第2号 朝日とのはじまり2
ステップ4 先生とモッチー
どこにでも元気な子はいる。
しかし、持田カヲルほど元気な子はいないだろう。
持田は元気すぎて、どのスポーツも、仲間たちと歯車が噛み合わなかった。
サッカーをやっていた時に、となりのグラウンドで練習していた野球に目を奪われた。
「なんて楽しそうなんだ!」
その中で、朝日の存在が一際目立っていた。
なにやってるんだ!
ちゃんとやれ!
今のはとれただろ!
‥などの声は聞こえない。
「オレの知っている野球とは違う‥」
持田はかなりの衝撃を受けた。
あの監督の元で、また野球をやってみたい‥そう思う自分がいた。
「持田カヲルです!よろしくお願いします!!!」
間多理団の練習グラウンドに、持田はいた。
持田の頬は赤く染まっている。
「よろしくね、持田くん。それでは、わたしと練習しようか」
そう言って始まった練習は、終始持田の声が響いていた。
練習をしていて朝日は思った。
(まるで張りぼてね笑‥)
元気いい自分は周りからのガード。
中身は、普通の真面目な男の子。
野球のプレイも、クセがなく普通にこなす。
(良くも悪くもって感じかな)練習しながら分析していく朝日。
「ちかちゃん!」朝日が急に呼ぶ。
千香子に気になることを聞く朝日。
「やっぱりね‥体と心のバランスが問題ね」
「そうですね、でも、持田くんは今のままでいいんじゃないでしょうか?」
それを聞いて考える朝日。
「さすがちかちゃんね!頼りになるわ」
25歳(当時)の大人が小学4年(当時)の千香子に、同じ野球に関わるものとして対等に接している。
朝日七花の器の大きさ、心の広さ謙遜さのあらわれでもある。
朝日の野球に、人に関わる全てが凝縮されているかのようにすら思えてしまう。
さて、肝心の持田くんだが、朝日はその明るさ元気を団のために‥と思った。
持田くんの入団練習試合では、彼に色々なポジションをやらせた。
そんな中、なぜか一番気合いの入っているポジションがあった。
ピッチャーとファーストだ。
しかも、この時は両方とも左投げになっていた。
朝日は、まさか?っと思った。
持田くんの世代では、そうそういないであろう‥
「七花さん、もしかして持田くんって‥」
「待ってちかちゃん!わたしも整理しているところなの‥」
2人が顔を見合わす。
「王さんのファンよね!」
「王さんのファンですよね!」
2人声が重なる。
2人とも笑う。
「さすがに一本足打法は、まだ難しいみたいね」冷静に分析する朝日。
「どちらかというと振り子になってますしね」こちらも冷静な分析をする千香子。
「でも、いいことね!自分がしっかりある‥時代に流されない‥ってことかもね」
結局、後に千香子がキャッチャーをやるまで、持田くんにお願いした朝日だが、持田は嫌な顔一つしなかった。
「捕手から、ピッチャーとファーストを中心によく見てみてね!」と朝日に言われたからだ。
その時、持田は頬が赤くなっていたのは‥言うまでもない。
真司くん入団試合の時、持田は久々にキャッチャーをやっていた。
つまり、真司くんの敵チームである。
打順は3番、左バッターボックス。
1球目はインハイを見逃す。
2球目はアウトローをファールする。
3球目をたたいたが、結果センターフライに終わる。
(真司くんのあの球をセンターまで‥さすがモッチーね)と千香子は思っていたが、持田の声にかき消される。
「マジかー!真司くんすごいなー!抜けると思ったのにさー!やられたよー!ちかこのリードが良すぎるんだよなー!」と、一塁を蹴って二塁に向かう途中だった持田は楽しそうに声を出している。
このアウトになるかも‥という球でも、そこまで走る持田は、声だけでなく行いでもチームを鼓舞するのだ。
「野球は何が起こるかわからないでしょ?」と、朝日に言われてから、持田はこの姿勢を貫いている。
持田だけではない、他の選手もそれは同じなのだ。
なにやってるんだ!(野球やってるんだよ!)
ちゃんとやれ!(だから練習してるんだよ!)
今のはとれただろ!(じゃあ、同じ歳の時にできたのか?)
と、以前心の中で戦っていた持田は、今はいない‥。
間多理団の背番号1は、いつも明るくみんなを引っ張っていく。
ステップ5 先生とニノ
いつも女の子と間違われる。
だから、野球をはじめた。
でも、窮屈だった。
二宮誠一郎
かわいいから、男の子でも、ちやほやされる。
肩につくかつかないかくらいの髪を、プレイ中は束ねる。
同性の男の子でも、一瞬、かわいい‥と思ってしまうほどだ。
だか、プレイスタイルは見た目と違う。
前のチームでは、まさにバント職人と言われるほど、送りバントがうまかった。
ランナーが出れば送りバント‥それが当たり前だったし、求められていた。
もちろん、ランナーがいなければフリーに打てるのだが、ヒットになっても犠打ほどチームは喜ばない。
そんな狭間で悩んでいた二宮。
大好きな漫画を買って帰る途中、グラウンドで練習しているチームに目がいく。
自転車をフェンス横に置き、そのまま吸い込まれるかのように、そのチームをみる。
「あのこボクみたいだ」と二宮が見ていた子は、確かに背格好が似ていた。
「あ、あの子の前にランナーでた‥」
ノーアウトなら二宮ならバントだ。
「あれ?送りバントしないのかな?」二宮は不思議そうにみていた。
バッターボックスの子は、普通の構えだ。
1球目は見逃す、ボール。
2球目は左バッターにはアウトローになる球‥
コン!!
