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第10号 佐々木瑠璃子

ステップ17 楽しかった



今日の練習には、真司くんの母、瑠璃子るりこさんが手伝いに来ている。


「あのー、先生、今日はみんなでサッカーなんですね」

「そうですね!不思議ですか?瑠璃子さん」

そう言われて素直に頷く瑠璃子。


その間も子供たちはサッカーを楽しんでいる。


子供たちの方をみていた朝日が瑠璃子の方を向き「少しお話ししてもいいですか?」と聞いてきた。

瑠璃子は静かに従った。


「わたしが中学の時の話なんですが、友達にやたらバスケ部に入らないか?って言う子がいたんです」

「え?先生は野球やってましたよね?」


「ええ、やってましたね」

「それでも勧誘を?」


「ですね笑」

「すごい方ですね!」


「すごいと言うか、頭大丈夫か心配しましたけどね‥でも、熱意は伝わってきましたよ」

「先生は断ってたんですよね?」


「はい、バスケ興味ないし、つまらなさそうだから‥って毎回言ってました」

「その人もすごいけど、先生もすごいですね!そんなはっきり言えるなんて‥」


朝日はニコリと微笑む。

「友達ですからね!遠慮しても仕方ありませんよ」

「先生尊敬しちゃいますよ」


「瑠璃子さん、尊敬だけはやめてください。わたし、そんなりっぱな人間ではないので‥」

「ふふ、先生も面白い方ですよね」


「瑠璃子さん!」

「ご、ごめんなさい!続きを聞かせてください」


瑠璃子をみてから、しゃがむ朝日。

「瑠璃子さん、指導者も指導できないものがあるんですよ‥なんだと思います?」そういいしゃがんだまま瑠璃子の方をみる朝日。


(やだ!かわいいー!)瑠璃子はそう思ってしまった。

慌てて現実に戻る。

「指導できないものですか?‥なんでしょう?」


「そ、れ、は、身長です」

「身長?‥確かに言われてみればそうですね!真司もちゃんと大きくなるかしら‥」


「友達からしたら、わたしの身長は希望だったんだと思います」地面に落書きをしだす朝日。

「希望ですか?」


「ええ、友達には見ることのない世界‥それをわたしが持っている‥」

「分かる気がします。先生をみてると、そう思ってしまいますもん」


「なのに、わたしは当時、好きじゃないとか‥本当に最悪ですよね」

「‥先生、そのお友達さんはわかっていたと思いますよ」


「え?」

「先生がバスケやらないこと」


「じゃあ、なぜ‥」

「あら?先生、簡単ですよ‥そのお友達は、先生のこと大好きで、憧れてたんだと思います」


「だとしたら、わたし、相当酷いことをしてたことになる‥他のスポーツはやってたんですが、バスケだけは楽しくなくて‥」

「それは仕方ないと思いますよ!先生も人間ですし。お友達にも、先生にも、理由はあったとしても、全てOKになるわけではありせんし‥ダメだとわかっていても行く時はあると思うんです‥ほんのわずかな可能性に期待して‥」


「瑠璃子さん‥ありがと。それでね、高校卒業してバスケをやることがあったの」

「どうしてですか?」


「あのまこが‥マイケル・ジョーダンをわたしにみせてバスケどう?って聞いてきたんです」

「まぁ!まこちゃんが?しかもマイケル・ジョーダン‼︎」


「やっぱり瑠璃子さんも知ってるんですね」

「それは、真司も好きですからね!」


「わたし、みた時、何も言葉でませんでした」

「神様ですからね!わかります」


「それで、まこにバスケやりたいと伝えたら、まこのチームに誘われてプレイしたんです」

「どうでしたか?」


「結論からいうと‥楽しかった」

「じゃあ?」


「ええ、練習してバスケにハマりました笑」

「先生ったら!」


「それで思ったんです」

「はい」


「色んなスポーツを経験しなければダメなんだって」

「あっ!それで、先生の練習には‥」


「はい。野球だけではなく他のスポーツも入ってるわけです」

立ち上がる朝日。


「瑠璃子さん、わたしは野球を教えています」

「はい」

「でも、子供たちの未来は無限に広がっています。それを選ぶのは、進むのは、わたしたちではないんです」

「先生‥」


「野球だけの視野でいてほしくないんです。サッカーだったり、バスケだったり、バレーだったり、バドミントンだったり、卓球だったり‥好きになっていいんです。やってもいいんです。楽しんでいいんです」

「先生‥アメリカみたいな感じってことですか?」


「そうですね‥わかりやすく言えばそうかもしれません。季節ごとに色んなスポーツを楽しめる‥いいですよね」

「野球を選んだとしても、他のスポーツをないがしろにしないってことですかね?先生」


「そうですね‥色々な世界を知ることは大事ですし、必ず自分のためになると思うんです」

「やっぱり、先生はすごいです!真司を先生のところに任せてよかったです」


「瑠璃子さん‥」風になびく朝日の髪が、陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

それをみて瑠璃子は思った。


(先生は、身も心もなんて眩しい人なんだろ)




