第22号 姉と兄
ステップ29 受けるより与えたい
間多理団の練習場に、朝日七花はいない。
彼女の存在がどれほど大きいか、居なくなると皆痛感し過ぎて、モチベーションが下がる。
しかし、だからといって、いい加減にやる訳にはいかない。
それは、朝日に失礼になるからだ。
「七花さんだって、遊んでいるわけではないもんね!」
瑠璃子はそういって、今日も、団の練習をサポートしている。
まどかをはじめ、チームスタッフはわかっている。
与えることの喜びを。
それは、朝日七花が身をもって教えてくれた。
瑠璃子はグラウンドをみて思う。
「ちゃんと、七花さんのスタイルが生きているのね」
そんなグラウンドに見慣れない女の人がいるのが目に留まった。
「綺麗な人‥」
そう瑠璃子が言うのも無理もない。
艶やかな長い黒髪が風に遊ばれ踊る。
爽やかな日差しに照らされる絹のような艶の肌。
まるで無駄なものはない、精錬されたスタイルが地面から空へと綺麗なラインを描き佇む。
そして、そのスタイルからは想像できない愛くるしい顔立ち。
「あれ?んー?」
瑠璃子はなにかを感じだ。
「なんだろー?‥」
瑠璃子は考えている。
考えてはいるが、体は何かを感じているようだ。
「会ったことある?‥んー」
ということで、瑠璃子は声をかけてみることにした。
テケテケとその綺麗な人のところに向かう。
「こんにちはー!どうかされましたかー?」
瑠璃子らしい声の掛け方だ。
「こんにちは‥えっと‥ん?」
黒髪ロングの綺麗な人は瑠璃子をじーっとみている。
「お団子結び‥リスのエプロン‥」
そう言われて、反射的に順番に触る瑠璃子。
「わ、わたし何か変ですか?」
それを見て笑う黒髪ロングの綺麗な人。
「ごめんなさい、あまりにもその通りだったから‥」
黒髪ロングの綺麗な人は、まだ少し笑っているようだ。
「あの、その通りって何ですか?」
瑠璃子は聞いてみた。
また、笑い出す黒髪ロングの綺麗な人。
「本当にごめんなさい、佐々木瑠璃子さん?」そう言って黒髪ロングの綺麗な人は首を傾げる。
「え⁈なんでわたしの名前知ってるんですか?」
「ホントのホント、ごめんなさい瑠璃子さん!わたし、朝日四華といいます!」
「え⁈」
「ふふっ、そうです!朝日七花は、わたしの妹なんです」
瑠璃子は、今までの違和感を全て理解した。
「七花から、瑠璃子さんのことは色々聞いていたので、すごい興味あったんです」
「色々ですか?‥恥ずかしいですね」
照れる瑠璃子。
「よかった、イメージ通りというか、イメージ以上な人で‥」
そういい髪をかき上げる仕草がとてもセクシーだが、自然で嫌味がない。
「あ、あのー、それでここにはどんな用事で来られたんですか?」
そうだった、と言わんばかりの顔で瑠璃子の方を向く四華。
「七花に頼まれていたことがあってね!それで来たのよ」
四華は楽しそうに話している。
「七花さんが?なんだろー‥」
右手人差し指を下唇に当てて何やら周りをみている四華。
(お、お姉さんもかわいいー!朝日姉妹恐るべし!)と、心の中で騒いでいた。
「あ、やっぱりいるのね」
四華は何やら見つけたようだ。
「何か、どこかにいるんですか?」
そう言われて四華は瑠璃子にウィンクした。
男ならやられているだろう。
「瑠璃子さん、ちょっと待っててね!」
そう言って歩きだした四華。
四華の姿を追いながら瑠璃子は思った。
「いい香り‥」
四華の残り香が辺りに漂っていた。
瑠璃子はその中で満足そうに佇んでいる。
その頃、四華は目的の場所まで到着していた。
そこには、座ってグラウンドを見ているひとりの男がいた。
