第25号 好きだからこそ‥
ステップ32 好きだからこそ‥
間多理団
対
丘のの練習試合が秋空の下はじまった。
少年少女野球丘のとは、昔対戦している。
丘のの監督は、七花と知り合いらしく、今回、七花がいなくても、心より試合を引き受けてくれた。
そんなチャンスをまどかはどう活かすのか‥。
先発マウンドは、真司くんだ。
瑠璃子は、ベンチから観戦していた。
あの真司が、今や先発投手として‥
瑠璃子は、感動はしているものの泣くことはなく、しっかりと、グラウンドを、真司をみている。
ピッチャー 佐々木真司
「ボク、ここに来て本当によかった」
そういい空を見つめる真司。
「まさか、あの時はピッチャーやるとは思わなかったな」
そういいマウンドを確かめながら、キャッチャーに球を投げ込む。
もう5年生、3年の時とは違い、球速も上がっている。
もちろん、重い球も健在だ。
これは、練習の賜物。
そして、それを見抜き活かした七花の力といえる。
「丘のの打線に挑めるのは本当に助かる」真司は投げながらブツブツいっていた。
その強力打線を真司くんは、1回から見事に封じる。
丘のの1.2.3番を打たせてアウトにしたのだ。
球数はわずか4球。
さすがの丘のの監督も、よくみて振るよう指示していたが、それは無理な注文だ。
なぜなら、真司くんの球は打ちやすく見えるからだ。
2回の表の丘のの攻撃は、4番の新崎から。
この新崎くんは、かなり有名だ。
偉そうな大人がちらほら周りにみえるのでわかる。
右打席に一礼してから入る新崎。
そんな新崎に対しても動じない真司くん。
光と闇の対決ともいえるだろう。
真司くんは、コースギリギリを攻めていく。
カウントはフルカウント。
そして、真司くんがラストとして投げた球はインハイの球。
新崎もその球に反応してスイングを開始する。
コンパクトに腕をたたみ、インパクトに備える。
捉えた❕新崎は行けると確信する。
と、同時に両手に衝撃がくる。
負けじと振り抜く新崎。
三塁を越えファールになる。
(思ったより重いな‥みんなやられるわけだ‥)
グリップを握り直しながら感覚を戻す。
まどかはワクワクしていた。
あの場面でインハイを攻めるなんて‥と。
(やられたらやり返すかな?‥)
でも、ファールとはいえ打たれた。
どうするのか?
真司くんがサインに頷く。
それは、アイトサイドローに向かう超スローボール。
流石の新崎も、タイミングを外され泳がされる。
セカンドゴロ。
ベンチに戻った新崎は、監督に言われた。
「ボールではなかったのか?」
新崎は嬉しそうに答える。
「めちゃめちゃギリギリのストライクでした!」
真司くんは、続く5.6番を5球で凌いだ。
2回の投球数は12球。
あの強力打線を完封している。
3回の表の真司くんの投球。
「本当に野球楽しいや」
またマウンドで喜びを噛み締めている真司。
そんな真司くんを見守るまどか。
丘のの下位打線も、真司の投球には手も足も出なかった。
いや、打てたけど、ちゃんと打たせてもらえなかった‥が正しいだろうか。
全員、打たされアウトになっていた。
丘のの監督は思っていた。
「いったい、朝日さんはどんなマジックを使ったんだ」
(打者を一球でアウトにし、27回投げればいい)
まどかは、七花の言った言葉思い出し、身震いした。
1番 センター 布袋葵
葵ももう中2だ。
スラリとした高身長は健在だ。
七花のお陰で、身長に対しても野球に対しても前向きになった。
1回の裏
一礼し、右打席にはいる。
葵なら、先制できる力がある。
みんなの思いも同じだ。
丘のは、投手力は強くない。
打線ありきの、打って打って打ちまくるチームだ。
「真司くんががんばったんだ」
そういい自分にいい聞かせているような葵。
打席に入ってからの、左手で一回バットを回しピッチャーに向け止め、左肩、左腕の肘辺りを右手で触り、両手でグリップを握る、いつものルーティンを終えて構える葵。
丘ののピッチャーが投球動作を開始。
タイミングを合わせる葵。
放たれたボールに、ピクリとも反応しない葵。
「ボール!」
2球目も同じくボール。
ここまで葵に動きはない。
3球目‥
ツーボールの後だ。
ストライクが欲しい丘のバッテリー。
外角低めにストレートが来るが、これにも葵は反応しない。
そして4球目、ついに葵が動く。
インハイに来る球。
しかも、ボールよりの球だろう。
それは、葵もわかっていた。
それでも、葵は止まらない、
「葵ちゃん、あなた‥」まどかはベンチから立ち上がる。
それは、綺麗なスイングだった。
インハイの球を引っ張るのではなく、流す。
丘のの守備シフトが左よりになっていたのが仇となる。
ライトのファールライン前でワンバウンドし、そのままラインを越え転がる。
葵は三塁でストップ。
ベンチに向かい手を振る葵。
葵の七花により仕上げられた、攻めのバッティング。
野球が好きではなかった子が、今は楽しんでいる‥こんなにも‥。
まどかはしみじみと観ていた。
葵は、3球目を狙えばホームランだったかもしれない。
しかし、みんなと野球をやっている。
情報は多い方がいい。
葵がベンチに戻ってきた時に、みなが祝福と同時に色々聞いていたし、葵も自ら話していた。
それが、全てを物語っている。
2番 セカンド 二宮誠一郎
葵の三塁出塁を活かしたのは、ニノだ。
バント職人だが、ヒットメーカーでもある。
では、三塁の葵をどうホームに帰したか?
ニノが打席に向かうと丘のの選手たちがざわつく。
女の子?
また女の子だ
女の子ばかり?
いや、ニノは男の子だ。
でも、確かに見た目は女の子みたいだ。
中1になって、髪を切ったが、よりらしさが増したようにもみえる。
一礼し、左打席に入る。
ニノは、この時、葵の打席を思い出していた。
そんなニノのバッターボックス姿は、全く力が入ってない、リラックスした立ち姿だった。
丘ののキャッチャーも、女の子じゃん‥と、マスク越しに思い見ていた。
今回の練習試合は、小学生と中学生の混合試合だ。
ここでは、ただ葵を帰すだけでいい。
丘のの投手が投げる。
迎え撃つニノ。
初球の外角高めだ。
バント、スクイズを警戒しての配球だろう。
普通に構えているニノに対しての、あまりにも慎重すぎる投球ともいえる。
側から見ても、バントの気配すら感じない。
とりあえず様子見の丘のバッテリー。
その戦術に誤算が生まれる。
ニノはその球に対して始動しはじめる。
丘のバッテリーは思った。
普通にヒッティングか!と。
ボールに向かって、軌跡を描くニノのバット。
外角高めだが、ニノは捉えている。
ジャストミートする!
その瞬間‥
ニノのバットは止まった。
ニノの打球は三遊間の頭上を越え、グラウンドに落ちる。
丘のバッテリーは、唖然としていた。
間多理団のみんなは、その瞬間、千香子をみる。
そして、ニヤリとする。
一塁上では、ニノが千香子に向かって指を差してから、小さくガッツポーズをする。
そうである。
ニノは、千香子の技を、戦術を真似したのである。
まどかは、また立ち上がっていた。
(二宮くん、打つまでプランは自分なりにしたのね)
「まったく、この子たちったら‥わたしいらないじゃない」
嬉しそうに笑うまどかが、そこにはいた。




