第13号 頼るのは‥
ステップ21 頼れるということは‥
夏は、自分の考えてることを清華に話すことにした。
その度、清華は的確な返事をくれた。
(まるでちかちゃんみたいだけど‥少し違う感じだ‥)
夏は気付いてないが、千香子は朝日と一緒にいる時間が多かった。
つまり、朝日よりの思考といえる。
清華は?
まだは入ったばかり、何もかも新鮮な彼女は、今までの自分を頼り全てを解析し、判断し、実行している。
朝日や千香子に憧れたり、励まされていても、まだ染まってないのだ。
そんな清華に夏は頼ることにした。
(監督としては失格だろうか?)
頼るのは失格ではない‥全ての判断を自分で下さなければならない。
それに気付くのは、少し先になる夏だった。
夏は、2回の表の守備にはついてなかった。
この試合、選手は限度なく交代できる。
ならば、リードされたし、チームを外から見てみようと思ったからだ。
その結果、清華のアドバイスを聞けたということになる。
夏はグラウンドの選手たちを見つめる。
(最後まで、最後まで‥先生なら絶対そうだ!)
夏の右手に力が入る。
固く握られた拳が決意を現しているようだ。
夏は驚いていた。
葵のホームランのあと、陵は、バスターで出塁。
そこから、ひまり、モッチーと送りバントで、ツーアウトランナー三塁、バッター千香子となった。
「ちかちゃん‥」
「柊さん、コレはまずいですね」
菅原さんの言う通りだと。
ここでちかちゃんは不味い。
選手みんなに、1回の千香子の攻撃が脳裏に焼き付いているからだ。
三塁は前進守備。
二塁は三遊間やや深めの守備。
一塁は前進守備だ。
ライトはセンターよりの前進守備。
レフトは定位置からの前進守備。
やはり千香子の前回のバッティングが効いている。
夏も、こればかりはどうしようもなかった。
さすがの清華も沈黙している。
陵がバスターで出塁したことで、バントの構えでも対応が求められることになる。
単なる送りバントとしてとらえられないのだ。
結果、2人に送りバントをさせてしまった。
そして千香子である。
スクイズかバスターか‥迷いが生じる。
夏が迷う中、千香子はすでに何をやるべきかを決めていた。
瑠璃子と朝日は、お茶を飲みながら戦況を見守っている。
「先生、これって千香子ちゃんチームが勝っちゃいますか?」
「ふふっ、瑠璃子さんも意地悪な質問しますね!」
「そ、そんなこと‥」
「夏くんのチームは勝てないんですか?ってことですよね!」
「は、はい‥すみません」
「気にしないで下さい大丈夫ですよ!真司くんも頑張ってますしね!」
「ええ‥親馬鹿ですみません」
「とんでもありません!いいことです!子供の好きな事を応援する。素晴らしいことですよ」
「先生‥」
「瑠璃子さん、わたしを好きにならないでくださいね」
「もう!茶化さないでください!」
「わかりました!では、本題に戻りますか!‥まず、勝てるか勝てないか‥ですが、夏くんのチームは‥難しいかなー」
「勝てないですか」
「いえ、絶対はないので‥夏くんをはじめ、あの子たちはあきらめてないと思いますし」
「何か理由があるんですね?」
「ですね。まず、この回はちかにやられますね」
「千香子ちゃんすごいですね」
「ちかがすごいと言うよりは、このゲームをよく理解しているってことが大きいと思いますよ」
「あ、先生いってましたもんね」
笑みを浮かべる朝日「例えば、ポジションとか打順とかどう思いますか?」
「えっとー、今、真司がピッチャーやってますし、内野も‥あっ!いつも内野の子がやってます!」
「瑠璃子さん、よく気づきましたね」
「うれしいー!先生に褒められたわ!」
「瑠璃子さん、花丸です!まあ、いつものポジションや打順がダメではないんですが、それがどういう意図で行われてるかですね!」
「どういう意図ですか‥先生!千香子ちゃん!」
「ええ、スリーボールになりましたね‥明らかに警戒してますね」
「次かな?瑠璃子さんちょっといいですか?」そういい瑠璃子に耳元で何やら囁く。
「え⁈」瑠璃子は驚いたまま、朝日をみる。
朝日は頷く。
瑠璃子はその後のことをスローモーションのリプレイのように見ることになる。
真司くんが外角やや高めのストライクの球を千香子は当然待っていた。
千香子はバントの構えになる。
当然内野は前進する。
コーン!
バントにも関わらず強い打球は、夏の代わりに二塁を守っている南野の右横を抜ける!