「まったく、五来は何やってるのよ」と、五来の横に仁王立ちになる。
「よつ姉こそ、ここで何やってるんだい?」動じない五来。
「七花に頼まれたのよ!」
「‥あー、なるほど‥そういうことか‥」
四華は思った。
(本当に五来はマイペースよね。わたしたちの中で一番捉え所がないし‥)
「よつ姉、こわいよ。眉間‥」
「あ、うそ!またでてた?嫌だなぁー」といいつつ眉間を右手人差し指と中指の2本で伸ばしている。
「よつ姉、そんなにキレイなんだから、気をつけなよ」
そういいつつグラウンドを見つめる五来。
「まったく、綺麗は嬉しいけど、相変わらずね」
それを聞いて軽く笑う五来。
「七花も大変だよな‥」そういい遠くを見つめている五来。
五来の方を見て、少し間を置いてから話し出す四華。
「そう?七花は七花で楽しんでいるじゃないかな?」
「楽しんでいるか‥」
「‥七花はさ、人に与えることの喜びと大切さを理解してるからね!」
四華は五来を見るが、相変わらず遠くを見つめている。
そんな五来を見ている四華。
「‥気になる?」
四華の問いに少し間をあける五来。
そして、息を吐くようにそっと話し出す。
「‥すごいよな、このチーム。七花がアメリカ行ったのに、あんなに真剣に練習に取り込んでいる」
それをみて、ちょっと吹いてしまう四華。
「五来‥今更そんなこというの?七花のチームよ?わかってるわよね?」
「わかっているよ。それでもそう思うんだ‥」
「あー、なるほどね、七花がいないから寂しいんだ」
「よつ姉!」
五来にはめずらしく、少し慌てた様子をみせる。
「あんたは、ホント七花が好きよね」
「妹はかわいいもんだよ」
間髪入れず五来が話す。
じーっとみる四華。
「お姉ちゃんたちは可愛くないのかな?」
その問いに無言で目だけ四華に向けて応える五来。
「ん?」四華はさらに訴えるように五来をみる。
「まったく、姉さんたちは、かわいいではなく、綺麗だ!の方だよ」
ニコリとする四華。
「あら?ありがとう!でも、わたしもかわいいよ?」
「‥いや、弟に自慢するものでないでしょう?」
「いいの、いいの!女は言われて綺麗になるものなのよ?」
それを聞いて頭を抱える五来。
「それより五来」
「なんだい、よつ姉」
「七花からの伝言」
「うん‥」
「わたしが帰るまで、よつ姉と五来でこのチームを支えて欲しいってさ」
深く息を吸って吐く五来。
「支えるか‥」
「そう、支えて欲しいって」
「ということは‥」
「ということね」
「よつ姉、これ、会話になってるのかな?」
「五来なら平気でしょ?」
そんな顔をされたら困るとばかりの表情をする五来。
「よつ姉には敵わないや」
「瑠璃子さぁーん」
手を振りながら四華が帰ってきた。
「絵になる‥」瑠璃子はそういい手をぎこちなく振る。
「お待たせしました!」
「いえいえ、用事終わりましたか?」
「はい!終わりました!それで瑠璃子さんにお願いがあるんですけど‥」
(こんな人に頼まれたら断れないよ)
‥と、内心思いつつ「はい、わたしでよければ」と言ってしまう瑠璃子。
「まどかさん?とお話がしたいんです」
「まどかさんですか、わかりました呼んできますね!」
そういい振り向いて行こうとした瞬間、瑠璃子の右肩に四華の左手が着地する。
「瑠璃子さん、色々ごめんなさいね!ホント助かります」
「いえ、わたし、特別な事してませんし、大丈夫ですよ!」
そういいって走り去る瑠璃子を見ている四華。
「七花の言う通り、ホント、かわいい人だわ‥それに、七花に影響され過ぎね」‥そう言って笑顔な四華がそこにいた。




