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第1号 朝日とのはじまり

天才や恵まれた人や子たちが注目を浴びるスポーツ界。


突出した人だけがプロになったり、注目を浴びる。


一方、活躍できない、成長しない者は、その世界から去るか排除される。



それが、幼少期から起こり得るのも現実だ。


せっかくチームに入っても、挫折や耐えられずやめてしまうのも事実だ。



そんな世の中に、ひとつの野球チームがあった。



間多理またり少年少女野球団‥


ここには、天才や才能に満ちた子はいない。


ただ、野球が好きな子たちがいる。






ステップ1 先生と真司くん


今日も、朝からスマホが鳴る。

ゆっくりスマホを取り、電話にでる、


「はい」

『おはようございます!佐々木です!朝日先生!うちの子がセンスないって言われて‥』

「やめさせられたんですか?」

『ええ‥でも、朝日先生には会いたいみたいで‥すみません‥』

「大丈夫ですよ!‥うーん、そうだなぁ‥今日空いてますか?」

朝日はベッドの上で仰向けで、ストレッチしながら、話している。


『あ、空いてます!いいんですか?』

「ええ、練習もありますし、問題ありませんよ」

『先生、後程よろしくお願いします!』


話が終わり、天井を寝たまま見る朝日。


急に起き上がる。

「よし!今日もがんばって!」そう言って両頬に手のひらで軽く叩き気合いを入れる朝日。


朝日七花あさひななか26歳。

間多理団の監督である。


ちなみに、朝日は先生ではない。

だだ、関わった人みんなが、先生といってしまうほど、いいたくなるほど信頼と信望にアツい人なのだ。



佐々木親子との面談の時間。


真司しんじくん、これに記入してくれるかな?」

と、朝日が渡した紙にはこう書いてあった。



1、自分のいいところと、わるいところを書いてください。


2、どのポジションが好きですか?



3、スポーツは何が好きですか?




「はい、書いてください」

そう言われて書き始める真司くんと、それを見守る母親。



「朝日先生、書けました!」

しばらくして真司くんが教えてくれた。


朝日はスマホのタイマーをみる。

「じゃあ、見せてもらうわね」

そういうと真司くんは大きく頷く。


朝日は真剣にみている。

どのくらいの時間が経過したのだろうか?

佐々木親子には長くも短くも感じられた。


「はい!わかりました!真司くん、おつかれさまでした」

「先生、どうですか?」

「お母さん、結論からいいますと、真司くんの入団は問題ありません」


それを聞いた母親、瑠璃子と真司くんは抱き合いながら喜んでいた。





真司くんの解答



1、自分のいいところと、わるいところを書いてください。

いいところは、野球が好きで打つことです。

わるいところは、あきらめない、へたなところです。


2、どのポジションが好きですか?

打つことにせんねんできるのでDHです。 


3、スポーツは何が好きですか?

野球、サッカー、バスケットボール




「では、早速試合をしましょうか!」

「し、試合ですか⁉︎」

母親瑠璃子が驚くのは無理もない。

真司くんは、前のチームでは試合にすら出させてもらえなかったからだ。


「お母さん、うちのチーム知ってますよね?」

母親瑠璃子は思い出した。

「そ、そうでした!先生のチームは‥」


「トータルベースボールでしょ!」と、真司くんが嬉しそうに言った。



朝日七花のチームにスター選手や天才はいない。




間多理団練習試合ー


真司くんはマウンドに立っていた。



「真司がピッチャー⁉︎」母親瑠璃子は驚いていた。


先生が、試合前に真司くんとキャッチボール、バッティング、走塁、守備、などをやっていた。


打つのが大好きな真司が、今ピッチャーなのだ。


「先生、どうしてうちの真司が‥」

「お母さん、見ていればわかりますよ」といいニコリと笑う。


佐々木真司、8歳。

前チームでは一度も出番なし。

投げられる球種は、ストレートのみ。


なのに、朝日がピッチャーに起用した。


プレイポール❕

試合開始である。


真司くんは、さぞ緊張しているだろうと思いみている母親瑠璃子。

ところが、そうではなかった。


真司くんは楽しそうな顔をしていた。




真司くんにとって、キャッチャーの球種のサインは無意味だ。

ストレートしか投げれない。


頷く真司くん。

ノーワインドアップから右足、左足、腰、肘、ボールを持つ手、指先と力が伝わり放たれる。


アウトコース、左真ん中にボールが軌跡を描く、右バッターのゼッケン8番が振り抜く!


