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 身につけている衣服を、すとんと床に落とす。

 すると、ドロワーズとシュミーズを纏った華奢な肢体が現れた。


「うわ……」


 鏡を見て、俺は絶句する。

 先ほどは華奢と言ったが訂正しよう。

 これは、完全に栄養が足りていない体だ。

 あまりの手足の細さは見ていて不安になるし、シュミーズを捲り上げてみるとあばら骨が見事に浮き上がっている。ちなみに、胸は哀れなくらいのまな板だ。子どもの頃からまるで成長していない。

 そして、体のあちこちには家族につけられた生々しい傷痕がある。見ていて、痛々しいばかりだな。

 知らない令嬢の体を覗き見ているような罪悪感が過ったが、この体で生きていくのだから慣れねばならんな。

 イーディスには一日二回の食事が与えられているが、その量は食べ盛りの年の子に与えるにはささやかすぎるものだ。

 よくて野菜のスープと硬いパン。悪い時には骨に肉が少しばかり残ったものだけ……これは恐らくだが家族の食べ残しだろう。日々がそんな調子である。

 そのような食事で陽にもろくに当たっていないのだから、不健康で当然なんだよな。

 レッドグレイヴ公爵家の一門には前世で世話になったし、公爵夫妻とは何度も顔を合わせたことがある。

 そんな家が娘にこんなことをしているなんて、少しばかりショックだな。

 まぁ、それはいいとして。


 ……魔法がどこまで扱えるか以前に、体を健康な状態にしないと逃げきることは難しいな。


 この体のままで旅に出れば、疲労や病魔も敵になるだろう。

 栄養不足を補うには……力のある魔物の肉を食らうのが一番か。

 魔物は人々の負の感情から生まれる生き物だ。人々を襲って負の感情を引き出しさらなる繁殖を遂げようとするのが、やつらの厄介なところである。

 魔物の肉には、家畜の肉と比較にならない栄養と魔素が蓄えられている。魔素というのは体の魔力回路を補助してくれる物質で、取り込めば取り込むほどに魔力の扱いが容易になるわけだ。前世では魔力回路への補助など不要だったが、長くの間魔法を使っていないイーディスには必要かもしれない。

 ──魔物の力が強ければ強いほど、魔素を多く溜め込んでいる。

 腕試しも兼ねて、魔物狩りにでも行こう。

 先ほど浄化した白のワンピースに着替えてから、俺は窓の方へ視線を向けた。逃亡防止なのか、イーディスを絶望させるための意地の悪い演出なのか。イーディスの部屋の窓にはしっかりとした鉄格子が嵌っている。

 その鉄格子は俺がぱちんと指を鳴らすと、枠ごと外れて床に落ちた。


「久しぶりの魔物狩りだな」 


『獅子王』だった頃は。魔物の討伐に駆り出され、国中を駆け回っていた。

 正直なところ、窮屈な公務よりもそちらの方がよほど楽しかった。


 ……この国は、俺が死んでからどう変わったのだろう。


「……兄上の治世か」


 兄上がどんなご様子なのか。それは正直気にはなってしまう。俺を殺したことで、少しでも心安らかになられたのだろうか。


「もう、考えるのはやめよう」


 気にしても仕方がないことだと、俺は首を横に振る。

 そして、身を翻すとひらりと窓から外に出た。

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