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 少し、前世の話をしよう。


 俺はいわゆる側室の子で、兄上は正妃の子だった。

 兄上と俺の年齢差は五歳。ほかに男兄弟はいないが、正妃の子である妹が一人いる。

 俺が八歳の魔力鑑定で規格外の魔力を持つと判明するまでは、俺たちはそこそこ仲のよい兄弟だったように思う。

 俺は『大人になったら国王となる兄を支えるのだ』というふうに自然に考えていたし、兄上にも生来の俺の野心のなさが伝わっていたのだろう。


 ──それは短い、平和な時間だった。


 兄上は穏やかな人格で、さまざまな課題と真面目に向き合いひとつひとつ丁寧に越えようとする『努力の人』だった。

 魔力鑑定で俺が莫大な量の魔力を有するとわかるまでは、皆が誠実で努力家な兄上が王になるのだと信じて疑わなかったのだ。

 しかし──。


『歴代の王族の中でも見ない魔力量だぞ!』

『ローワン殿下は奇跡の子だ』

『これは、王の器だ』

『ローワン殿下こそ、王に相応しい』


 俺の魔力鑑定の結果を目にした大人たちは、蜂の巣を突いたような騒ぎになった。

 そして皆が俺のことを『王』に相応しいと口々に言う。

 その光景に俺は困惑し、儀式に居合わせた兄上に助けを求める視線を向け──。


 心の底からの、後悔をした。


 いつもは優しい笑みを浮かべている兄上が、憎々しいと言わんばかりの形相で俺を睨んでいたのだ。

 呼吸が止まると思った。憎しみで人が殺せるのなら、俺の心臓はこの時に停止していただろう。

 この日から、兄上は変わった。俺のせいで変わってしまった。

 生き方が享楽的になり、国のことなど顧みなくなってしまったのだ。

 兄上は成人してからたくさんの妃を娶った。

 その第五王子とやらも、その妃の子の一人なのだろうな。

 俺が生きていた頃には子は三人だったと思うのだが、一体何人増えたのかな……。


 ──とにかく。第五王子殿下は一体どんな人物なんだ?


 イーディスは軟禁されているため、基礎的な勉学は修めているものの世間の噂などにはとても疎い。記憶をどれだけ辿っても、第五王子殿下の人品に対する情報はまったく思い当たらなかった。

 リアナがこんなにも嬉しそうに勧めるのだ。きっとろくな人物ではないのだろうな。

 それ以前に……。

 兄上の子ども、なおかつ男と結婚なんてしたくないのだが!

 かといってこの体で女性と……というのも考えものだな。

 うう、この件に関しては今はあまり考えないようにしよう。

 顔色を真っ青にしている俺を見て、リアナは楽しそうに笑う。


「あら、すごい顔色ね。第五王子殿下のことをあんたも知っているの? メイドの噂話でも聞いたのかしら」

「いえ、詳しいことは……」

「あらあら、そうなのね。一週間後にこの屋敷にいらっしゃるから、殿下との素敵な出会いを楽しみにしているといいわ」


 そう言うリアナは非常に高揚している様子だ。このまま高笑いでもはじめそうだな。

 ──一週間後か。

 王族ながら『魔力なし』の令嬢を押しつけられるような人物だ。

 なにかしらの厄介事を背負っていることは、間違いないだろうな。

 これは、どうしたものか……。

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