南野をはじめ、内野陣が前進し始めた時、千香子の策にハマっていたことになる。
「プッシュバント⁈」
無情にも、誰もいないセンターに転がる。
三塁ランナーの陵は、余裕のホームイン。
打った千香子は、二塁で止まる。
「せ、先生の言った通り‥」
瑠璃子は開いた口を両手で押さえながら驚いていた。
「ちかは、追加点のイメージを何通りか持っていたと思います。」
「2回とも、千香子ちゃんが決めてますが、それもですか?」
「瑠璃子さん、いい質問♪‥それは、確定要素ではないですね!」
「じゃあ、千香子ちゃんすごいですね!‥真司もがんばっているけど‥」
「そうですね、ちかは、本来そういうバッターではないですし‥でも、チャレンジしてるんですよ!それは、真司くんも同じです」
「チャレンジですか‥先生に言われると、そう感じますね!」
「わたしが、ちかのチームがリードすると言えるのは、その点もあるんですよ」
「‥真司もそうでした‥先生のおかげで一歩を、チャレンジをできてます」
「真司くんは、がんばってますし、楽しんでますよ、瑠璃子さん」
ニコリと笑う瑠璃子。
瑠璃子は思っていた。
とにかく、野球をみんなと楽しんでほしいと‥
そんな瑠璃子みて微笑む朝日。
「大丈夫。真司くんは間違いなく楽しんでます」
千香子が代打を告げる。
高杉に代わり九条だ。
「ここでか‥」夏は思わず口に出してしまった。
ここまで、真司くんもがんばっている。
しかし、相手が悪い。
真司くんを中心にみんなが集まる。
夏が口を開く「真司くんはこのまま行きます!大丈夫かな?」
頷く真司くん。
夏が真司くんの肩に手をやり抱き寄せる。
そして、みんなに近づくように手で合図する。
近付く守備陣。
「みなさんにお願いがあります!」
千香子はマウンド上の円陣を見守る。
振り向く千香子。
(3回トップバッターは、ももかちゃんかな‥)そう思いながら、ももかをみる千香子。
視線をマウンドに戻す千香子。
「真司くん‥」
千香子が真司くんの球をイチバン受けているのは言うまでもない。
だからこそ、わかることがある。
ここまで色々やられたのははじめてだろう。
だけど、真司くんが楽しんでいるのはわかる。
(よかった‥多分、アレやるよね)
九条に投げた初球に、千香子は驚かなかった。
山なりの超スローボールが、いつもとかわらぬフォームから放たれていた。
九条は、当てることはできるがコレは見逃そうと決め振らなかった。
試合前ー
「千香子さん」
「あれ?真司くんどうしたの?」
「あのー、千香子さんと練習していたあの球投げていいですか?」
「‥超スローボールのことかな?」
「はい!」
「うーん、そうだなぁ‥5球まで!それならいいよ!」
「5球ですね!わかりました!」
「うん。あと、夏くんには最初に言っておいた方がいいよ」
2球目が来る。
フォームではわからない。
構える腕に力が入る九条。
(超スローだ!)
大袈裟に言えば、上から落ちてくる球を打つわけだ。
こらえて、こらえて当てに行く九条。
捉えた!
(くっ!コレも重いのか?!)
体重も力も指先からの感覚も全ては変わらない真司くん‥ただ、超スローボールなだけ‥
それでも、中学生であり、先輩でもある。
(負けるかー!)
九条が振り抜く。
左中間に高く弧を描きボールが飛ぶ。
深めの外野の守備位置の範囲だ。
北川が難なくキャッチ。
2回の裏、夏たちの攻撃。
5~0‥
かなり厳しい状況だ。
打席には、まどかが立つ。
このゲームの中で一番異質な存在がまどかだ。
朝日の弟子であり、大人であり、経験者でもあり、身長は158㎝あり‥いや、158だから出れたのだろう。
お世辞でも何でもないが、違和感がない。
千香子は1点は覚悟していた。
それは、チームのみんなにも言ってある。
最低1点であって、まどかの前にランナーがいたらと考えると恐ろしい。
「子供たちにはいい経験になるとおもいますよ」と、朝日は瑠璃子に伝えていた。
「まどかちゃん、子供みたいに元気ですね」
「まあ、子供ですからね」といい笑う朝日。
「瑠璃子さん、みんなの目をみてください」
そう言われてみる瑠璃子。
「わぁ、みんなキラキラしてますね!」
左バッターボックスに立つまどかは、オーラを纏っているようだった。
夏が動く。
「菅原さん、次行くから準備お願いね」
「は、はい!」急に名前を呼ばれてびっくりしたが、ワクワクが止まらなかった。
一瞬の出来事だった‥
まどかの振り抜いたバットに弾かれた球は、ものすごい速さで、低い軌道を描きスタンドに吸い込まれていた‥。




