第12号 新しい風
ステップ20 清華とももか
7対7の練習試合。
Aチームの攻撃は、高杉、東郷ともに、セカンドゴロ、サードライナーでアウトになり終わる。
一回の表の攻撃をみていた新加入の2人は、それぞれ見入っていた。
清華は、読んでいた本(今回はラノベ)を置き試合に釘付けだ。
千香子と同じチームのももかが羨ましかった。
ももかは、千香子にすぐ駆け寄りベッタリだ。
この2人は、ももかの姉まどかが、何やら興奮していたので付いていったら、朝日と出会ってしまったのだ。
朝日七花に一目惚れをしてしまったと言っても過言ではないだろう。
「ねぇ、清華。かっこよすぎない?」
ももかが朝日をみて言った言葉だ。
その時、清華は紅く染まった顔を本で隠し頷いていた。
姉まどかとのやり取りを見学していた2人に転機が訪れる。
「ねぇ、一緒にやってみない?」と、朝日が2人のところに来たのだ。
その時まどかは、違う選手を指導していた。
2人は、カチコチに固まったように緊張してしまう。
それを察してか朝日は「大丈夫よ、こっち来て遊びましょ!」と、ももかと清華の視線まで合わせて姿勢を低くしニコリと微笑む。
「わたしがコレを投げるから捕って、またわたしに投げて返してくれる?」
そう言って見せられたのは、綺麗な色のカラーボールだ。
グローブもない。
カラーボールでキャッチボールをするだけみたいだ。
朝日は、ももかと清華に交互に投げる。
数十分後‥
「ももかちゃん」
「はい!」
「胸の前でキャッチする準備してみて」
「はい!こうですか?」
「うんうん!そのまま動かないでね!」
「はい!」
そう言って朝日が投げたボールは、隣りの清華の方に向かって行くようにみえた。
「あ、朝日さん⁈」清華が驚く。
と、次の瞬間ボールがももかの方、左にものすごい勢いで曲がる。
「わ⁈」清華はびっくりした。
ボールはそのまま、ももかの両手に向かっていく。
「え⁈あ、あ、朝日さーーん!」
ももかは怖いけど、朝日に言われたことを思い出し、動かないで頑張る。
「パン!」と音を立てて、かめはめ波みたいに開いたももかの両手に当たり、はね返る。
ももかと清華は顔を見合わす。
「す、すごーい!」
「す、すごいです!」
「マジックみたい!」
「ね!ホントね!」
朝日は、そのあとも色々曲げたり落としたり上げたり、ブレさしたりして遊んだ。
「おもしろーい!」
「ね!」
ももかと清華は楽しんでいるようだ。
「楽しんでもらえたかな?」
朝日が2人に聞いた。
「はい!」という返事とともに頷く2人。
そのあと、バッティングや守備、走塁などを教えて、朝日のいう遊びは終わった。
「朝日さん」清華が口を開く。
「はい。清華ちゃん、どうかしましたか?」
「あの‥わたし、野球をちゃんと知りませんでした」
「うん。それは大丈夫だよ。知らなくて当然だしね」
「いえ、わたし‥見ただけで判断してました」
「あら?清華ちゃんなら、それでも大丈夫なはずじゃない?」
「え?」
「んー、わたしからみたら、清華ちゃんの判断と分析はいいと思うよ」
「そ、そうですか?」
「そうよ?それだけ他の人より観察して考えているってことでしょ?」
「‥んー、そ、そうですね!」
清華はなんかスッキリした顔をしている。
それをみてニコリとする朝日。
「清華ちゃん」
「はい!」
「伊達メガネ外したら、その笑顔、もっと魅力的にみえるわよ!」
「⁈‥き、気付いていたんですか?」
「ええ、清華ちゃんの大切なシールドだろうから、それはそれでいいと思うわ。‥ただ、わたしが言いたかっただけだからね!」
「は、はい‥」
俯き顔を真っ赤に染める清華。
「あれー?清華どうしたの?」と、ももかが清華の顔を覗こうとする。
「な、なんでもないよーなんでも!」
そんな2人のやり取りをみて微笑む朝日であった。
天真爛漫‥そんな言葉ぴったり当てはまるももか。
しかし、それは気心の知れた人のみだと朝日はすぐ分かった。
野球、というか、スポーツになるとまったく別人みたいになる。
友達、親友の清華がいれば違うのは一目瞭然だ。
いざ試合になると、途端に喋らないし真剣な眼差しになる。
ももかが今、試合でも普通に話せるのは姉を除けば、清華、千香子、朝日の3人しかいない。
連携には、言葉も大事だ。
朝日は、当たり前に思わないように、みんなに気付いてほしいからこそ、7対7をやってたりもする。
アイコンタクトも素晴らしいが、お互いの声は大事なのである。
大きな声を出すのが苦手な子もいるだろう。
それでも、自分の声を相手に届ける‥意志を伝えることは大事なことなのだ。
朝日は、ももかに目線を合わす。
(その時が来ることを願ってるわよ!)
朝日の視線に気付いたももか。
ニコリと笑い手を元気に振っていた‥。
7対7の練習試合ー
ひまりは、美沙、二宮、小野をあっという間に処理した。
千香子は安堵した。
(まどかさんの前にランナーでなくてよかった‥)
2回の表‥
夏は真司くんをピッチャーにし、美沙を真司くんのポジションのライトに配置した。
もう点はあげられないということでもある。
Aチームは打順は1番から。
夏は思った‥(まさか、ここまで計算してないよね?ちかちゃん‥)
チラッと千香子の方をみる。
千香子は葵と話している。
(やっぱりすごいや)
夏は視線を真司くんに向ける。
(頼むぞ真司くん)
バッターボックスに葵が立つ。
真司くんが投球動作に入る。
全てのチカラが指先に集中し放たれる。
カキーーン!!
打球は空高く飛びアーチを描く。
青空に白球が綺麗な軌跡を残し飛んでいく。
夏は棒立ちだ。
(2打席連続ホームラン?!)
スコアは4-0
「あのー‥」
夏の隣で声がする。
「あのー、柊くん」
我にかえる夏。
「あ、菅原さんごめんね。どうかした?」
「えっと、葵ちゃん、小指一本分違いました」
「?‥小指一本分?」
「うん、最初の打席と今の打席で違ったから‥最初はグリップ小指一本分開けてて、今のは開けてなかった」
(菅原さん、ここからわかったというより、みてた‥いや、みえてたのか‥)
「あのー‥」
「あ、ごめんね」夏はまた謝ってしまった。
「なんで、隙間無くしたんだろ?真司くんの球打つなら、短くバット持った方がいいのに‥」
「⁉︎」
(やられた‥ちかちゃんだなコレは)
「多分、遠心力だと思う」
「あ、なるほどです」清華は全てを理解した。
真司くんの球に対して、葵自身もパワーアップということだ。
葵のスイングパワーに遠心力をさらにプラスする。
つまり、バットのベッドスピードを上げることになる。
それは打てることになる。
「千香子さんすごいですね」夏が何も言ってないの清華はそう言った。
(あれ?菅原さんもすごくないか?)
「菅原さん!お願いがあるんだけど!」
「は、はい⁈」驚きのあまり清華の顔がメガネと本で隠れてしまった。




