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 疲れないよう休憩をちょこちょこと挟みながら、俺は領都の側にある森へと向かった。

 隠蔽魔法は効果時間がそれほど長くないため向かう途中で切れてしまったが、森に行く物好きは少ないようで誰かと鉢合わせることは幸いなかった。

 そして森へは問題なくたどり着くことができたのだが、ひとつ気になることがあった。


 ……森の入口に繋がれている、この白馬はなんなのでしょうね。


 鞍などの装具を見るに、この白馬は貴人の持ち物なのだろう。

 しかし近くの地面を見ても、馬の蹄の痕跡は一頭分しかない。

 どこかの若君が、腕試しにでも来たのだろうか。……鉢合わせないようにしたいものだな。

 とはいえ、イーディスは八歳の魔力鑑定以来屋敷に軟禁されているので社交の場には一切出ていない。

 万が一顔を合わせたとして、正体がバレることはそうそうないか。

 そんなことを思いながら、森へ足を踏み入れる。


「ふむ……」


 森は暗い雰囲気で、まるで肝試しにでも来たような気分だ。

 そして、魔物が放つ気配が濃いな。……いや、濃すぎないか?

 この土地の民たちがよほどの負の感情を溜め込んでいるのか、討伐隊が機能していないのか。

 公爵家は一体なにをしているんだ。ここまで魔物を放っていたら、そのうち魔物の群れの暴走──スタンピードが起こりかねないぞ。

 落ち葉が降り積もった地面を、さくさくと音を立てながら歩く。

 すると近くの茂みががさりと鳴り、こちらを値踏むような視線を感じた。

 魔物は案外ずる賢い。魔力量や力量などを敏感に感じ取り、無謀だと思えば襲いかかってくることはない。

 だから前世の魔物退治の時は、魔力量を偽装する魔法をかけてから討伐に向かっていたっけ。

 今の俺には、その偽装魔法を使うような余力がない。


 ……さて、魔物は俺のことをどう判断するのかな。


 ざざざざっと茂みが大きく鳴り、悪意を持った気配がこちらに近づいてくる。

 魔力量はあるものの、戦う能力には乏しいと判断したらしいな。

 まぁ、当たりだな。

 魔物がそう感じたように、今の俺は前世のようには戦えない。

 正面からまともに相手にすれば、すぐに命を断たれてしまうだろう。


 だから──『罠』を張った。


 茂みの奥から飛び出してきたのは、巨岩のように大きな熊の魔物だった。

 やつは勢いのままに、こちらに飛びかかってくる。そして──。

 俺の影から飛び出した一本一本が一メートルほどの長さがある無数の針に、その巨体を貫かれた。

 

『ガァアアアアアアアア!』


 熊の魔物は咆哮を上げながら、地面をのたうち回る。

 ふむ、前世よりも威力が落ちるな。昔の俺なら、確実に今ので仕留められていた。

 この魔法は襲いかかってきた敵に反応して、自動的に攻撃を加えるものだ。

 影に闇魔法でちょちょいと細工を加えるだけで完成し、発動までのプロセスも単純なので隠蔽魔法のような集中も必要なく体力の消費も少ない。その代わり魔力の消費は激しいが、そっちの心配はもとよりないもんな。


「……行け」


 命じながら熊の魔物を指差すと、影からはさらに針が飛び出し喉元に飛来する。

 喉を何本もの針に刺し貫かれ、熊の魔物はしばらくもがいたあとに絶命した。


「なるほどなぁ」


 自身の手を、握ったり閉じたりさせる。

 生まれてこの方、魔法を使ったことがなかった体だ。魔法の練度は前世と比べてかなり劣るようだ。

 体力をつけながら、魔法の練度も上げていかねばなるまいな。

 そうしないと、複雑な術式を伴う上位の魔法は使えない。

 その時──。


「た、助けて……っ!」


 そんな声が耳に届いた。

 大人の声ではなく、少年のもののように聞こえる。


 ……まさか。あの白馬の持ち主か?

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