。
「新崎は上手くなりたいが強すぎだよな」
みんな頷いている。
「でも、かなり気になるんだろうね」
「まあ、朝日さんのチームだからね」
「凄いんだな」
「監督もいってたしな」
「そうなの?」
「なんかさ、不思議な空間とか言ってたかな‥」
「不思議な空間?」
「新崎もじゃん!」
みんなの声が揃って、その後大笑いした。
「ボクは、朝日さんのことはとても尊敬してますし、憧れてもいるんです」
新崎がそういうと、まどかは頷く。
(そりゃあ、そうでしょ!)
「そして、選手としては、門倉さんが目標なんです!」
(うんうん、いい子だね‥)「え?」
「わたしが目標?」
「はい!選手門倉はマジ凄かったです!プロ野球に行って欲しかったです!」
「もしかして、新崎くんスイッチヒッターなんじゃない?」
「さすが門倉さんです!元々左だったんですが、門倉さんに憧れて右打ち練習しました!」
「なんてイケメンなんだこの子は‥」
まどかは眩しくて新崎を見ることができなかった。
「もっと凄い選手はたくさんいるよ?」
首を振る新崎。
「あの小さな体でとでもパワフルな所がいいんです!‥あ、すみません!小さなって‥」
まどかが手を振る。
「大丈夫よ、事実だし。まあ、わたしの憧れた人がもっと凄いからね!わたしなんか霞んじゃうよ?」
笑うまどか。
「朝日さんですよね?」
「そうね、知ってるの?」
「はい!ボク、朝日さんに入団断られたので!」
(断った選手がいるとは聞いてたけど‥まさか新崎くんが?)
「なぜ断られたの?」
「あの時はピッチャーもバッターもやっていたんですが、朝日さんに、わたしは必要ないと思うと言われました」
(七花さん‥あなたって人は‥)
「わたしは必要ない‥か‥」
「はい。なので朝日さんにどういう意味か聞いてみたんです」
「七花さんは何で言ってたの?」
「朝日さんは、心臓あたりを叩いてました」
「それだけ?」
「はい、それだけです」
「なるほどね‥そういうことか‥」
まどかはひとり納得する。
「か、門倉さん、わかるんですか?」
「あー、そうだね‥まあ、わたしも、なんだ、君と同じようなものだったからね」そういい、髪の毛をいじくるまどか。
「ボクと?」
「まあ、なんていうか、野球に対する思いは七花さんもわかっていたし、感じてたはず。でもね、新崎くん。その時の君は、本当に野球を心から楽しんでなかったんだと思うよ」
それを聞いてビックリする新崎。
「楽しんでない‥」新崎は思い返していた。
「七花さんはね、野球に限らずどんなスポーツも、あー、スポーツに限らずかな‥楽しむことを大切にしているんだよ」
「‥そうか‥だから‥」
「新崎くん、今の君なら、七花さんもオッケーだしたかもね!」
「ホントですか?」と顔を上げ喜びを表す新崎。
「まあ、でもいらないって言われそうだけど‥」そう言って笑うまどか。
「か、門倉さん!」
2人の笑い声が混じり合う。
まどかは思い出していた。
「ある程度完成されている選手に対してどう接する?」と七花に聞かれたことがある。
「そうですね‥怪我しないようにとか‥」まどかは悩んだ。
「そうだね、それも大事だね!でも、一番大事なのは間違った導き手にならないことなんだよ」
「間違った導き手?」
グラウンドのベンチで話す2人に秋風が熱った身体に心地よく感じる。
「そう、わたしが例えば名将でも、元メジャーのスパースターでも、もう現役ではないでしょ?教え子たちの方が、体的にも技術的にも、精神的にも、エネルギッシュで、パワフルで、アクティブですごいんだよ」
「確かにそうですね‥でも、導き手とどう関係があるんですか?」
それを聞いてニコリとしたが、目が笑ってない七花をみて、まどかは笑いを抑える。
「導き手側が自分の経験から色々言ったり、やらせたりして、結果、その子自身の未来を潰し塗り替えちゃうんだよ」
「えっと、自分の型に押し込むってやつですか?」
「そうだね、自分の体験や成功が間違う訳がないと思うんだよね」
「確かに成功してますもんね‥」
「そこなんだよね」妙に納得しているまどかにツッコむ七花。
「自分はそうでも、他人にそれが当てはまるかなんてわらないんだよ」
七花は下をみて、つま先で地面を弄っている。
「だから、指導者も大変なんだよ」
そういいまどかをみる七花。
「な、七花さんなら大丈夫です!」
まどかはドキドキしている。
「わたしも間違うことあるよ?」
首を傾げる七花が妙に可愛いとまどかは思った。
「だとしても、七花さんなら大丈夫です!」
「ふふ、ありがと!みんな考えてやってはいると思うんだよ。でも、どれだけ心に、体に寄り添っているかなんだよね」
そう言って七花は立ち上がる。
「行こっか!」
「はいっ!」
まどかは、この時の七花の顔を忘れられなかった。
解放されたような、解放されてないような‥どちらとも言えない顔だった。