バッターは思った‥芯を捉えたと。


しかし、ボールはボテボテのゴロ。

サードが普通にさばきアウトに。


「先生?真司のボール相手にとっては絶好球じゃなかったですか?」

「ええ、絶好球でしたね!」


「なんで、ゴロになったんですか?」

アウトを取って本当は嬉しい母親瑠璃子は、その感情を抑え聞いている。

「お母さん、真司くんの球は‥重いんですよ‥」


「重い‥ですか」

「わたしは、野球をはじめスポーツを楽しんでほしいんですよ」


「よく存じておりますよ。でも、それと真司の球威と関係があるのでしょうか?」

「お母さん、真司くん毎日練習してますね?」

「え?ええ、毎日、自分で決めたメニューをやっていますよ?なぜわかったんですか?」


「それはですねー、真司くん芯がブレないんですよ」

「芯がブレない‥でも、試合にはでれませんでした」


「そこなんですよね!現状、スポーツ全般に言えるんですが、勝つためのスポーツになってるんですよ。勝つのはいいことです。でも、本当に楽しんでいますか?」

瑠璃子は答えに困っていた。


「真司くんは、野球が好きなんです。だから毎日練習している。上手いとか下手は関係ありません。そして、それは必ず結果に繋がるんです」

「結果に繋がる‥でも、先生、真司は

一回も試合に出たことないくらい‥」


朝日はニコリと笑う。

「試合に出れなければなんですか?」

瑠璃子は返答に困る。


朝日は真司くんをみている。

3人目のバッターをセンターフライに打ち取り、無事その役目を終えた。


「9球ですか‥がんばりましたね」と呟く朝日。


自分の息子があんなに楽しそうにプレイしているのを見て、瑠璃子の目から涙が溢れてきた。


「真司くん、どうでしたか?」

「先生!野球って、やっぱり楽しいね!」満面の笑みで語る真司くん。


「次はバッターです」朝日が真司に言う。

「はい!」

1番は真司くんなのだ。


「お母さん、ピッチャーは27球で交代なんですが、バッターはまだ決めてません」

「わたしは、何にも心配してません!先生にお任せいたします!」瑠璃子は、まだ泣いていた。



瑠璃子は驚いた。

真司が左のバッターボックスに立っているからだ。

「せ、先生、真司は右だったはずですけど‥」

朝日がニコリと笑う。

「お母さん、真司くんは左バッターですよ!」


よくあることだ。周りのみんなが右打ちなら、自分もそうだと思いバットを振る。

「真司くんも、バットが振りやすいと思ってるはずです。利き目利き耳が右、軸足の左がブレない‥これらは左に適しているんですよ」


キーン!と、心地よい音が響く。

三塁線のファールだった。


「真司楽しそう‥」瑠璃子は両手で口元を抑え泣いている。


結局。セカンドライナーで終わったのだが、朝日は満足そうな顔していた。




2回の表は真司くんの投球数は13。

内野安打の1を含む無四球で終わった。


「ピッチャーの真司くんは、ここまでです!おつかれさまでした!どうでしたか?」

真司くんの顔はやや赤くなっている。


「先生!野球って、すごく楽しいですね!」

母親瑠璃子は、その顔を忘れることができなかった。




ステップ2 先生とひまり


大塚おおつかひまり、5年生、間多理団の女子三銃士のひとりだ。

「ひまりちゃん、今日は1番、センターでお願いします」と、朝日から言われたのは、佐々木真司くんの入団試合でのことだ。


「はい、先生。それで、ポイントはなんですか?」と、ひまりは躊躇ちゅうちょなく聞く。

「そうだなぁ、とにかく、遠慮せずに打ってください」

朝日は笑顔でこたえる。


「わかりました!先生」



ひまりは、以前いたチームで目立っていた。

