第18号 一刻先はわからない
ステップ26 一刻先はわからない
中学2年で、ソフトで活躍している七花をみて、門倉ほのかは悟っていた。
「やっぱりか‥」
スタンドでメモをとる手を休め、空を見つめる。
七花たちのチームをやめて、違うチームに行ったほのかのリトルリーグ時代。
結論から言うと、ほのかは七花に勝てなかった。
ほのかのデータ分析、収集はすごい。
すごいのにだ。
なぜなら、七花は絶えず進化しているからだ。
ほのかがデータ分析する、その頃のデータはもう古い‥と言う感じだ。
中学で野球をやらない(厳密には部活としてやらないであって、野球はしている)とは思わなかった。
草野球もやるとは思わなかった。
そして、まさかのソフトで注目を浴びようとは‥。
全てが、ほのかの先を行く。
七花だけが見ている先に。
ほのかからみたら、とてもとても大きな背中であり、後ろ姿だった。
いいところまで追いつめ、たどり着いても、スルリと抜けられる。
朝日七花は、そういう子だった。
七花は、中学に入ってからよく千草の所に足を運んだ。
少なからずとも、七花は千草の影響は受けていた。
「おっ!今日もザボりーちゃんが来たな!」といいながら、笑顔で迎えてくれる千草。
「働かないサラリーマンみたいな言い方やめてよ」と、七花はさらりと返す。
「まあ、確かに七花は、違うからな‥実力もあるのに、知識にまで手を出すくらいだからね」
「何か問題あるの?ソロモンだって神に何がほしいか聞かれて、力や富ではなく知識を所望したんだし‥」
「七花‥あんた、ホントに中学生かい?これじゃ、ほのかと頭デッカチ対決になるな」
「美羽さん‥それは酷いよ‥」
「すまんすまん」そういって笑い出す千草。
「なあ、七花」
「はい?」
「わたしみたいにはなるなよ!」
「え?どうして?わたしは、美羽さんを尊敬してるし、師とも思ってるよ」
頭をかく千草。
「なんか、あちこちむず痒いな。七花はすごいわ」
キョトンする七花。
「誰かさんと似てるわね」そういい笑う千草。
(この子は、自分の存在が周りに与える影響を意識してないわね‥まぁ、それがいいところなんだけど)
もし、七花が男の子に生まれていたらどうだっただろうか?
メジャーリーグで活躍してただろうか?
それはわからない。
現時点でも、未来はわからないのだ。
それでも、手繰り寄せることはできる。
何もしなければ、何もない。
まして、人は自分の事でも大変だ。
それなのに、周りを気遣い、影響を与えることができる人もいる。
そんな人に、門倉ほのかは挑んだのだ。
ほのか自身も、七花に感化されていた。
本当は七花ともっとプレイしたい。
だけど、戦ってもみたい。
結果的に勝てなかったが、ほのかのデータ分析や収集スキルは、間違いなくレベルアップした。
そして、ほのかは七花と今、向き合っている。
街の喫茶店。
心地よいジャズが流れる、まったりした空間の中、2人は身を委ねる。
ほのかは、席についてからしばらく黙っていた。
七花は、察して何もいわない。
静かに紅茶を飲む。
深呼吸するほのか。
「‥あのね、七花」
「うん」
「わたし、高校行ったら七花と野球やりたい」
「ほのか‥」
ほのかは、膝の上に置いている両手をギュッとグーにする。
「本当はそうだったの。でも、外から七花をみたくて、あの時はそう決断した」
「うん。わかってるよ。それで、わたしも成長できたし」
「七花は優しいね。ありがと。でも、ダメだったみたい」
「うん」
俯いていた顔を七花の方に向けるほのか。
「わたし、やっぱり七花の側にいたいの!」
何も知らない人が聞いたら、告白みたいに聞こえるだろう。
それくらい真剣でもあるほのか。
「ありがと、ほのか。わたしもね、ほのかによって成長できたし、ほのかとたくさん色んな景色をみたいと思ってたよ‥なんて言うのかな‥相乗効果みたいな?」
「七花‥それ、千草さんが言っていた‥」
頷く七花。
「1人じゃ何もできないもの」
ほのかが静かに言った。
「それも、美羽さんが言ってたね」七花が応える。
2人が顔を見合わす。
「ほのか!」
「七花!」
頷く2人。
「美羽さん、最初からわかってたんだ!」
「千草さん、最初からわかってて!」
人に一刻先までわかるものはいない。
ただ、予想はできる。
あくまでも、予想だ。
予測でもいい。
それができるのは、それに至る経験や知識かもしれない。
千草美羽は、2人の、七花とほのかの出会いを偶然で片付けなかった。
いや、正確には、片付けたくなかったのかもしれない。
2本の糸は、一時絡み合って強さを増していたかもしれないが、解ける時が来る。
そして、バラバラになった糸は、再び絡み合うか、そのままかはわからない。
でも、信じてみた。
お互いがお互いを必要と思うことに。
時には距離を置くことも必要だ。
そうしないと気付かないもの、気づけないものもある。
細かった互いの糸が、補強され強さを増している。
そんな糸が絡み合えば、さらに強さを増す。
こうして、後に高校で2人の名が知れ渡るとは、まだ、この時の2人は知らない。
唯一、千草だけは、予想していたし、希望を抱いていた。