「え?バットを途中で止めた⁈」二宮はびっくりした。
その打球は、サードの頭を越してグラウンドにポトっと落ちる。
ファーストランナーはサードを狙っている。
打った本人もセカンドに向かっていた。
二宮は胸の高鳴りを感じていた。
「バントでもフルスイングでもない‥ハーフ‥いや、止めてた!バントみたいに‥両方選んだってこと⁈」
二宮は、自分に似ている選手が監督らしき人から拍手をもらっているのをみる。
「あの監督誰なんだろ‥」
「気になりますか?少年」と声をかけられびっくりする二宮。
(少年って、ボクを女の子と間違わなかった!)
「これは失礼‥わたしはあの監督の知り合いなんですよ」そう言って笑顔をみせる。
身長もかなり高いし、かっこいいけど、それを全面に出してない立ち振る舞いがすばらしかった。
「少年は、野球を楽しんでいるかい?」
そう言われて二宮は下を向いてしまった。
頭の上に大きな手が添えられた。
(びっくりしたけど、なんか落ち着く‥)
「少年、君は犠牲になりすぎてるね、犠牲ではなく、繋ぐことを意識してご覧」
二宮は顔をあげる。
「つなぐ‥ですか?」
ニコリと笑う男性。
「答えが知りたかったら、これを持って彼女を訪ねてごらん」
そういって渡されたのは、名刺だった。
そこには、名前しか書いてなかった。
朝日五来
二宮は、その足で、朝日七花(とは知らず)のいるグラウンドに向かう。
グラウンド練習場入口に入ろうとしたら、1人の女性がいた。
朝日だ。
「あら?どうしたのかな、少年‥」
(こ、この人もボクを女の子と間違わなかった!しかも、朝日さんと同じいいかただし‥)
「あの、これ‥」
といい、五来さんにもらった名刺をみせる。
「おにい‥」
「え?」二宮は驚いた。
「あ、ごめんね!この名刺くれた人ね、わたしの兄なの!わたしは、朝日七花、この団の監督をさせてもらってます!」
「兄妹⁈」頭の中で色々整理する二宮。
色々似ている所もそうでない所も踏まえて、二宮は頭を下げた。
「ボクに、つなぐを教えてください」
ニコリと笑う朝日。
真司くん入団試合ー
ひまりがアウトになり、次は二宮ことニノの番だ。
紅白戦や練習試合でも、みな朝日と話して打席に入る。
ニノも、朝日と話している。
「先生、ボクはつなぐでいいですか?」
「ん?せいちゃんがわかっているなら、それでいいわよ!」
「いってきます!」
「はい!いってらっしゃい!」
右バッターボックスに立つニノ。
キャッチャーの千香子は警戒していた。
(イチバン怖いのよね、ニノが‥)
一回の表の真司くんの球数は9。
ひまりに1。
モッチーに3。
つまり、ニノには5球も投げている。
ニノは、先生の「打者に対して1球、9回を27球で終わるほうが三振よりすごくない?」という考え方が大好きだ。
ここで、ニノが選択した‥つなぐ‥は‥
まず、球数を増やすこと。
これは、先生が投手には球数の制限を設けているからだ。
そして、増やすだけでなく‥
ストライクゾーンの球が2球ともファールになる。
(これは、かなり重いな‥)ニノが追い詰められる。
真司くんの投げる球は外角低めに向かっている。
(さすが、ちかちゃんだ!いいリードだね)
ニノはバッティング動作に入るも、途中でやめる。
ボール!
カウント、1ボール2ストライクとなる。
以前ピッチャー有利。
真司くんが投げようとする!
二宮がバントの構えをする。
千香子もすぐ反応し、それに真司くんも合わせる。
外角高めのボール球を千香子は要求する。
‥が、二宮はそれをみてすぐバットを引き見逃す。
(本当にやり辛いなぁ‥)千香子は、二宮が味方でよかったと思った。
(ボクがまず、見極めるんだ)二宮のつなぐ‥やることは、自分を含め仲間にも見てもらうことだ。
どんな球を投げ、どんな反応をし、どう対処するか‥
それは地味な作業だが、決して無駄なものではない。
勝負に来たインハイの球をファール。
(みんなにも見てもらえたかな‥)
そして次の真司くんの球は‥
「ど真ん中⁈」
二宮のスイングが始まる‥
キャッチャーの千香子はマスク下で笑う。
(遅いよ)
二宮のスイングは、差し込まれセカンドゴロ。
ファーストベース前で天を仰ぐ二宮‥
「振り遅れた‥」
四球すべてが、ストライクゾーンギリギリの投球だった。
まさか、真ん中に来るとは思わなかったのである。
「ちかちゃんのリードに最初からハマってのか‥さすがだよ」
ヘルメットを直しながら、チラッと千香子を見る二宮。
結果、振り遅れたと真司くんの球の重さとが相まって、セカンドゴロになった。
ベンチに帰るなり、みんなから色々聞かれる。
「ちゃんと話すから、慌てないで‥」
二宮の顔は嬉しそうだ。
二宮誠一郎は‥つなぐ‥で野球を楽しんでいる。