野球をしていなければ、大人しく(見えて)かわいらしいし、身長も高い。

そして、この時期は男子よりも身体の成長が早い分、有利になり、プレイでも当然注目を浴びる。


ただ、男子の成長が始まると、あっという間に並ばれ抜かれていく。


それでも、がんばっていたひまり。

それでも、男子に敵わないひまり。


野球は大好きだ。

「女子でプロ野球選手になるの!」それがひまりの夢だった。


現実は厳しい。

ひまりは足は速かった。

守備も上手い。

バッティングはミート中心の、コンパクトなスタイルだ。

しかし、肩は弱い方だった。


足が速いので外野で‥が、それまでの監督の起用基準になっていた。


結局、このままではダメだと、所属していたチームを辞めようと考えていたら、朝日に出会ったわけである。


練習試合に間多理団が来たのだ!

特に目立つ選手、エースや天才が、いないのに、ひまりのチームは10-1で負けた。


ひまりは心が踊った。


「野球ってすごい!」

ひとり興奮していた。

そこに、朝日が現れる。

「あっ!18番ちゃん!おつかれさま!」

「おつかれさまです!大塚ひまりといいます!あのー‥一つ聞いていいですか?」


「大丈夫だよ!いくつでも聞くよ?」とニコリと笑う朝日。

「あ、ありがとーございます!あの‥みんな楽しそうにプレイしてるのに、勝てるのはなぜですか?」


「18番ちゃん、わたしのチームに入ればわかるよ!その答えがさ!‥ね!ひまりちゃん!」


眩しかった。

本当に何もかもキラキラ輝いて見えた。


後日、ひまりはチームをやめ、朝日の所に赴く。


「来たわね!ひまりちゃん!よろしくね!」

「こちらこそよろしくお願いします!」


すぐ、朝日とマンツーマンで練習が始まった。


そして練習試合。

ひまりは、右打席に入っていた。



ひまりは左打ちだ。

ミート中心のコンパクトなスイングが持ち味だ。

だが、朝日は「ひまりちゃん、ホームラン打ちたくない?だったら右打ちしましょ!」と、言ってきたのである。


ひまりは、右で打てないわけではないのだが、左打ちの時のようにスイングできないと悩み、右では打たないようにしていた。


しかし、朝日にはその右打ちを進められる。

「ホームランを打ちたければ‥」ひまりはドキドキしていた。


朝日が右打ちでホームランと言ったのには理由があった。


まず、ひまりの左腕の強さ。

左打ちでは、しっかりサポートする。

右打ちでは、しっかりリードする腕なのだ。


朝日は、もしかしたら左投げ‥と思ったが、今回は言わないことにした。


この練習試合。

ひまりは、3番センターで出場している。

しかも右打席。

ひまりの四打席の結果はこうだ。


三塁打、四球、三振、本塁打。


最初から、全振りの効果が出ていた。

飛んだ場所も右中間だったのもあるが、ひまりの足もあり、見事な三塁打だった。


そして、ラストの打席の本塁打。

大きなフライかな?っと思ったが、フェンスを超えた。



「先生、わたし‥はじめてです」

ベンチに帰ってきたひまりは、自分の両手をみながら、そういった。


「ひまりちゃん、よかったわね!これからスタートだよ!」

ひまりは、この人に一生ついて行こうと、その時思った。


ひまりの守備と肩については、また後日話すことにしよう。





そのひまりは、真司くんの練習試合では、1番センターででていた。


右投げの真司くんに対して、右打ちを選んだ理由は、当然、本塁打狙いだ。

(先生が遠慮するなっていってたし)


真司くんが、投球動作をはじめた。


「来る!」

(外角真ん中⁈いける!!)

思いっきり振り抜くひまり。


(芯を捉えた!)