朝日が瑠璃子の側にくる。

「え?先生?や、あ‥」

「瑠璃子さん」


「は、はい!」

「わたし、間違ってるのかもしれません」


「は、はい」

「野球だけの体にしてほしくないんです」


「はい!‥え?」

「わたし、野球は筋肉というか、体の使い方が特殊だと思っているんです」


「そ、そうなんですね」瑠璃子は、朝日が近過ぎてドキドキしている。


「なんて言えばいいのか‥そう、静止した状態から動くって言えばわかりますか?」

「あ!はい!わかります!」


「よかった‥とにかく0から一気に100近くまで瞬時に体を動かすと考えたら、特殊で負担のかかるスポーツだと思いません?」

「そう言われるとそうですね」


「おまけに、ベンチで休める‥」

「本当ですね先生!」


「あっ、休めるって言ったら怒られちゃう‥」

「先生‥わたしは怒りませんよ」

2人で笑う。



「先生、わたし、わかった気がします!」

「え?何がですか?」



「先生のチームの子たちがいきいきしているのが‥‥体動かすのが楽しいんですね!」

そう言った瑠璃子は、満面の笑みを浮かべていた。






ステップ18 瑠璃子



瑠璃子は、こないだ朝日にいわれた中で忘れらない言葉があった。


「違うスポーツをすることで、仲間の性格や振る舞いや、その他色々見えたりわかったりするんですよ」

言うまでなく、そのあと瑠璃子は真司をずーっと見ていた。




佐々木瑠璃子28歳(もうすぐ29になる)。

20の時に結婚する。

21の時に真司を産む。

しかし、24の時に離婚。

真司くんは、瑠璃子が育てることになる。

片親だからとか、一人っ子だからと甘やかさないようにがんばってきた。


野球がやりたいと言ってきた時も、2人で話し合った。

決して恵まれた環境ではないが、真司には、楽しく生きてほしいと、いつも願っていた。


そんな真司が、試合に出れなくても毎日毎日練習しているのをみて、瑠璃子も励まされていた。


もともとセンスはないと言われていた。

でも、瑠璃子はそれがなんなの?っと思っていたし、真司も気にしていなかった。


そんなある日、職場の同僚の伊藤さんと話していた時に、真司のはなしにあなった。

伊藤さんもびっくりしていた。

「佐々木さん、だったら会ってほしい人がいるんですけど」

‥と、言われて紹介されたのが、朝日七花だった。


すごく居心地のいい喫茶店で、三人で話を進める。


「なるほど、わかりました」と、朝日が話を聞いてこたえる。

「佐々木さん、わたしの意見というか考えなんですが、お話ししてもよろしいですか?」


「はい。お願いします」

「まずはじめに、次にまたセンスないとか言われたら、わたしに連絡してください」


「はい!わかりました」

「ただ、電話する前に息子さんとお話しして、今のチームをやめるかやめないか確認してほしいんです」


「やめる‥ですか‥わかりました!」

「では、本題に入りますね」


「はい、よろしくお願いします」

「佐々木さん!七花頼りになるから、心配しないでね!」


「はい!」

「まったく、まこったら‥」


「佐々木さん、わたしはセンスはどうでもいいと思っているんです。わたしが思うに、このセンスあるって、教える立場からの物差しだと思うんです」

「朝日さん‥」


「教えたことをすぐできる‥センスある。教えたことをなかなかできない‥センスない‥みたいなかんじです」

「わ、わかりやすいですね!」


「そんなことはありませんよ。でも、ありがとうございます。そしてセンスがあるから上手いとか天才とか言われたりもします」

「そうですよね」

「佐々木さん落ち込んじゃダメだよ!」

「伊藤さん‥やさしい‥」


「佐々木さん、では、センスがなければ下手とか凡人とか、やる意味ないとか言われたとします。それって当たり前ですか?」

テーブルに置いてあるティーカップを見るように、少し下を向く瑠璃子。

「わ、わたしは‥いえ、わたしたちはセンスなんて関係なくここまでやってきました。でも、誰も本当の真司を見てくれない‥それは事実なんです」


「‥」

「七花?どうした?」

「あ、ごめんね‥いや、わたしにも責任あるかなって」


「朝日さん!朝日さんには何にも責任はありません!」

「佐々木さん、落ち着いてください。ありがとうございます。それでも、指導者として考えると、思うこともあるんですよ?」


「あ、朝日さん‥なんで朝日さんがそんなにやさしくしてくださるんですか‥」瑠璃子両目は涙で溢れていた。


「佐々木さん!」まこが佐々木さんの肩を抱き寄せる。

そのまま話し出すまこ。

「佐々木さん、七花はね、色んなものが見えててすごいんだよ‥わたしたちより遥かに視野が広いんだ」

「伊藤さん‥」


「見て見ぬふりとは違うのですが、わたしは見てしまう見えてしまう‥でも、何もできない時の方が、遥かに多いです」七花はそっと話を再開する。


「でも、それは朝日さんのせいでは‥ありません」瑠璃子は潤んだ瞳で朝日をしっかりと捉える。

「できないことの方が多いといったでしょう?‥つまり、できることもあるんです」

「まあまあ、七花は十分やっていると思うよ」そういい瑠璃子の方をみるまこ。


天を仰ぐ朝日。

「わかりました!この話しはここでおしまいにしましょう‥と言うことで、まこ、お願いがあるの」


まこは、キョトンとしていた。



朝日のお願いは、まこが朝日たち間多理団の練習を、瑠璃子さん真司くんと見に来るようにというものだった。


その際、自分達には会わず遠くから見てほしいと伝えた。


朝日は思った。

(楽しさが)伝わるといいけど‥






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