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「なんなのよ! 今まで……魔力なしを装っていたの!?」


 リアナはそう言いながら、地団駄を繰り返す。まったくもって、令嬢らしからぬ所作だな。


「えーっと。リアナお姉様はどうしてこちらに?」

「魔物が出たらしいから様子を見てこいと、お父様に言われてきたのよ!」


 高位魔法の反動で裂けてしまった皮膚の痛みもあって顔を引き攣らせながら訊ねれば、怒りながらもリアナは律儀に教えてくれる。

 なるほど、公爵家も一応はこの事態の収拾を図ろうとしたんだな。……派遣されたのは、リアナひとりのようだが。

 たしかにリアナはレッドグレイヴ公爵家一の魔術師ではあるが、こういう事態の事後処理には向いてないと思うんだがなぁ。死竜は倒せたかもしれないが、街の損害やけが人は放置でなにもせずに屋敷に戻ってしまいそうだ。

 案外真面目で事後処理に向いてそうな、ディリアンあたりを帯同させればよかったのにな。

 いざという時の適材適所の判断ができないのはよくないと思うぞ、レッドグレイヴ公爵。俺はついつい、胸の内でレッドグレイヴ公爵にダメ出しをしてしまう。

 ……というかどうしようかな。よりにもよって、リアナに見つかってしまうとは。

 ああもう、未来の平穏な生活に暗雲が漂ってきたぞ!


「ちょっと! なんとか言いなさいよ!」


 リアナは激昂しながら俺に氷の刃を放つ。しかしそれは、ローレンスが張ってくれていた防護魔法によって簡単に弾かれた。


「見間違いですよ、お姉様」

「見間違いのはずないじゃない!」


 リアナは興奮しながらまた地団駄を踏む。

 ああもう、騒がないでほしいなぁ。 なんだなんだと街の人々が集まってきているし、面倒なことになりそうだ。


「さっきすごい魔法を使ったのって、あの子だよな?」

「ああ、そうだ。俺も見たぞ」

「リアナ様を『お姉様』と呼んでいるが、ご一家にあのような方はいたか……?」

「……神々しいお姿だった。あの人は聖女か?」

「そうか、聖女様……」


 そんな噂話も聞こえてきて、俺は苦笑いをしてしまう。

『聖女』というのは、この国の伝承に残る救国の乙女のことだ。

 戦で先陣を切り絶望的だった状況をひっくり返しただとか、百人の怪我を一気に治しただとか、さまざまな逸話を持った人物である。そんな大人物と重ねられても困るんだがなぁ。


「なによ、さっきの強大な魔力は! あんなもの、今までどうやって隠していたの……!」

「お姉様。そのお話よりも今は、この街の惨状をどうにかする方が先決なのでは? まずは街の被害状況の確認を──」

「うるさいわね! イーディスごときがわたくしに命令しないで!」


 リアナは癇癪を起こす子どものように叫びこちらに何度も魔法を放ったが、それはすべて防護魔法によって弾かれてしまう。ローレンスの防護魔法は丈夫だなぁ。


 ……そろそろ解放してくれないかな。


 実のところ、両手からの出血で意識が朦朧としているのだ。痛みもひどいし、早くローレンスのところに行って治癒魔法をかけてもらいたい。正直気絶してしまいたいが、そんなことになったらリアナになにをされるかわからないしなぁ。


「我が君、妙な輩に絡まれているようですが……。大丈夫ですか?」


 声をかけられて振り向けば、いつの間にかやって来ていたローレンスがすぐ側に立っていた。

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