「え⁈」

芯を捉えたはずなのに、飛ばない‥


手が痺れている‥


「さすが先生‥」

ひまりは嬉しそうだった。





ステップ3 先生とチカコ


間多理団の正捕手は、関千香子せきちかこ5年生だ。


ぽっちゃり気味の彼女は、性格もおっとりしている。

キャッチャーが、キャプテンやチームをリードしていくことが多いが、千香子はそのタイプではない。


肩が強いわけでも、キャッチングがズバ抜けているわけでもない。

それでも、正捕手を任されている。


千香子は、視野が広いのと、観察眼がある。

また、座ったままの方が、投げる球に勢いがあるのも、採用のひとつだ。



そんな千香子も、最初は選手ではなかった。

「七花さん、これどうしますかぁ?」

朝日に、選手のチェックリストをみせる千香子。

「ちかちゃん、いつもありがと。で、どうだった?」

朝日がグラウンドに用意した椅子に座る。

千香子も朝日に促されて座る。


「えっとですね‥特に気になったのは3人です。高杉くんは、腕の振りがうまく伝達できていないですね。三郷くんは、左膝負傷しているかもです。二宮くんは、体調あまりよくないと思います」

さらさらと話す千香子。


「さすが、ちかちゃん、頼りになるわ!」そう、朝日に言われ頬を染める千香子。

「そ、そんなことないです」小さい声がさらに小さくなる。


「ちかちゃん」

「はいっ!」ちょっとびっくりした千香子。


「野球やらない?」朝日の顔は輝いている。

「あ、あたしがですか?」


「そう、ちかちゃんが!その力で、みんなを幸せにするのよ!」


スポーツは見るのは好きだ。

でも、自分がプレイするのは別だ。

ぽっちゃり体型だし、得意ではないのはわかっている。


そんな自分が野球をプレイ?

七花さんがすごいのは知っている。

言ってることもわかる。

きっと意味があるのも。


でも、自分を信じられない自分もいる。


「ちかちゃん、ちょっと遊びましょうか」と、朝日にグローブを渡された。


それは、キャッチャーミットだった。


ストレッチをし、キャッチボールをはじめる2人。

「あの、七花さん。あたしキャッチャーなんですか?」

「びっくりしたかな?」

朝日の言葉に頷く千香子。


急に、千香子のそばにくる朝日。

「いい、ちかちゃんは、みんなを引っ張らなくてもいいの!ピッチャーを引っ張り助けてあげて!その、広い視野で‥」

「引っ張らなくていい‥みんなをリードしなくていいんですか?」

それを聞いてウィンクする朝日。


「みんなのリードは、持田もちだくんに任せればいいから!」

それを聞いて笑う千香子。

「モッチーですかぁ‥リードしそうですね!」

2人でクスクス笑いながら、話がさらに盛り上がっていった。


「‥ということで、今日から、ちかちゃんにキャッチャーをやっていただきます!」

もともと信頼されていた千香子だ。

みんなからも、すんなり受け入れられた。




佐々木真司くんの入団試合は、真司くん側のチームになった。

これは、朝日の狙いでもある。

「ちか、リードは、何手目かだけでいいからね!」

朝日のその言葉を聞いて、千香子は全てを察した。


球種はひとつ。

コントロールがいい。

記憶力がよい。

ボールが飛びにくい。


千香子の頭が活発になる。

「真司くん!」

試合前に打ち合わせをする。

「今日はよろしくお願いします!」真司は深く頭を下げる。


すぐ頭を上げさせて本題にはいる。

「サインのことなんだけど‥」





マウンドの真司くんにサインを出す。

2本指、その後はグーパーする。

このグーパーはダミーだ。

ミットを構える。

違う場所に構える。

また元の場所に構える。


「真司くんは頷く」

そして投げる。

千香子が2手目構えた場所、真ん中外角に球が向かう。

千香子は、内角低めから外角真ん中にミットを移動させる。


バッターのひまりがその球に喰らいつく。

(芯を捉えたと思ってるわよね、ひまりちゃん‥)


ひまりの打球は、ボテボテのサードゴロ。


千香子のフェイクリードでわずかに遅れ、慌てて振ったことにより、タイミングが早くなってしまったのだ。

もちろん、真司くんのコントロールと球の重さあっての話になる。


(また、新しい子を導けるのは、楽しい!)

千香子はマスク下でニコニコしていた。






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